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【4】検定倶楽部の人々 7

「おばあちゃんの死に目に会えなかった」


「良かったのよ、それで。母さん、孫達には見せたくなかったのね。でも……ねえ、加奈江」


「はい?」


「あの頃は今日を想像できなかったけど、もし生きてたら喜んだでしょうね。だって、裕ちゃんがうちに下宿するんだもの、きっと田舎引き払って同居するんだって言ってきかなかったと思うわ」



おばあちゃん。



裕は視線を落とす。


伯母と両親は、しんみりしながら仏間を眺めた。


喪が明けて間もない家は、まだほんのりと線香の香りが漂う。



帰ってきたご挨拶しなきゃ。



裕は仏間へ向かい、薄い水色をした線香を1本つまんだ。


一般的な線香とは違って爽やかなアロマのような香りだった。


この日、夕食には早すぎる時間に、ささやかながら小さな宴席が設けられた。普段の食卓に毛が生えた程度の豪華さだ。


しかしながら、道代伯母は、姪の好物を忘れずに用意した。


それは百合根入りの茶碗蒸し。


母の味付けとは少し違うけれど、どこかに懐かしさを感じる味だった。


裕は、もしかしたら、彼女が知らない母の母、祖母が教えたものなのかなと思った。


ささやかな宴はすぐに終わり、夜が更ける前に帰った両親の、背中は少しだけ小さく見えた。


ばいばいと見送ったらすぐに家に入ろうと思ったのに、見逃してはいけない気がして動けなかった。


「――さびしい?」道代は言う。


「ううん、別に」裕は即答する、ちょっとオーバーに。


「そうね、裕ちゃんはね。でも、あの子たちは、寂しがると思うな」


伯母の視線の先には、角を曲がってもう姿が見えない両親がいる。


少し、胸が痛む。


「だ、大丈夫だよ。猫もいるし、お弟子さんたちもひっきりなしに来るし」


「――だと思う?」


答えられない。


「いつか、あなたもわかる日が来るわ」


さあ、早く入んなさい、冷えるわよ、と道代に促されたがしばらく裕は動けなかった。



念願の独り立ちだったはずなのに、明日から、お母さんもお父さんもいないんだ。



いつまで?


もしかしたら、これからずっと。


――一生なのかも。


寂しいのは私の方だ。


少しだけ、鼻の奥がツンと痛くなる。


「おばさん!」裕は自分をごまかすように叫ぶ。


「ちょっと出かけてきます!」


「加奈江たちのお見送り?」


「ううん。買い物!」


「買い物って……これから? 足は? 大丈夫なの? もう明日にしなさいな」


伯母が尚も言う声を背に、彼女は駆け出した。



他の外国語のテキストなら抵抗ないのに、英語だと何でいやだと思ってしまうんだろう。


恥ずかしいと……思っちゃうんだろう。



恥はみっともないという心から出るもの。


失敗を恐れるな、と彼女の父はよく言う。何か新しいことに取り組む時、できないのは恥ずかしいことじゃないぞ、と、自分にも彼が主催する書道教室へ通う生徒達にも何度も何度も口にしていた。



それはね、わかるの。


でも、トライしてできなかったってことはすでに失敗してるわけでしょ。それでも何度もやりなおしていいのかな、恥ずかしさを乗り越える秘訣みたいなものが――あるのかな。



『自分が、何ができて何ができてないかわからん奴に判断はできんだろうさ』



仁のひとことが何度もリフレインする。



くやしいけど、あいつの言いなりになるの、しゃくだけど。


ちょっとだけ口車に乗ってやるわよ。



裕は通り過ぎた本屋をUターンして戻って中に入り、テキストを3冊、レジへ出した。



あのう、私じゃないんです、頼まれたんです、ええ、使うの私じゃありませんから!



心の中で山程言い訳をする自分が情けなくなりながら、どうしてこんなに心が乱れるのかわからなくて。



仁だ。


仁のせい。


相手が彼でなかったら、私、もっと素直になれたと思うのに、何故なんだろう。



――調子狂うよ。



ふと見上げたビルの屋上には、ぼんやり浮かぶアドサイン。夜目にも鮮やかに浮かび上がる白。winterが裕を見下ろしている。



どこを見てるかわからないモデルを見上げる私。


私もきっと、何を見たらいいかわかってない。


なら……


やらなきゃいけないことをひとつずつ、片付けていこう。



裕は少し小高くなっている道を上りながら、水流添家への道を辿った。


戻った部屋には、今日渡されたテキストが彼女を待つ。



やりますか。



勉強する為にここにいるんだもん。


憧れるだけなら、誰にもできるんだもん。



兄貴面した仁の顔を思い浮かべ、「あいつは敵!」と心の中で念仏のように唱えながら、裕は椅子に座る。


彼女の腕の中で、本が入った紙袋がかさこそと音を立てた。


あとのあがき書き


いつもありがとうございます、作者です。


今回より、新シリーズ開始となります!


……そうか?


キャラクター、変わってないやん???

前シリーズ、ネタバレになってない???


って声が聞こえて来そうで、怖いのですが、

新シリーズです。

ええ、新シリーズなんです。


本作、きっと長くなります。

前、「ふたりになるまでの時間」共々、

よろしくお願いします!



しかし、一話である本作ですが……


え?

これで終わり??


最終話をアップして、自分でも驚きました、

もう少しボリュームあるかと思っていたので。

こんなことでいいんだろうか。


よくない!!


次作はあまりお待たせしない間隔で

アップするように努めたいなあと思っています。


でも、あまり早く書き終わりたくないので……

きっとずるずる、作者だけが楽しい話を書いてしまいそうです、

よろしくお願い……してもいいのかなあ……


お願いします!!! (`・ω・´)


さて……


前作をアップしたのは6月、

その後、7月初旬に親の大病が発覚しました。

残念ながら、延命以上の措置ができない種類の病気で、

今のところは自力で歩けるし、

ご飯も食べてるし、

元気ではあるのですが、

日に日に痩せていく様子を見るにつけ、

来年の今頃はどうなってるんだろうなあ、と

先送りしてはいけないことではあるのですが

どこか他人事で推移を見守っている自分がいます。


一寸先は闇、その闇の中であっても

日々、小さい事でも大切に、

愛でながら生きていきたいと思う。


本作を最初に、ホントに最初に

メインであるキャラクターを設定したのは

私が高校に入って間もなかった頃で、

自分の中では大切な愛すべき人物達です。


そして、私が高校の頃は、

誰それはあれとくっついて、

子供が何人、家族構成はこうであって

その子供達がどうなって、云々……

と、延々続いていく血脈のようなものを考えるのが好きでしたし、

いずれ自分もそういった家庭を持つのだろうな、

創作作業が自分の将来像の

シミュレーションになっていたようなところがあったのですが……。


今は平たく言ってしまうとホームドラマが成立しない世の中です。

多様性が尊ばれる中、標準とされた家族構成が

全然標準になってこなくなりました。


今時、結婚にバラ色の未来を描くのは

限りなく難しいように思います。


だから、チャラく、男女がくっつきそうでつかなくて、

じれったい展開をずるっと書き続けていたい、

ままならない感情をもてあましながら

異性を気にする子を大切にしたいと思ってます。


拙い本作、作者ばかりが堪能した世界、

はたしてお読み頂いている皆さんにちょっとでも

いろんな感情を動かせるものになっているといいのですが……


また近いうちにお目にかかれますことを祈って。


ではではー。


作者 拝



次回作は、そうですねー、

年内には第二回目を開始したいなーと思ってます。


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