朝日の中で
「来てくださったのですね……」
姫は涙を引っ込めて言ったつもりだったが、語尾が震えてしまう。少年がきょとんと目を丸くした。
「姫君、泣いていらっしゃいます?」
「女性の涙について言及するとは、紳士としてなっていませんね」
「これは失礼いたしました。けれど、姫君のお美しい歌声が聴けないのは惜しいです。もし、気が晴れるのであれば、お話しいただけませんか?」
少年の提案を姫は断ろうとした。が、真っ直ぐな藍色の瞳に射抜かれる。それが何故だかぐさりと胸に刺さって、思わず目をそらした。
「正直な方ですね。普通、そこは声じゃなくて顔のことを言うものでしょう」
そこで生まれたもやもやとした感情をごまかすために、姫はそんな言葉を返す。
「おや、姫は歯の浮くような口説き文句の方がお好きでしたか?」
「……正直な方が気が楽です」
少年の方が一枚上手だった。
姫はふぅ、と深い息を吐く。胸がちくちくと痛むのは、少年があの"琴の騎士"とあまりにも似ているからだろう。噂に聞いた奇妙な出で立ちと、何よりもあの琴の音。胸を締め付けるような悲しみを含みながら、それでもずっと聴いていたくなるあの音が、とてもよく似ている。
"琴の騎士"は口が聞けたら、こんな感じだったのかもしれない。
そう思ったらなんとなく、話してみようという気になった。
「では、長い話になりますが、よろしいですか?」
涙を拭い、改めて藍色を見下ろすと、彼はしっかりと頷きを返した。
それを確認し、姫は遠い日に思いを馳せる。
「では、お話ししましょう。私がどうしてこうなったかを」