問いかけ
塔の最上階。見合せた二人の間を風が吹き抜ける。柔風が二人の髪を揺らした。
少年が差し伸べた掌に、驚きのため答えられずにいる姫。優しい夜色の瞳を映す夕暮れが、惑いに揺れる。
なかなか動き出さない姫を少年はじっと見つめるだけ。自分から姫の手を取るというような強引な真似はしなかった。姫が自ら選ぶのを静かに待っている。
二度目の風が二人の間を通り抜けたとき、声を上げたのは門番だった。
「どうやら騎士殿は辿り着いたようですな」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます、門番さま」
少年が応じるのに視線をずらした。真っ直ぐな眼差しが離れたことで、姫が落ち着きを取り戻す。頭の中でいくらか問いをまとめ、一つずつ少年にぶつけることにした。
「貴方、どうやってここに?」
さして重要ではない問いで、聞き流しながら姫は頭を整理しようとした。だが、そんな冷静さは、少年が取り出したもので一気に吹き飛ぶ。
「これで一階の壁を削り、取っ掛かりを作ったんですよ」
彼が出したのは武器とするには心許ない長さの短剣。ごくごく一般的な護身用のものだ。ただ一つ、他と違うとすれば、刃に文字が刻まれていることだろう。
「この剣が人の血に汚れぬことを切に願う」
そんな言葉が刻まれた短剣など、姫は一つしか知らない。故に動揺した。
それゆえに──もっと後にしようと躊躇っていた問いを、姫は口にした。
「貴方は本当に、"琴の騎士"なのですか?」




