亡国跡の門番
やはり似ている、と老人は感じた。
この"ことのきし"は王国にいた"琴の騎士"とあの少年に酷似している。
老人は絵本を閉じ、日記に目を戻す。続きを読むと、その書き手──老人の祖父にあたる"門番"も同じことを思ったらしく、類似点を箇条書きで連ねていた。
琴を弾く騎士。
目が光を映していない。やはりあの琴の騎士も目が見えなかったのだろうか。
声を出せない。
姫様と関わりが深い。
姫も似ている。歌好きなところなど。
これはただの伝承なのだろうか。
そこからしばらくの間、日記は淡々とした日常を綴っていた。時折思い出したように琴の騎士についての疑問を書き出す。その繰り返し。それで四、五年ほど過ぎたあるとき、事件が起こった。
定期報告の日。
前々から国民も城の使用人も少しずつ減っていておかしいと思っていた。今日はそれがはっきりとした。
一言で言うと……"王国が滅亡した"。
城に行くと、姫様だけが生きていて、何もわからぬ自分に、全てを話してくださった。そしてそのうえで「私を西の塔に閉じ込めてください」と仰る。
呪い、それによる死、不老不死……どれも信じがたいことばかりで、即答しかねた。だが姫様は上手いことに「それが王の意志でした」という。姫様を閉じ込めるのが王の意志ならば、仕える身としては従うより他ない。頭の回る方だ。
今日の仕事は疲れた。姫様の願いで、塔の一階の階段を壊した。そうやすやすと上れぬよう、粉々に。
作業用の梯子も壊した。崩した階段の残骸を運ぶとき、酷く胸が痛んだ。
これから自分は姫様の住む塔の門番だ。
姫様を傷つけぬため、姫様の真実を語り継ぎ、塔に人を近づけないようにせねばならない。姫様が生きる限り、ずっと、ずっと。
こうして祖父から自分まであの塔の"門番"は受け継がれることになったのだ、と老人は思い返し、目を閉じた。
しばらくそうしていると、とんとん、と家の戸を叩く者があった。老人はすぐに出る。するとそこには鎧を身に纏う少年の姿。
「こんばんは。今日はこちらに泊めていただけるとのことで」
「ああ、そういう約束でしたね」
老人は少年を招き入れた。
「招いたのは、貴方にお訊きしたいことがあるからです」
「そのようですね」
少年は老人の向こう──書棚の前に立てかけられた本を見つめ、微笑んだ。そこにある本の題は"ことのきし"。
「それを読んだ上で、何を知りたいのですか?」
「貴方が本当に"琴の騎士"であるのかを。それと」
老人は静かに続ける。
「何のために、姫様に会いに来たのですか?」
──Coda.門番──
fin.へ──




