謎へ歩む
王国の話をいつも聞きに来ていた女の子が、お礼にと絵本を一つ譲ってくれた。表紙を見ると"ことのきし"という題がつけられていた。
姫様に琴の騎士の調査を頼まれたときを思い出す。あれ以前に、"ことの騎士"という単語をどこかで聞いた気がしたが、これだったか。王国の書庫に"ことの騎士"という本があった。確か、この辺りの古い伝承だったように思う。
すぐに読みたいところだが、塔の建設が完成間近で忙しい。落ち着いてから。
姫様はどうしているだろうか。
塔がようやく完成した。耐久確認もしたため、すぐに崩れるようなこともあるまい。けれど今日は念のため、塔で一夜を明かすことにした。
最上階から見た夕日は海の向こうに沈んでいき、とても美しかった。
思ったとおり、気持ちのいい場所だ。
夕日を見ながら、今頃、姫様は歌っているんだろうか、と姫様の顔を思い浮かべる。この絶景の中にあの姿とあの声で歌われる"夕べに明日明くる"はさぞ似合うことだろう。琴の騎士のもの悲しい音色も。
明日の朝、再度細部の点検を行ったら、久方ぶりに王国に帰る。家族ともしばらく会ってないなぁ。一年半か。楽しみだ。
久しぶりに城に入ると、何か、人が減っているような。
聞けば、ここ一年は不幸が多かったのだとか。
それで城中てんやわんやだったので、作業に出ていた兵はすぐ出てくるように、とのお達しがあった。
自分も門番に戻るのか、と思ったが、塔に物見として残るよう命ぜられた。どうやら建設前からそのつもりだったらしい。
国には月に一度報告に来るだけでよい、と言われたので、それであれば、家族共々集落に移り住みたいと進言した。月一の報告を忘れずにと念押しされただけで、移住の件はやけにあっさり了承さげた。
家族も集落に引っ越し、これからは以前のように時間に追われることのない物見生活だ。集落の人々は家族のことも快く受け入れてくれた。
物見、といってもするのは塔の点検と周辺の監視くらいなものだ。もっとも、城の門番のときは来客が多く、忙しかった。それに比べれば人気のない森だ。塔の上から絶景も拝める楽しい仕事だ。
余裕ができたので、以前集落の女の子らもらった本を読んでみることにした。すると息子が、読んだことがある、と言い出した。
"ことのきし"は王国の子どもたちの間では有名なおとぎ話のようだ。妻も知っていた。古い伝承を元にした話なのだそうだ。
そこまで読み、老人は別の本を探す。日記たちが並んでいた傍らに、表紙の材質が少し違う絵本があった。表紙には琴を弾く少年の絵。題は"ことのきし"だった。




