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亡国の歌姫と琴の騎士  作者: 九JACK
Coda.門番
18/31

門番日記

 老人は自分の家の書棚を漁っていた。そこには何十冊にも渡る冊子。臙脂色の表紙に番号が振ってあるそれを、老人は順に読んでいた。


 今日、姫様にある人物の調査を頼まれた。個人的にも気になる人物であったので、今日はここに詳細を記すことにする。


 そう始まった文章は、日記のようだった。紙は大分色褪せているが、百年以上前のものであることを踏まえれば、かなり保存状態はいい。これは老人の祖父──王国の門番だった人物の頃から代々書かれ続けている日記だ。主に王国や、今、西の塔に閉じ込められている歌姫、そして"琴の騎士"についてが綴られている。

 "琴の騎士"──祖父が生きていた遠い昔に、何度か話に聞いた。口の聞けない少年騎士の話。琴の才に恵まれたため、武器ではなく、琴を手にしていた。それ故に他の兵士たちからは"異の騎士"と蔑まれていたという。


 琴の騎士。

 生まれてから口が聞けない。声が出ないらしい。病かどうかは不明。養父は呪いかもしれないと案じている。

 父母は既に亡く、彼と共に暮らす王お抱えの楽師は父の友人とのこと。


 姫様にわかったことを報告する。彼のことを随分と気にかけておいでのようだ。何故一介の兵士をそれほどまでに気にするのか。問うと「あの琴の音が好きなのだ」と仰っていた。姫様らしい。


 姫様は毎日のようにここを訪ねてくる。城の外に出たいという気配がものすごく漂っているが、門番としてはやはり、通すわけにもいかない。今のところ、"琴の騎士"の情報で満足しているようだが。

 そういえば、"コトの騎士"という単語をどこかで聞いたような気がする。


 今日は"琴の騎士"らしき人物を見つけた。鎧を着た琴持ちの少年。武器を持たず楽器を手にしている騎士、というのは変わった格好だったが、彼は目立たない木陰にいた。

 思ったより、普通の風貌の少年だ。年の頃は姫様と同じくらいだろうか。手にした琴の弦を調整しているようだ。

 寂しげだが、他者の介入を望んでいないような目が奇妙だった。

 虚ろな藍色。


 王に呼び出された。何かと思えば、姫様のことを聞かれた。最近よく会っているというのを風の噂に聞いたらしい。

 姫様は元気かどうかなど、他愛のないことを訊いてきた。ご自分で訊かれればよろしいだろうに、と思った。不敬ではあるが、愛情の薄い父親だ。

 姫様が今度、夕刻の儀の歌を歌うことになったのだそうだ。

 夕刻の儀といえば"夕べに明日明くる"だ。記憶が確かなら、姫様の一番好きな曲。

 ここしばらくはもの悲しげな琴の伴奏のみだった。姫様の歌声が加われば、より美しい曲となるだろう。

 ふと気になって琴の奏者が誰か訊ねる。

 "琴の騎士"だった。


 昨日聞いたことを姫様に話す。

 姫様は大変喜んでいた。


 夕刻の儀の歌を歌うようになってから、姫様は来なくなった。お役御免のようだ。

 しかし、まだ気になることがあるので調べておこう。

 琴の騎士のあの目、見えないのかもしれない。




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