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亡国の歌姫と琴の騎士  作者: 九JACK
D.S.歌姫
16/31

囚われの道へ

 他に立つ者のいなくなった空間で、姫はまだかろうじて息のある楽師に語りかけた。

「琴の騎士は、今どこにいるのでしょうか?」

「わかりません……」

 楽師は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「姫様の呪いと、幽閉されることを聞いて、琴だけ持ち、どこかへ……それ以上は」

「そうですか」

 結局、会えずじまいね、と姫は嘆息すると、胸に抱いた短剣を倒れた楽師の傍らに置いた。

「これは、受け取れません。持っていると、刃に刻まれた願いに背いてしまいそうです。ですからここに、置いていきますね」

「ひ、め……貴女はどこに?」

 楽師の問いかけに、姫は優しく微笑む。

「西の塔へ」


「……そうして私は、誰もいなくなった国を後にしました」

「ご自分で塔に入ったのですか」

 姫は少年の問いにええ、と短く応じた。

 姫の話す間、少年はじっと黙って聞いていた。姫は少年の挙動を注意深く見ていたが、彼がこの話を知っていたような素振りはない。

 当たり前だ。百年以上も昔の話なのだ。この年若い少年が知っているはずもない。彼はただ"琴の騎士"に似ているだけ。似ているだけなのだ。

 姫は自分に言い聞かせながら、目を閉じる。

 生き残った門番ですら、もう三代ほど代替わりをしているのだ。

 この少年は"琴の騎士"と名乗っているだけの別人。

「姫君、少し、落ち着きましたか?」

 何より、この少年は話すことができる。声を持っているのだ。

「ええ」

「では、一曲」

 そう割り切って、姫は歌い始めた。あの懐かしく、もの悲しい琴の音色に乗せて。






 ──D.S.歌姫──




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