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亡国の歌姫と琴の騎士  作者: 九JACK
D.S.歌姫
11/31

知って尚罪を重ねる

 一刻ほど、時を遡る。

 姫の部屋を訪ねる者があった。

「あら、ばあや。どうしました?」

 それは幼い頃に姫の面倒を見てくれた乳母だった。乳母は姫の姿を見、びくりと肩を跳ねさせた。見ると顔は青ざめている。

「ひ、姫さま。姫さまにお伝えせねば、せねばならぬことがあり、参りま、ました」

 がくがくと震えながら言う乳母。その様子を不思議に思いながらも、姫は先を促す。

「伝えなければならないこと、とは?」

「は、はい……」

 乳母の震えが止まらない。姫は眉をひそめた。何をそんなに怯えているのだろう。なかなか言葉を続けない乳母に、もやもやした感情を抱く。

 姫が更に促そうとするより先、乳母がようやく口を開いた。

「姫さまの歌は、呪われているのです!!」

「……はい?」

 突飛な発言に姫は首を傾げる。それしか反応のしようがない。しかしながら、乳母がしわくちゃの目尻に涙を浮かべているのを見るに、嘘でも冗談でもないのだろう。

「呪われている、とは?」

 姫は努めて冷静に問いかけた。呪いとはただ事ではない上に受け入れがたいが、自分がここで現状把握を放棄するわけにもいかない。

 意外と冷静な姫の対処に安心したのか、僅かに怯えの色を緩め、乳母が続ける。

「数年前より、数多の国民が謎の死を遂げているのは、姫さまもご存知のことかと思います。その原因が恐ろしいことに……姫さまの歌にあるのです」

 言われて、姫にも思い当たる節はあった。国民の不審死が多いのは耳にしていたし、城内の使用人たちの数も前よりかなり減った。自分の歌が原因とは、考えたこともなかったが。

 信じがたい話だが、そこで終わりではなかった。乳母は更に言葉を次ぐ。

「それが明らかになってから数年。姫さまにお伝えすることを心苦しく思ったあたくしたちは、王妃さまのご提案から……あなたさまを殺そうと、毒を盛り続けておりました」

 申し訳ごさりませぬ、申し訳ごさりませぬ。言いながら乳母はひれ伏す。床に縮こまり、謝罪を繰り返すその姿が、姫にはやけに小さく感じられた。

「お顔を上げてくださいな、ばあや」

 姫はこれまでの情報を咀嚼しつつ、冷静に、冷静にと心がけた。

 穏やかな声で乳母に告げる。

「幼い頃から手塩にかけて育ててくれたばあやの言うことです。信じましょう。では、確かめるために、私の歌を聴いてくれますか?」




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