偽装恋愛
「ねえ、私の事、どれくらい好き?」
敏行は、煙草をもみ消して、うつぶせになり枕に顔をうずめたままの琴美を包むように覆いか
ぶさると、
「難しいなあ・・・」
と、言いながら、琴美の細い腰に大きな手を回し、白い首筋にキスをした。
琴美は黙ったまま、ゆっくりと枕から顔をあげ、
「私も・・難しいなあ・・・」
と、言い、敏行のもみ消した煙草に、ラブホテルになら必ずある安っぽいライターで、もう一
度火を点け、セックスの後の体に隅々まで行き渡るように、煙を深く吸い込んだ。
「あなたの体は大好きよ。」
と、琴美が言う。
「それは、同じだな。」
と、敏行が言う。
ボリュームを下げたはずのスピーカーからは、うるさいだけの流行の音楽が流れている。
「あなたは必要よ。」
「それも一緒だな。」
「でも、必要じゃなくなればいいとも思うわ。」
「・・・そうだな。」
と、敏行は、静かに微笑み、琴美の背中にくちづけながら、答えた。
そして、そのまま太い腕で琴美を仰向けにさせ、再び、白すぎる肌に愛撫を始める。
部屋には、再び汗の匂いと体液、煙を立てたままの煙草のにおいが充満し始める。
世の中、偽装だらけだ。
でも、それも仕方のないことと思う。
世の中、偽物が本物のように主張し、
本物が、本物であることを主張しない。
そろそろ、本物が本物である事を主張しなければならない。
この、二人は、主張できるようになるのだろうか?
完