命運を分けよ -3-
魔王がクレアの指導をしている間、晶は情報収集のために色々と話を聞くことにした。『クレアの』奴隷はほとんどがクレアの国が亡ぶ前からクレアの奴隷だったらしいので、晶は彼女たちに話を聞こうと思っていた。しかし、その前に話を聞く相手が居た。クレアの元家臣にしてこの邸宅の主である。
「あなたはクレアさんの元家臣という話でしたが」晶は口を開いた。「あなたはどういう役職だったんですか」
「役職と言われると適切な言葉が思い浮かびかねますね」彼が言った。「私は初代女王の『騎士』の子孫であり、王家のために生きることを決めただけの人間です。直接王政には関わることはなく、必要であれば力を捧げただけです」
「今、あなたは何を」
「ある組織の管理を任されています」
「ある組織とは」
「奴隷商人の協会です」
「それはあなたの『一族』が代々任されているんですか?」
彼は驚きに目を見開く。「先ほどのクレア様との会話から推測できていましたが、まさか、そこまでわかるとは」
「カマをかけただけですよ」晶が言う。「それで」
「待って下さい」彼が手を前に出し晶を制止する。「これ以上は言えません。聞くならクレア様から聞いて下さい」
晶は凶悪な笑みを見せる。「俺に『聞き出せない』とでも?」
それに彼は苦笑する。「あなたは『聞き出さない』んでしょう?」
晶はきょとんとしてから笑う。「あなた、よくも『ここまで』隠していましたね」
「私のような人間は力を隠し底を見せないことでしか生き延びることはできませんから」
「底が見えない人間ほど恐ろしい人間は居ませんからね」晶は手を組み言う。「まあ、それはともかく、俺の聞きたいことはわかっているでしょう?」
「どのように『亡国』が成ったか、ですね」
「その通り。で、どうなんですか?」
「王政に直接関わっていなかったのでよくはわかりませんが」彼は手を口元に当てて考えこむ。「よく言われていることは『帝国』によって亡ぼされた、ですね」
「俺はまず帝国のことすらよく知ってはいないんですが」晶は今までのことから推測される結論を口に出す。「帝国は侵略国家なんですか?」
「そうですね」彼はうなずく。「現在最大の侵略国家であることは間違いないでしょう」
「それはどういった侵略ですか」
「軍事的侵略であることがほとんどですが……」
「ですが」晶はオウム返しに言う。「ですが、何ですか?」
「王国が亡んだのは経済的な問題ですから」
「経済的な問題……?」晶は眉を顰める。「それで、どういう過程で亡んだのですか」
「帝国による圧力で経済が回らなくなり、その保護を受けるために『国家』を売ったのです。売った相手は『連盟』、いくつかの国家の連盟です。王族や貴族がその権利を連盟に売ることで王国の経済を連盟の経済の一部に組み込み経済を回らせる、といった契約だったようです」
「では、今、クレアさんの『王国』は」
「特定の国家には所属していない連盟が『権利』だけを持っているもの、ですね」
「他の政治体制になったのではないんですか? 民主主義とかそういうのに」
「いえ、先ほど言ったように『連盟』が権利を持っているので、税なども『連盟』に納められますが、その政治は『連盟』が選んだ代表者たちがやっております」
「『連盟』の植民地に近い状態となっているという理解で間違いないでしょうか」
「はい、その理解は間違っていないかと」
「そうですか。他には」
「私の知っていることはこれくらいですよ」彼は言った。「これ以上は、彼女の現『奴隷』に話を聞けばわかることも多いでしょう。彼女たちの中には私よりよほど事情に精通している者も居るでしょうから」
「わかりました」晶は頭を下げた。「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」彼もまた頭を下げた。「……クレア様を、お願いします」
「はい」
晶ははっきりと言った。