戦争 -10-
アークリンドは休息をとっていた。首都を目前にして、である。わざと首都を目前に、彼らは休息をとっていたのだ。
その理由は単純。敵が襲ってこないことがわかっているからだ。
「しかし、ミクリス。これでは無駄に時間がかかってしまうではないか」
アークリンドは言った。それにミクリスは笑う。
「べつに急いでいるわけじゃないんだからいいでしょう? 私も実験したいのよ」
「レイン様をお待たせするわけには」
「レイン様はそれすらも楽しむ御方だから大丈夫よ」
「それもそうだが」
「でしょ? だからいいの。それに、『結果的には』こっちの方が早くなるし」
アークリンドは嘆息する。「私も色々と言われることはあるが、貴様がいちばん危険なのではないか?」
「レイン様には劣るよ?」
「あの御方を私たちと一緒に考えるな」
「それもそうね」
このように敵の目前で休息できるのはミクリスの魔法が原因だった。街の外壁を囲むようにしてミクリスの魔法が設置されていたのである。それは一種の『地雷』であった。しかも無差別ではなく、帝国の者には一切の危害を及ぼさないという選択性を有していたのである。本来であればこういった魔法は防衛戦にこそ向くのだが、ミクリスが言ったように、これはただの『実験』である。この魔法が正確に働くかどうかの実験だ。万が一、正確に働かなかったならば、帝国の兵士を失ってしまう可能性もあった。その点だけを見ればこのような実験をすることは考えられないと思えるかもしれない。だが逆に考えてみれば違う。もしこれが正確に働けば。もしこれが実用化に足る出来だったならば帝国にどれだけの成果をもたらすか。どれだけの自国民を救うのか。それを考えればこの実験には大きな意味がある。それでも実戦でやることはないと思えるかもしれないが、『敵』にだけ作用することをどうして実戦以外で実験できるというのだろうか。実際に作用していることを確認しなければならないのだから、その『敵』が居なければ意味がない。それで自国の兵を失うよりは実戦で実験する方が良いと判断したのである。
遠くから魔法で攻撃されることもあるがその対処は別にやっている。これは『実験』ではなく実用化できると判断した魔法だ。街の外壁に沿うようにして展開された『変換器』。結構な時間を要するためこのような状況でなければ使用は難しいがある意味でティルアナの『移動城壁』を超え得る防御性能を誇る。ただし、魔法に対してのみ、だが。
放たれた魔法が『変換器』に触れると魔法はそこを『滑り落ちる』。街の外壁のそのまた外壁のように展開されたその術式に魔法が触れると弾くのでもなくただ滑り落ちるのである。一切の速度を落とさず『曲がる』のだ。まるで空間が歪んでいるかのようにして魔法が地面に落ちるのである。そしてその魔法は『変換器』の動力、つまり魔力と『変換』され、『変換器』は動き続ける。同時に一般の物理障壁も展開しているため、魔法以外のものも防ぐが、その動力もまた『変換器』により得られた魔力である。
つまり、この魔法を破るには一切の魔法を使わず物理的な攻撃だけをすれば良いのである。しかしそれに気付く者は皆無に近い。あまりにも魔法が万能に見えるから、魔法がただの『道具』に過ぎないということを忘れてしまっているのだ。魔法を破るには魔法しかない。そんな先入観がどこかに存在してしまっているのである。それを狙ってこの魔法は開発された。
しかし、そんな盲点を持たない者も存在する。
今回『連盟』軍を指揮しているニケはその一人であった。
もし彼女に正確な情報が伝わったなら、もしくは実際に見られたならば、間違いなく彼女は『違和感』に気付く。そして『とりあえず』魔法での攻撃を止めさせ、単純な物理的攻撃だけをさせ始めるのだろう。そんな的確な対処を『最初に』思い付くのがニケの異常性なのだ。真っ先に『正解』を思い付く。それこそが彼女の異常だ。そして彼女はそれを『自覚』している。
故に彼女は天才なのだ。決して努力によって得られるものではない『天賦の才』。『神に愛された者』という形容が最適の超越者。人間の枠を外れし者。レインやユクノと同様の真の『天才』。
「ま、そんなレイン様と同じ『天才』を相手にしているんだから、『これくらい』はしなくちゃダメよね」
そうしてミクリスは笑った。アークリンドは訊ねる。
「起動するのか」
「いけない?」
「いや、早くしろ」
「りょーかーい」
ミクリスは笑い、術式を展開、街の外壁に沿うようにして展開された術式と『繋げる』。
「あなたの壁、爆破しちゃうぞっ」
ミクリスは街の外壁を指差し、ウィンクをする。
すると術式が起動する。
魔法が発動する。
『変換器』によって蓄積された魔力が術式に制御され魔法を発動させる。
術式の場所は『外壁』。
その内容は爆発。
結果、外壁が爆発する。
外壁の内側で爆発が起こり、まるで『外壁』そのものが爆発したようにして爆発する。
そして、アークリンドは言う。
「全軍、突撃」




