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運命の邂逅 -2-

 気付くと晶は森の中にいた。状況判断。晶はこれが魔法かと思った。この魔法で俺はこの世界に来たのか。まったくもって理解し難いが実際に起こっているのだから仕方ない。晶は知り合いの科学者の言葉を思い出した。天才を自称し実際そう呼ばれてもおかしくはない能力を有する彼女はいつものように尊大に不遜に言ったのだった。


「魔法が存在する可能性はあるわよ? ……何よその顔。科学者だからって私が魔法を否定するだなんて思わないでほしいわね。魔法は別に非科学的ってわけでもないしね。単に現代科学では解明されていないだけ。存在も観測されていないけれど、だからと言って存在しないとは言い切れない。はっきり言うけれど、この世界の科学者と呼ばれる存在のほとんどは魔法が存在したとしても非科学的だとは言わないと思うわよ? その人が本当に科学者なら、少なくとも私なら、魔法を『新しく発見された物理法則』と思う。それ以上の何でもない。確かに驚くべきことではあるけれど、非常に興味深いことではあるけれど、決して非科学的なことだと言って思考を放棄するようなことじゃあない。実際にそういった現象が観測されたのであればそれは存在しているということだもの。現代科学では解明されていないだけで、確かに存在する一つの法則。ほとんどの科学者は魔法が存在してほしいと思っているんじゃあないかしら。もし存在するとしたら、それは非常に興味深い研究対象だから。本当、幽霊でも何でもいいから、非科学的とされているようなものが私の目の前に現れてくれたらいいのに。そうしたら私はすぐにそれを科学に変えてあげるのに」


 彼女の影響からか、晶は魔法に対してそれほど否定的ではなかった。彼女も言っていた。

「もし魔法をむやみに否定する人がいるとすれば、そんな人はただの『科学教信者』だね。現代科学で解明されていないことは何一つ信じることができない現代科学を盲信する愚かな人。どんなに優秀な科学者も老いていくにつれてそういった思想に傾いていくとは言うけれど、私はそうはなりたくないわね」

 と。

 だから晶は驚くほどすんなりとこの状況を受け入れた。そもそもからして前の世界に居た頃から晶は様々な異常に身を置いていた。その時の経験から晶はどのような状況でも冷静を保つことを覚えたのである。


 晶は周囲の木々を見る。専門家ではないから詳しくわかるわけではないが見る限り地球のものとそこまで変わりはないように思える。地球とこの世界では『魔力』以外にたいした違いはないのかもしれない。少なくとも現時点においてはそうだろう。


 とりあえず晶は木を登ることにした。あっという間に頂点に至り、周囲を観察する。出来る限り早く街に出なければならない。晶は思った。食事や寝所の問題もあるが、何よりこの世界のことについてもっと知らなくてはならない。そもそも食事や寝所の問題に関してはないようなものである。この世界にどのような動植物が生息しているかはまだわからないが、それでも人間の食べられるものは多く生息しているだろう。晶は森の中で一人で生きていけるだけの技術を得ていた。出来ることならナイフなどの道具も欲しかったところであるが、素手であっても『手間がかかる』以上の問題はない。


 木の上から周囲を見た結果、街の場所がわかった。太陽(正確には『太陽』という名前ではないかもしれないが、この世界でも名前の付け方はそこまで変わるものではないと思われるから、ここでも最も近い恒星の名前は『太陽』だと思われる)の位置と照らし合わせ方角を確認。距離も計算して晶は木から降りて街に向かうことにした。むろん、音は立てないように最大限の注意を払って耳を澄ませながら進む。この森に何が居るかわかったものではないからだ。


 街に行く前に晶は街に行くまでの道の近くにあるはずの小屋に向かうことにしていた。木の上から見えたわけではないが不自然に木々がない場所があったのである。となれば、小屋か何かが建てられていると考えるのが妥当であろう。小屋に人が居て話が通じるなら話を聞くことにしよう。晶はそう判断して小屋に向かっていた。道中、何度か木々が揺れる音がして歩みを止め耳を澄ませ音の方を観察したが鳥などの動物だった。それを見て晶は肉の心配はしなくてもよくなったなどと考えていた。


 予想通り小屋があった。

 小屋に近付くにつれて声が聞こえてきた。

 悲鳴が混じっていた。

 女性の悲鳴だった。


 晶の速度が急激に上がった。

 悲鳴で掻き消える程度の音を出して急ぐ。

 小屋の構造を把握する。

 耳を澄ませる。

 状況把握。

 男性の怒号、

 声から人数を把握、

 三人、

 女性は一人、

 カチャカチャと金属音--鎧か鎖だと思われる、

 小屋まであと数メートル、

 魔力を知覚--まだ使えない--なら素手でやるしかない、

 扉は閉まっている、

 鍵がかかっている可能性大、

 窓からだ、

 晶はさっと地面を見る、

 石を発見、

 拾う、

 投擲、

 窓が割れる。


「なんだっ!」


 慌てた声、

 ガチャガチャと金属音が大きく響く、

 鎧を着用していると判断--

 ――この世界はファンタジー系の創作物のように中世的な世界観なのだろうか――

 --また金属音、 

 鍵を開ける音か、

 つまり三人の内少なくとも一人は扉の方に向かっていると考えていい、

 なら、今こそ好機。


 晶は迷わず窓に飛び込む。

 瞬間、こちらに槍が向かってくる。

 晶はそれを回避して槍を持っていない方の男を確認する。

 顔をしかめて固まっている。

 魔法か、

 なら急がなければならない、

 晶はもう一つ持っていた石を彼に向かって投擲、

 頭に直撃、

 同時に晶は槍の男の方へ向かう、

 槍がまたこちらに向かってくる。

 おそらくこの世界の兵士なのだろうが、銃に比べれば避けることは容易である。

 晶は平然とそれを避けて彼の懐に潜り込む。

 目を突く。

 彼が怯む隙に槍を奪い取り頭を叩き気絶させる。

 一回転し部屋を観察、

 二人の男性と一人の女性が見える。

 小屋の中はあまり広くはない。

 少しの食料と寝具がある程度である。


 女性の顔には殴られた跡がある。

 彼女はそばかすがチャーミングな女性だった。

 赤みがかった茶髪で身長は女性の平均身長くらいだと思われる。

 服が不自然に破れているのは抵抗の跡だろう。

 晶は言う。

「君とこいつらの関係は?」

 女性は驚き戸惑いの様子を見せながらも言う。

「もっ、森を歩いていたら、いきなりっ」


「つまり無関係ということか」


 なら躊躇う必要はなくなった。

 晶にとって優先されることは美女のことだけである。

 彼らのことを大切に思っている女性も数多く居ると思われるしその女性を悲しませることになるのは非常に心苦しいが、仕方ない。


 扉に向かっていた男がこちらを見て何かをぶつぶつと呟いている。

 晶は槍を投げる。

 男は驚き槍を避ける。

 その間に晶は石を当てた男に近付きその懐にあるナイフを奪い首元を切る。

 槍を避けた男性がこちらを見て驚き顔を悲痛に歪めながらも何かを呟く。

 咄嗟にナイフを投げるが間に合わない。

 魔法が発動する。

 風が吹き壁に叩き付けられる。

 魔法か。

 これが、魔法か。

 晶は理解する。

 しかしこういう経験がないわけではない。

 むしろあの時に比べればずいぶん楽だ。

 爆風で吹き飛ばされた時は単に吹き飛ばされる他にも色々と被害があった。

 あれに比べれば何でもないことである。


 男は笑っている。

 見たか、とでも言うような調子である。

 晶は思う。

 こいつ、本当に兵士か?

 俺を殺すには絶好の機会だったというのに、ひょっとして痛めつけたいなどという考えでも抱いているのか?

 もしそうなら愚かにも過ぎる。


 壁にもたれかかって動かない晶を見て男は笑う。

 痛めつけてやろうという思いが透けて見える。

 こちらに近付いてくる。

 晶は即座に立ち上がり彼に飛びかかり首を掴み床に叩き付け手に力を加え首の骨を折る。


「大丈夫だったか?」


 気絶している男に歩み寄りながら晶は言う。

 そばかすの少女は怯えている。

 まあ仕方ないか。晶はそう思いながら気絶している男の首を踏み折る。


「君の名前は?」

「……す、スィラ」

「スィラ」晶は言う。「この男たちが誰かわかるか?」

「わ、わからない。森を歩いていると、いきなり」

「なぜ君は森にいた?」晶は言う。「この森に何の用があったんだ?」

「それは」

「スィラ」晶は彼女に近付き手で首に触れ言う。「本当のことを言ってくれ」


 スィラは心底怯えた様子でごくりと喉を鳴らす。


「わ、私、私は……」スィラが一度口を閉ざし開く。「……親友が、連れて行かれたの」


「性別は?」


「え?」スィラが呆けた声を出す。「お、女の子、だけど」


「かわいいか?」


「か、かわいいけど」

「わかった。その子は俺が助ける。君の策は何だったんだ?」


「え、と」

 彼女は明らかに冷静を失っているが懸命に言葉を紡ぐ。

「も、森に兵士が居るって聞いたから、そこを襲って、そいつを人質にして、スノウを助けようと」


「兵士。ということは、敵は軍か。どこの軍だ?」

「あ、ぐ、軍の所属じゃなくて、ここの領主の、私兵、っていうか」

「そうか。領主の家はどこに?」

「ま、街の、中央に」

「わかった。それじゃあ、連れて行ってくれ」


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