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第伍編
第伍編
おばあちゃん
おまえには、おばあちゃんがいた。
といっても猫ではなくて人間の、わたしのおばあちゃんだ。
彼女は植木が趣味で、だから植木を荒らす猫が嫌いだった。
彼女の晩年に――
徐々に弱ってゆく体を、安楽椅子に落ちつけて、
「わたしはおまえのことが嫌いなんよ?」
と、おまえに向かってのたまいつつも、
猫じゃらしを、取ってはそれをふりふりとやり、
毛もそろわぬ、小さなお前はむしゃぶりついて、
ころころ ころころ ころころと、ただひたすらに転がったのだ。
わたしはそれを、カメラで撮って印刷し、大事に大事に保存した。
やがて彼女は儚くなり
葬式で、わたしはその写真を飾った。
今日もわたしの布団のうえで、ころころ転がるおまえは、
彼女のことをもう忘れ、思いだしもしないだろう。
おまえには過去もなく未来もなく――故にもう悲しむこともなく、
それはわたしにとって、なんと救いであることか。