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第壱編
第壱編
かなしみをしらぬもの
おまえは、かなしみをしらないように、ふるまう。
ホットカーペットのうえであおむけに寝ているとき、
ふわふわボールを夢中で追いかけているとき、
かなしみをしらないように、ふるまう。
おまえが屋根のうえで、ないていたときに、
おまえは、かなしみをしっていたのだろうか。
それとも、ただないていたのだろうか。
いまや、おまえは、病をわすれ、空腹をわすれただろう。
けれども、ふとした瞬間、おまえがうつむくときに、
わたしは、おまえのかおに、かなしみをみるのだ。
おまえが、おまえのかなしみをわすれても、
わたしは、おまえのかなしみを覚えている。
ずっとずっと、覚えている。