第1話 3 実習、ホラーはお好きですか。
さっそくその日の仕事から参加してもらうことになった。
今日は区民館に現れたゴーストの駆除だ。
素人でも武器さえあればこなせる簡単な仕事だが注意点が2つある。
1、びびらないこと
2、触られないこと
1に抵触すると大抵2に抵触する。
ゴーストに触られると体力、体温が大きく奪われる。
昔は霊障と言われていた現象だ。
つまり簡単に言うと1回も触られずに攻撃を当てろ。
「と、いうわけなんだけどわかった?」
「うん、言うのは簡単だよねって思った」
やるのも難しくはないんだが。
真知の運動能力と判断力を視るのに丁度いいと思って連れ出したわけだが。
俺の事務所のある中央区から車で40分程度の場所なので説明しながら運転している。
「ホラーな仕事結構多いけどそこらへんはどう?」
動く死体にゴースト、髪の毛が伸びる人形などなど。
一般的な仕事はそこらへんが多い。
「映画とか観る分には平気。面白くなかったら途中で寝ちゃうぐらい」
キャーとか言い出すタイプには見えないがそこまで豪胆でなくてもいいのに。
ちなみに俺はこの仕事始めてから完璧に麻痺したらしく墓場でも寝れる。
ゾンビ映画見ながらもつ鍋だって平気だ。
「実物には実物の壊さがあるけどそこまで達してるなら平気かな」
「師匠、言ってた区民館ってあれじゃない?」
通り過ぎるところだった。
駐車場に車をつけ装備を取り出す。
「このマチェットで幽霊斬れるの?」
「色々文字刻んであるでしょ?それに退魔の効果あるんだってさ」
神聖文字だかなんだかで聖句を刻んで銀を流し込んだったか。
「師匠の刀は?」
「ん、これは元々呪われてるからそういうのなしでも斬れる」
本物かどうかはわからないが村正だ。
呪われているし霊的に改造もしてある。
「そんじゃ行こうか」
エントランスに足を踏み入れる。
ゴーストがいるのはホールのようだ。
「心の準備できたら教えて、ここ開けるから」
ホールへの扉を指して言う。
「いつでもいいよ」
まるで気負っていない。
今日が初陣のはずなんだけどこの落ち着きようはなんなんだろうか。
ぎぃ、と音をたてて扉を開ける。
「うーん、3体か」
長方形のホールの中央に3体固まっていた。
ここは真知に行ってもらおう。
「んじゃさっそくだけどあれ全部やってきて」
露骨に嫌そうな顔をされる。
「この程度できなきゃ次のステップに進めない」
と言うと真知の目つきが変わる。
「触られなきゃいいんでしょ。やってみせるわ」
軽くマチェットを振りゴーストに正対する。
次の瞬間一気に駆け出す。
手前にいた1体を真正面から斬りつける。
手応えはないだろうがマチェットが触れた部分が燃えるように消滅していく。
やがて完璧に消滅するがその前に大きくバックステップをする真知。
今度は右側のゴーストの脇を滑り込むように駆け抜ける。
駆け抜ける途中で胴を斬っていたらしく真っ二つに割れ消滅していく。
最後の1体と向かい合い両手を伸ばしてくるゴーストの右へ跳躍し横合いから斬りつける。
程なくして最後のゴーストも消滅した。
なかなかの身体能力だ。
これなら継承したときの上がり幅もでかいだろう。
「こんなもんでどう?」
ドヤ顔で言う真知。
「完璧、ちょっと簡単過ぎたかな」
危なくなったら割って入ろうと思っていたが杞憂だったらしい。
「でも手応えなくてつまらなかった」
肉を斬りたいと訳していいのだろうか。
「次はちゃんと手応えあるやつにするよ」
それにしても俺働いてないな。
この仕事はこれで終わりだ。
「とりあえず終わりってことでお疲れ様」
「はい、お疲れ様」
さっさと車に乗り込む。
「今日はもう一件行くよ」
「了解、疲れてないし大丈夫」
初仕事は特にどうということもなかったようだ。
では次は本番。
「ってなわけでこの霊園の奥にグールがでるらしいのさ」
「数は?」
「不明、でも多くはないかな」
すたすたと奥に向かいながら説明していく。
「お手本に最初の1体やるからみといてね」
やってみせ、やらせてみせて、褒めてやる。だっけ?
人を育てたことなんてないので格言通りにやってみる。
ただし、俺と真知では身体能力が大幅に違う。
真知にはまだ話していないが俺は超越者、という少々変わった人種なのだ。
普通の人と何が違うの、と訊かれたら簡単に、身体能力、と答える。
超越者の中には特殊能力を持つ者もいるが俺にはない。
「師匠、右奥の方何かいる」
俺の視力だとはっきりグールの姿が見て取れる。
「グールだ。んじゃもうちょっと見える位置まで移動しようか」
見つかっても構わないのでさっき同様すたすた進む。
この辺なら見えるだろう。
「んじゃやってくるからよく見といて」
頷く真知。
ダッシュで一気に近寄り横薙ぎの刀でグールの首を飛ばす。
一瞬の間をおいて消滅。
「どう?参考になった?」
「あれをどうやって再現しろっていうのよ……」
そこは知恵を振り絞ってください。
多分最初は倒せないだろう。
そして考えて欲しい、どうやったら倒せるのかを。
「いた。この方向に200m。見える?」
「影ならなんとか」
この暗さで影でも見えるならたいしたものだ。
「んじゃやってみて」
軽く言う。
渋い顔をする真知。
「わかった、気をつけることは?」
「グールは力が強いから掴まれないように」
掴まれたら食われるからね。
その前には助けるけど。
グールのいる方向に向かって一気に間合いを詰めていく真知。
俺はぴったり後ろを走っている。
グールがこちらに気づき手を伸ばしてくるが速度を緩めず一足一刀の間合いに入る。
勢いをつけたままマチェットをグールの首に叩きつける。
だが半ばまで食い込みはしたが切断には至っていない。
「ぐっ!」
力を込めてマチェットを引き抜こうとするが簡単には抜けない。
「下がれ真知!」
指示を飛ばすとバックステップで距離を取る。
「この場合はこうするんだ、よっ!」
左足を右足の前に出し左足を軸にしてマチェット目掛けて後ろ回し蹴りを放つ。
食い込んでいたマチェットがそのまま押し出され首が切断される。
「今のができなきゃ話にならないってこと?」
「今のは一例を見せただけ。どうやってもいいから倒す方法考えて」
考え込む真知。
この課題は俺もやったものだ。
結局グールが動かなくなるまで刻むという方法で終わったが。
真知はどういう答えを見せてくれるだろうか。
「あとはぐるっと見回って帰ろうか」
もういない気もするのだが念のため。
まだ考え込んでる。
「師匠、仕事開始の時間まで特訓とかしてていい?」
「開始の時間はわりと遅いから好きにしてていいよ」
時給じゃなくて日給制にしておこう。
あらかた見回り帰路に着く。
「これはちょっと手こずりそうだわ……」
俺も課題を与えられてから1ヶ月かかった。
超越者の身体能力だと何も考えずとも倒せるがそこで終わらないように、という課題だ。
「最終手段は動かなくなるまで刻むしかないわね」
ちょ。
課題クリアーは早そうだ。
なんともまぁ優秀な弟子だ。