第1話 2 面接、中身はお察し
昼過ぎに目を覚ましシャワーを浴びて鏡を見ながら髪を整える。
耳が隠れる程度まで伸ばした黒髪は俺のポリシーだ。
死んだ魚のような目と中学の担任に言われた俺の目、程々に高い鼻、薄い唇、全ていつも通りだ。
一息ついたところで考える。
才能はあるとして色々と訊いておきたいことがあるので面接などしてみようと思うのだが。
どんな雰囲気で面接を行えばいいのやら。
堅苦しいのは苦手だしいつも通りの態度でいいかな。
学校が終わって真っ直ぐ来るとしても15時ぐらいにはなるだろう。
それまでに面接の内容を決めればいいだけのことだ。
いくつか項目を挙げて書き出してみる。
あー俺ってつくづく経営者の器じゃないんだな。
元からそんな道もなかったが。
書き込んでは消し、また書き込むという作業に没頭していたらチャイムが鳴った。
時間は15時32分、相手はわかっている。チャッピーに確認するまでもない。
「はーい。ちょっと待ってー」
軽くテーブルの上を片付け玄関へ向かう。
少しドアを開けた瞬間また足を挟み込まれた。
「ちゃんと開けるから足挟み込まなくていいよ」
ドアを開け少し怯えながら言う。
「すいません、ついクセで」
どんなクセだ。普段の生活が気になるがあまり聞きたくもない。
「それじゃ上がって」
「お邪魔します。こんにちは蓮見さん」
礼儀は正しいような気がするが。
テーブルを挟んで対面に座る。
「今日もコーヒー買ってきたのでよかったらどうぞ」
苦手だと言わない限りこれは続きそうだな。
「ありがとう」
とりあえず飲む、苦い。
「それでバイトの件はどうなりましたか?」
さっそく切り出してくる彼女。
「その前に面接してもいいかな?訊きたいこといくつかあってさ」
「わかりました、答えられる範囲であれば」
別に体重やらスリーサイズやらを訊きたいわけじゃない。そっちは大体想像がつく。
「それじゃまずは軽いところから訊いていこうかな。生き物を殺すことに抵抗は?」
軽いと言っておいて重いのをいってみる。
「必要があれば殺します」
即答。殺す、という単語は言いづらいものだと思うのだがさらりと言った。
「中学のとき剣道部所属だったみたいだけど真剣は振れそう?」
少し考えて答える彼女。
「やってみないとわかりません」
それもそうだな。試してみようか。
「んじゃこれ振ってみて。」
俺の刀を渡す。心なしか彼女の瞳が輝いたような気がする。
「ん……しょ!」
重さに振り回されている。まぁそこまで期待してたわけじゃないけど。
「はい、オッケー。刀返してね」
言わないとお持ち帰りされそうな気配がした。
「次に動機なんだけど、どんな理由からバイトしようと思った?」
「昨日も言ったと思いますが刀を振る蓮見さんがかっこよかったからです。祖父が刀の蒐集をしていまして小さいころから刀剣に憧れがあったのも理由の一つです」
かっこいいと言われた記憶はないが。
刀剣に縁のある仕事だから、と考えると危険な匂いはするが納得がいく。
「仕事は深夜が多いんだけど家とか学校とか大丈夫?」
「両親がなんて言うかはわかりませんが納得させます。学校は問題ありません」
駆除士のバイトなんて聞いたこともないがただのバイトだと言い張れば大丈夫なのだろう。
「あ、時給とか希望ある?」
大事なことを忘れていた。
「仕事するのが目的なので賃金は頂けるだけで不満はいいません」
完璧すぎる回答だ。
面接が終わったことを告げ少し考える。
まぁ弟子にするわけじゃないから大丈夫だろうが協会になんて報告したらいいのやら。
別室に移り携帯を取り出して協会にバイトで武器の携帯ができるのか訊く。
当たり前のようにダメだった。
「駆除士にバイトはいないんだって。やるなら弟子(仮)って形になるけどいいかな?」
「(仮)?弟子じゃだめなんですか?」
「本格的に弟子なら駆除士目指せるように指導していくけどバイトだから(仮)」
形式的に弟子をとるぶんには構わないが本格的となると問題も出てくる。本人のやる気とか。
「駆除士目指すので弟子にしてください」
あっさり決意した。
まだ遊んでいたい年頃じゃないだろうか。
「じゃあとりあえず(仮)で課題クリアーできたら弟子ってことで」
「はい!よろしくお願いします!」
「んじゃとりあえず武器考えようか」
言った瞬間食いついてきた。
「刀!蓮見さんが使ってるやつみたいなのがいいです!」
「重すぎて振れないからダメ」
捨てられた子猫のような目をしてこっちを見ている。
「大型のナイフあたりかな。奥の部屋にしまってあったと思うけど」
ナイフでは満足できないらしい。
奥の部屋からマチェットを持って来る。
「どうこれ?全長59cmあるから結構なものだと思うけど」
「いいですね!ちょっと振ってみていいですか?」
一瞬で目に光が戻る。
「刃付してあるから気をつけてね」
刃付がしてあったり聖句が彫られてあったり駆除士の実戦仕様だ。
ちなみに聖句は何が書いてあるのかわからない。
ひゅんひゅん振り回す彼女、体軸のブレも少ないしいいだろう。
「今日からそれが君の相棒ね」
「ありがとうございます!」
最低限あとは拳銃でもあればいいだろう。
「とりあえず採用ってことでよろしく。名前はもう知ってるだろうけど蓮見刑、師匠って呼んでもいいよ。あと敬語は堅苦しいから使わなくてもいい。よろしくね」
名刺渡した時点で自己紹介終わってるようなものだがこういうのはきっちりいきたい。
「園田真知です。真知って呼んでください。人前じゃなければ師匠って呼びますね。敬語の件は了解、話してて苦しかったから助かるかも」
とりあえず握手。
よくわからんコンビが結成された瞬間だった。