第4話 6 それぞれの道、行先
師匠が失踪して3日ただひたすら事務所で帰りを待ち続けた。
4日目になってこれは帰って来れないんじゃないかと思い探すことにした。
まずは奥野さんに電話し居場所を知らないか尋ねたが答えは否。
「蓮見が失踪するのは正直よくあることだからな。今回は事情が違うとはいえ3日帰ってこないぐらいだと想像もつかない」
とのことだった。
次に電話したのは恋さん、1回会おうという話になって恋さんの事務所を訪れた。
「刑がずっと探してた復讐先が見つかったんならそっちから探すのがいいかもしれない」 羽根木、という男について調べると大層な富豪のようで行き先などはトップシークレット扱いで何もわからなかった。
「引き続き調べてみるから他の心あたりあたるか事務所で待ってな」
そう言われて心あたりについて考える……。
未来を視るあの人、蓮見千波矢さんならどうだろうか。
その日は電話が繋がらず翌日電話が繋がった。
大事な話をするから部屋までくるようにと言われ再びアパートを訪れた。
「ゆっくりしてるヒマはないわね。ちょっとおでこ貸しなさい」
素直に従う。これが予知というやつだろうか。
「馴染みの武器屋さんに行きなさい。そして訊くのよ『扱っているのは武器だけですか?』って」
意味がわからないが従う他なかった。その日のうちに武器屋さんに行く。
相変わらずお客さんのいない店だった。
「よう、弟子の嬢ちゃん。何か武器探しにきたのかい?」
「扱っているのは武器だけですか?」
一言一句同じに問いかける。じっと見据えていると頭をかきながら答えた。
「まぁ武器っちゃ武器だと思うが情報も取り扱ってるよ」
情報!飛び上がりそうになるのを抑えつつ訊く。
「師匠が今どこにいるか知りませんか?」
「蓮見さんがいないことすら知らなかったよ。すまんな」
少し落胆したが訊けることはそれだけじゃない。
「羽根木って富豪の行動、宿泊先教えてください」
「羽根木か。ちょっと高くつくけどいいかい?」
師匠に払ってもらうことにする。
「中央区のワシントンホテルに滞在中で人に会うためにちょこちょこ出かけてるようだな。3日後には東京に帰る予定のようだ」
羽根木が生きていることの確認にもなった。礼を言い足早に立ち去る。
富豪ともなれば護衛が多数ついていることだろう。師匠は無制限に人を殺したいわけじゃない、1人になるのを待っているんだと思う。でも1人になることなんてあるのだろうか?師匠がその気になれば一般の護衛なんて全員片付けられる。
刀を持って要人の周りをうろうろすることはできない。車で移動しているとすると現れるのはホテルの駐車場!
1度戻って装備を整えホテルの駐車場で張り込みをすることにした。
そして羽根木が北海道に滞在する最終日の前日夜中の2時に師匠の愛車ランドクルーザーが姿を現せた。
車が停まる瞬間に封印を発動、私がここにいることを知らせるために。
ゆっくりと車から降りてくる師匠、私を一瞥し、
「よくここに俺が現れるってわかったな」
「ただの勘よ」
何気なく話しかけてくる師匠、だが殺気が漏れている。正直怖い。
「ここになにしにきたの?」
「羽根木を殺しにな」
「どうやって?」
「真っ直ぐ玄関から入って部屋に向かって首を落として玄関から出ていく」
「邪魔する人は?」
「全員殺す」
端的に話す師匠だが冗談は一切ない。そしてそれを実行する力がある。
「羽根木が師匠の恋人を殺すように指示したとは思えない」
「かもな」
「それでも殺すって言うならここで私が止める」
「どうやって?」
「動かなくなるまで刻んであげるわ」
「……お前は本当に非常に優秀で猟奇的な弟子だ」
抜刀する師匠。抜刀する私。
切り札は1つだけあるけれどそれで師匠を止められるとは思っていない。殺すつもりでやる。師匠は私を殺すつもりはないだろう。これで少し実力差が埋まる。
師匠が間合いを詰めてくる、合わせて前に出てお互い袈裟懸けに斬る。
キィン、と澄んだ音をたてるが互いの武器には傷1つない。武器は互角。
肩に担ぎ斬撃を放つ。即座に反応し受ける師匠。
身体を回転させソバットを入れるが腕でガードされる。師匠が横凪に払う、リリィで受け片手で衝撃を逃がす。
師匠は本気じゃないけどこのままでは勝てない。
師匠の平突き、リリィで方向を逸らす。師匠が右手で咆哮を放つ。もろにくらい地面を転がる。
「これでお仕舞いか?」
「冗談」
すぐに立ち上がり煙幕変わりに封印を発動、右手から師匠の左手を狙う。咄嗟にかわされるが薄く斬れた。
「ほう、俺に一撃入れるほど成長してるとは思わなかった。ここからは本気だ」
師匠が魔人化する。絶対に勝てないと本能が警鐘を鳴らす。
だがここからが本番だ。
「咆哮!」
瘴気を伴った衝撃波が来た。ガードはしているが意味がないようだ。
片膝をついて呼吸を立て直す。
師匠が今まで以上のスピードでこちらに向かってくる。
「拒絶封印!」
全力の封印、さらに封印を重ねがけする。このダブルが私の切り札だ。
師匠の斬撃で1枚目の封印が破られる。
私の姿がないことに困惑している。
今がチャンス!
封印を解き真正面から渾身の平突きを放つ!
それでも反応し身体をずらす師匠。
結果として私の突きは肩に刺さるに留まった。
「ダブルか、意表はつかれたがこの程度で……」
胸を抑えてうずくまる師匠?
「ごふっ!」
大量の吐血。
「そう……か。兄妹剣、使用者にはない呪い……」
また吐血。何が起こっているのだろう?
「ブルーミング・リリィは『蓮見刑を殺すのに最適な武器』ということか……」
師匠に駆け寄る。
「俺の刀の呪いが流転しているんだ。使用者を殺す呪いが」
顔色がどんどん白くなっていく。
「やられ……た……視えていたんだな……この未来が……」
その一言で千波矢さんの仕掛けた罠に気づく。
救急車を呼ぶ。
師匠を抱きかかえる。
「お前と……生きていくのも……悪くないと思って……」
「しっかりして!このぐらいじゃ死なないでしょ!」
「俺の様には……なるな……」
「お願い!目を開けて!」
そして喋らなくなる師匠。
私はこのとき泣いていたのだと思う。
やがて救急車が来て駆除士だと告げ指定の病院に搬送されていく最中、
師匠の鼓動が止まった。




