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第4話 5 白崎の道、そして

 それから3日後、全ての検査を終え退院した。

「チャッピー、ただいま」

 一応挨拶する。弟子時代からの付き合いなのであまり疎かにもできない。

 が、一瞥しただけで寝やがった。

 飼い主というわけでもないし餌を与えてるわけでもないので大きな態度はとれないが挨拶にぐらいは反応しろこの犬もどきが。

 荷物を下ろし整理を始めたところでスマホが鳴った。

 登録されていない番号だ。久々の民間からの依頼だろうか。

「もしもし、蓮見です」

『こんにちわ、初めまして私山田香織やまだかおりと申します。拝み屋さん、でよろしかったでしょうか?』

 女性特有の高い声、聞いたことのない声だ。拝み屋とはうちの事務所の名前なのだがそれを確認してくるということは依頼だろうか。

「はい、拝み屋です。御依頼でしょうか?」

 ほぼ何でも屋のような感じで登録されているが一応駆除士の事務所なので依頼は大抵駆除に関係したものが多い。

 何を勘違いしたのか大型ゴミの回収を頼まれたこともあるが。

『昨晩からうちの2階に見たこともない生き物がいまして、怖くて近寄れなくてどうしようかと思いご相談に』

 何かが家に湧いたのだろうか。一般の家に湧くのなんてゴーストの類ぐらいしか思いつかないが。

 直接見に行かないとダメだなこれは。

「わかりました、直接お伺いして確認させて頂きます」

『ありがとうございます、住所は……』

 住所を確認して通話を切る。

 装備を整えスーツに着替える。大分くたびれてきたなぁ。

 この仕事はそこまで時間がかからないだろうと思い真知には連絡せずに出ることにする。

 久々の運転をして問題の家に到着する。

 チャイムを鳴らして暫し待つ。

『どちらさまでしょうか?』

 電話の声の主だ。

「拝み屋の蓮見です」

『お待ちしておりました、今開けますので』

 すぐにドアが開いて依頼主が姿を見せる。

 年齢は40代前半というところだろうか、恐怖のせいか顔色がよくない。

 玄関の奥にすぐ階段がある。話は玄関でしてしまおう。

「2階のすぐの部屋によくわからない生き物がいるんです」

 怪異は大抵よくわからない。

「わかりました。では直接拝見させて頂きます」

 靴を脱いで家に立ち入る。

 忘れていた、ライセンスの提示を行う。

「すぐに片付くと思いますのでご安心ください」

 それだけ言って2階へと上がる。

 一番手前の部屋に入る、12畳ぐらいだろうか。割と広い部屋だ。

 特になにも見当たらず部屋の中心まで歩を進める。

 背後から誰かが入ってくる音がする。

 反射的に抜刀し振り向く。

 そこにいたのは白崎だった。


「どういうことだ?」

 開口一番まずは問う。

「僕は千葉にいたとき常にトップの駆除士だった。藤堂が現れるまではね。そこで魔人という存在を知る」

 淡々と語りだす白崎。何が言いたいんだ。

「勿論成る方法もわからないし藤堂を追うしか道がなかった。そこで君たちに出会う。そしてあの事件、パズズの一件でキミは魔人化を果たす」

 過去をなぞっていく。大体言いたいことがわかってきた。

「何故キミなんだ!あの戦闘には僕も参戦していた、権利は僕にもあるだろう!」

 無い物ねだりもいいところだな。俺も魔人になりたくてパズズを斬ったわけじゃないし。

「キミを斬れば魔人化を果たせる、そのためにこの場所を用意した」

 妄執だ。

「強くなりたい、それだけの為に賞金首に落ちる気か?」

「それが僕の道だ!誰にも邪魔させない」

 こいつは色んなものを捨ててしまっている。退院すぐで体力の落ちているところを狙ってきたのだろう。

「復讐のために強くなりたいっていうのは嘘だったわけだ」

 刀を構える。もう力づくしかないだろう。

「ここでキミの異能は使えない。壁に穴でも開ければキミが賞金首に落ちるように手配してある。床を崩せばさっきの女が死ぬ。結果は同じだ」

「人質ってことか」

 頭が冷えていくような感覚に襲われる。俺相手に人質をとるとは死にたいらしい。

「僕の異能にとっては都合がいいがね。こんなふうに!」

 俺の後ろの壁から杭が飛び出す。身体を捻ってかわす。

 こいつの異能は繋がっている場所ならどこにでも杭を出せるらしい。

 距離を詰め刀を振るう。察していたのか太刀で防御する白崎。

「多少痛い思いするのは我慢しろよ。そうでもしないと目覚まさないだろお前。おまけだ、魔人化なしでやってやるよ」

 力を込めると白崎の肩に刀が食い込む。壁に手をつけ杭を生やす白崎。

 厄介な異能だが壁か床だけに気をつければ問題ない。

 再度突撃し横凪に払う。かわしきれずに腹が浅く裂ける。

 返す刀で右腕を狙う。白崎の太刀を弾き深く斬りつける。

 異能に頼った戦い方だったのか接近戦はさほど強くない。

「認めてたまるかぁぁぁ!」

 上段から太刀を繰り出してくる。半身ずらし刺突、白崎の胸に穴があく。

「ごふっ」

「異能に頼り切った戦いしてるからだ。今のお前じゃ話にならん」

 床から杭が3本生えてくる。足に裂傷を負うが問題ない。

 逆袈裟懸けに白崎を一閃する。

 ずるずると座り込み動かなくなる。

「地の強さでキミに負けていたって……ことか……」

「藤堂狙わないで俺を標的にした時点で弱さを認めてるようなもんだ」

 冷たく言い放つ。白崎は自嘲気味に笑い

「それもそうだね……。僕は千葉に帰るよ、修行のやり直しだ」

「満足できたらまたかかってこい、人質とかなしでな」

 言って部屋から出る。

 山田さんが駆け寄ってきた。

「あぁもう問題ありませんよ、中の男は救急車で運ばせますので」

「すいません、すいません!」

 俺を罠に嵌めたことだろう。正直どうでもいい。救急車を手配し家から去る。

 ロクでもない依頼だった。帰ってもいいことなさそうな予感がする。


 そして師匠が帰ってきた。

「ただいま、何か変わったことは?」

「藤堂がソファーでお茶飲んでることぐらい」

 すごい顔で驚いている。こっちも冷や冷やしながら師匠の帰りを待ったのだからこのぐらいはいいだろうと思う。

「藤堂!何しにきた!」

 珍しく声を荒げる師匠。

「勝者へのご褒美を伝えにね。キミにとって悪い話じゃないからききなよ」

 黙り込む師匠。仇の情報が手に入るのだから悪くはないのだろう。

「キミの恋人を殺したのは鳳仙という男、ただし居場所はわからない。国外かもねぇ」

「そうか、名前だけでも重畳だ」

 押し殺した声で言う。

「当時の依頼人なんて興味あるかい?羽根木って男でね財界の要人らしいんだがなんと北海道に来ているって話じゃないか」

 明らかに楽しそうに告げる藤堂。依頼人まで復讐対象なのだろうか?その羽根木という男が師匠の恋人を殺害するよう指示したとは思えない。

「羽根木、だな。わかった。勝者の特権しっかりと受け取った」

「んじゃボクは帰るよ。色々と忙しい身なんでね。あぁ仲間になりたくなったらこの名刺にある番号まで一報を」

 最後までふざけている。師匠が賞金首になるわけがない。

 そう言い残して藤堂は去った。

「真知、しばらく留守にするからお前は家に帰れ。仕事もなしだ」

「何をするつもり……?」

 問いに答えない師匠。

「お前が気にすることじゃない」

 絞り出すように言って外へと出ていく師匠。


 そして師匠は失踪した。

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