朔良―出逢いの後で―
俺の目の前に居る、佐伯は下を向いた。表情は分からないけど、きっといろいろ考えているのだろう。
俺がそう思った瞬間。
「へえ。ふられちゃったんだ。馬鹿みたい。」
言われたくない、一言。
その一言は、俺の心を血が出るかと、そう思うほど傷つけた。
(お前に、俺の気持ちが分かるかよ!)
唇を、噛み締めて、涙を、抑えた。
「何だよ…。」
自分でも情けないほど、小さな声でつぶやいた。
「え…?」
「何でお前にそんなこと言われなきゃいけねえの!?」
佐伯…は、小さく口角を上げた…。ように見えた。
「聞こえたの?独り言のつもりだったんだけど。」
(誤れよ!人を傷つけてっ!)
「ふざけんな!誤れよ!」
佐伯は汚いものを見るように、俺を、見ているように見える。
「誤ればいいの?…ごめんなさい。これでいいでしょう?」
(お前にっ!俺の傷ついた心分かんのかっ!)
俺は拳を握り締めた。下唇は噛み過ぎて少し血が出ている。
「本当に誤ってんのかよ!」
最後に、来た言葉は。
「何であなたに本気で謝らなきゃいけないの?」
氷柱のように、鋭くて。俺の心に突き刺さった。
佐伯は俺を見ず、桜の木を見ていた。
(俺より、桜の相手すんのかよ!)
「もうお前ふざけるなよ!人の気持ち…考えろよ!」
佐伯は、そういっても俺を見ず、手の上にのった桜の花びらを見ている。目は、死んでいた…。
俺は真剣に、涙を止めて佐伯に言った。
「おい!無視かよ!!佐伯っ!」
俺は絶えられなくなって、佐伯の胸倉を掴んだ。
(殴りたい!この顔を、ボコボコにしてやりたいっ!)
俺はそんなことを思うほど、イラついていた。
「………何?」
そう一言佐伯は言うと、俺に殺気を感じさせるほど睨んだ後、胸倉を掴んだ手を…はたかれた。
(そんなこと…。するのかよ…。)
俺の表情はきっと凍っている。視界が少しぼやける。
―涙が溢れかけた。
本当に、殺したい。そんなことすら考えかけた。
「ふざけるな…!」
俺は、ここまで起こったのは初めてだった。それほど俺は、温厚だと思うしあまり嫌な事も言われなかったが。
佐伯のお陰で、何かが切れた。
「ふざけて、無い。」
―馬鹿だな。俺。こんな奴の相手してたのかよ。
俺は佐伯の胸倉を放す。
「佐伯…、お前見損なった!」
殴ろうと思っていた自分に、少し笑ってしまった。
(こんな奴の相手、する価値なんてチリ一つねえよ。)
俺は、佐伯を全く見ず、教室へ走った。
家に帰った後も、佐伯に言われた事が全て胸に刺さって、
ナミダガ、 カレタ。