朔良―宣告の後で―
「亜由美〜!」
俺は、校門の前で俺を待っていた「彼女の」亜由美に手を振る。
校門横には、大きなつぼみを付けた桜の木が、俺を見下ろしていた。
「どうしたんだよ、亜由美。こんなとこで。」
「あ…あ…と。」
少し赤くなって、亜由美は下を向いた。
周りには、俺たちをじろじろと見る学校生でいっぱいだ。
「仕方ないな…。亜由美、俺の教室行こうよ。今人居ねぇから。」
俺は亜由美の手を引くと、亜由美がついて来れそうな速度で、教室まで走った。
「あ…ちょ…!朔良君っ!!」
俺は教室の前に着くと、亜由美に大丈夫?と一声かけた。
こくん。
亜由美が頷いたので、俺は少しほっとして笑った。
俺は教室のドアを開けると、俺の隣にある席の椅子を少し引いて、亜由美を座らせてから、自分の席に座った。
「で…どうしたんだよ?急に俺呼び出して。」
…………。
亜由美は答えない。
「な、亜由美。言いたくなきゃ別にいいんだぜ?」
俺は笑って言う。
いつも亜由美は言いたいことを整理するのが苦手のようで、話すときはいつも少し戸惑うのだ。
俺は椅子から立ち上がった…次の瞬間。
亜由美は俺の服の袖を掴んだ。
「違うのっ。今…言いたいのっ…。」
「…。分かった…。」
亜由美は下を向いて、手はふるふると震えている。
俺は静に椅子に座り直す。
「大丈夫か?亜由美…、言えるか?」
「だい…じょぶ…。」
亜由美はゆっくり深呼吸をする。そして唇を噛み締めた。
「あの…別れて下さい…。」
俺の全身が凍りつく。顔は眉間にしわを寄せたまま、動かない。…そんなことが、自分でよく分かった。
(俺たち、別れないって言ってた。亜由美が…俺の告白を聞いてくれたとき…すっげえ嬉しかったのに…)
俺の心の中は…絶望感に襲われていた。
亜由美は、下を向き、嗚咽を漏らしながら泣いている…。ひざの上に乗せている、すらっとした白い手は、ぎゅっと握り締めている。
俺は、やっとのことで咽喉から一つの言葉を繰り出した。
「嘘って言えよ。」
亜由美は、次の瞬間大声で泣き始め、急いで教室を出て行った。
「嘘って言えよ!なあ亜由美!!亜由美ーーっ!!」
教室から出て行く亜由美に…俺は叫んだ。
―あれから、1ヶ月。
俺はふと、あの校門の横にあった桜の木を思い出した。
「亜由美…。」
俺が桜の木の前まで来ると、何か人影が見えた。
―さあっ
桜吹雪が舞ったが、すぐにやんだ。
桜の下には、女の子が居た。
「あなた…誰?」
その子は突然聞く。
「君こそ…誰?」
俺も同じことを言う。
沈黙が続く…。
沈黙をしていても仕方ないので、俺は自己紹介をする。
「俺は、2年3組の春巳 朔良…だけど。………あれ、君どこかで…?」
なぜだろう?やっぱりどこかで見たことある顔なのだ…。
「……思い出した。私と同じクラスじゃない?」
「あ!そうだ!確か君は佐伯 綾ちゃん…だったよな?」
俺は名前と顔を一致させた。
「うん。よく覚えてたね。クラスに30人も居るのに。」
「俺、名前覚えるのは早いから。」
俺たちはまた沈黙する…。
「どうして…ここに?」
俺は、何気なく聞いた。
「なんとなく。じゃ駄目?」
「いや…。」
俺はそんなにさらりと言うとは思わず、少し戸惑った。…亜由美で慣れてしまったからだ。
「じゃあ、あなたは?どうして此処に?」
「俺は…彼女に振られたから…。」
さあっ
桃色の花びらが、僕たちの周りを舞う。
なあ
亜由美を
思い出させないでくれ