到着
無事に部屋に戻ることが出来てから、再び時が流れた。
そして、私たちは
私達は、とうとう目的の海へたどり着くことができた。
「まあまあ、船だらでですわ」
紫羅は準備とかで私達より一足早く、移動した。
牛蛙に見つからないための完全変装。またの名は男装をして、なおかつ町が『裏業界の物々交換』で盛り上がっている時を見計らってから、こっそりと甲板に出た。
よくよく考えてみれば、久しぶりの太陽。
ああ、でも、サクリファイスの館でもあまり当たってないから、ほとんど感激ってほどじゃないか。
なんでもない海の上に、10艘ほどの帆船が円を作るように並んでいた。
もちろん、船と船の間には十分な距離を置いていて、ぶつかることはないけれどもね。
そして円の中央にある大きな船。
その船は囲っているどの船とも比べられないほど大きなものだった。
「………」
ここにあの人がいる。
私に魔法をかけた思い人が。
「……」
長いマントと黒髪を男装らしくするため一つにまとめ、風でなびかせている深黒は、とても切ない顔をしていますの。
切ない顔ほど美しく。
水のように透き通った純粋な心で。まっすぐ前方を見つめて
深黒は…
深黒は完全に恋をしている人ですわ。
「気をつけて、降りてください」
移動は小型ボートに乗って。船からボートに降りる時には縄梯子を使うんだけども、はっきりといって恐い…
不器用な白百を見守るのは
「みこく~降りられませんわ~」
きゅうきゅうと鳴く子犬はゆっくりと降りていこうとするものの、いつ落ちてもいい状態。ボートを漕いでくれる船員さんと私は、気が気じゃなかった。
帰りも『これ』があると考えるだけででも、頭痛がする…
小型ボートでゆらりと運んでもらって。いよいよ『情報の町』へ
「え、また縄梯子ですの?」
白百は悲鳴をあげるように前方を見つめて言ったけれども、悲鳴をあげたいのはこっちの方よ。
でも細虫が迎えに来てくれたので(背中の羽を使って)運んでもらい、さっきの悪夢を味わなくてすんだ。
「ようこそ、情報の町へ」
細虫はわざとらしくお辞儀をし、目的地に着いた事を実感させてくれた。
情報の町
船でできた町は…普通の大型船と変わらなかった。
でも、ここが結婚式の会場であることを表すかのように純白の帆が張られていて、帆をつなげる紐は色とりどりのリボンに換えられていた。
「2人とも上を見てご覧」
細虫に言われ、中央に唯一ある帆を見上げてみると、縦に幾十もの切れ目がついている。
「結婚式にしては、ちょっと縁起が悪いわね」
「あれは、町のシンボルになるからね。仕方ないよ」
「まあ、切れ目がシンボルですの?」
「この船は風を受けて走る必要がないからだよ」
「………」
私達の会話が耳に入っているものの、深黒はぼうっと空を眺めていた。
「深黒」
「………」
「黒姫さん、牛蛙が現れた」
深黒はさっと顔色を変えて、身を構えたが飛びながら手を腰にあてて見下ろす丸虫の姿は、嘘だと言い表していた。
「丸虫…」
「黒姫さんよ。探したい気持ちはわかるが、牛蛙主人がうろついている事も頭にいれておいてくれ」
「……」
『そうだけれども』と無言で表したが丸虫は冷静に言った。
「鉢合わせしたんなら、向こうもやっきで探し回ってくる。何よりも、ここは無法地帯だ」
丸虫は、私の肩に飛んでくると鋭い声のまま話を続けた。
「黒姫さん。自分の能力を忘れてはいないだろうな」
「………」
「あんたは極上の絹を生み出す『黒雪』だ。そのことが裏業界の者達に知れ渡れば、どうなる?狙われるのは蛙商人だけじゃなくなるんだよ」
「………」
丸虫の言葉に下唇を噛む事しかできなかった。
同じ町、一つの船にいるっていうのに。それから近づくことができないのだから。
それも自分のせいで、私が黒雪と呼ばれる存在じゃなければ、あの人に会えるっていうのに。
「深黒。式が終わるまでの辛抱だよ」
私の名前を呼び、丸虫は慰めるように優しい声で言葉を続けてくれた。
「今は物々交換で船のテンションが高い。いくら海中都市の警備と俺らの目が光っていても、正体のばれた黒姫さんを守るのは至難の業だ。
式が終わって、招待客のテンションが落ち着いてから、探したって遅くはない」
「でも」
私は納得できなかった。
丸虫の言葉が正しいのはわかっている。
でも、会いたいという気持ちがワガママを言って反発してしまっている。
分かっているのに、会えないという気持ちが辛くて…。
「深黒。焦ってはいけませんわ」
私たちの会場を耳にしていた白百は微笑んでくれた。
「ちゃんと会えるんだから。いいじゃありませんの。焦ってはいけませんわ。
それに会えなくても、気持ちはちゃんと伝わるものですわ」
「そうだよ。黒姫さん、焦って台無しにしたら、意味がないんだから」
「………」
私は静かにうなづいた。
でも、視線は床からあげることができなかったけど。