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黒雪の婚約者  作者: 楠木あいら
牢獄の高級品
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盗賊と計画

「な、何ですの?その方は?」

 白百が驚くのも無理はないわね。

 鉄格子から覗く男はそんなに離れてはいないのにも関わらず、人形のように小さいのだから。

 間近にいる私でも、その男の体調は10センチしかなく、それが動いてしゃべる、というより生きていた。

「ちょっと待ってて白百。

 丸虫まるむし雑用係ができたから、紹介するわ。降りてきて」

「牛蛙商人に見つからなければ構わないけど」

 人形こと丸虫は承諾すると背にある透けているトンボのような羽を動かして鉄格子の間(丸虫サイズなら難なく通り抜けられる)私の肩に止まる。

 それを確認してから縄梯子で白百のいる床まで戻っていった。

「な、何ですの?この人形は?」

「人形じゃないわよ。私や白百みたいに珍しい一族よ」

 丸虫は小さな背丈にひょろりと細い人形体型をしていた。

「はじめまして白い姫君。俺はクップルングという盗賊団の一員で深黒の担当というべきかな」

「まあ、盗賊ですの?」

「そう、金のある奴らを襲って、潤う一族さ。

「深黒、黒姫さんには、ある取り引きで商売にしているわけよ」

 もちろん、脱走の手助けと、そのために必要な情報。『あの人』の行き先をね。

「黒姫さんって?深黒のことですの?」

「そう。ここの館では黒雪ブラック スノーと呼ばれているみたいに、俺は黒姫さんと呼んでいる。今は『お客さん』だからな。話す内容によって客と親友と呼び名を変えているんだ。深黒を黒姫さんと呼んでいる時は、あんたも白姫さんと呼ばしてもらうよ」

「そうですの」

「ちなみに『丸虫』っていう名前は盗賊団で使われている仲間用の名前で本当の名前じゃないから。そのうち会うかもしれない仲間たちの名前を耳にしてもそういう事だからびっくりしないでくれ」

「そうでしたか。そうですよね、丸虫さんなんてお名前にしては、あまりにも変わっていると思ってましたわ」

 ちなみに丸虫の本名は私も知らない。何か過去があるみたいで教えてくれないけれども。別段、困るわけじゃないからいいんだけれどもね。

「丸虫。出来た分を渡すわね」

 そう言って深黒は懐から糸の束をとりだいした。

「丸虫さん。取り引きにしては…深黒の差し出す、払う方が少ないように思えますわ」

「糸の量は、かなり大きいわよ。なんせ、ここの頭が着る花嫁衣裳分になるんだから」

「え、男がウェディングドレスを着る…」

「白姫さん。うちの頭は女だよ」

「まあ、女親分さんですの。格好いいですわ」

「………」

 白百の言葉に私と丸虫は顔を見合わせた。…ちょっと、性格を知っているものでね。

「で、丸虫。何かいい情報か逃亡計画、みつかった?」

「思い人情報は残念ながらゼロ。依然としてかなり難しいよ」

「そっか…」

 ため息をつく深黒の顔は切なさを感じた。

「でも、いい機会を手に入れたよ。世界一の情報屋と会える機会にね」

「世界一の情報屋。…それってかなり期待していいわけ?」

「ああ。もちろん」

「で、どこにいるの?」

「今は教えられない」

「どうしてよ」

「これは、こっちの切り札になるかもしれないからな。糸を全部貰ってからにするよ。

 まあ、怒るなよ、お客さん。これはれっきとした商売なんだから。

 その代わりといっちゃなんだが、いい逃亡案が浮かび上がっている」

「どんな?」

「今、ここの館に来ている一行。あれを使って、騒ぎを起こそうって話が持ち上がっているんだ」

「どさくさにまぎれて、逃げ出すって事ね。だったら…」

 私は白百を見つめた。

「使えるわよ。白百が」


 深黒と計画を練った丸虫さんは、その小さな体と羽で外に飛んでいきましたの。

 それから夜になりましたが丸虫さんが戻ってくる様子はなく、深黒は一つしかないキングサイズのベッド、私の隣で就寝してますわ。

「………」

 4、5日前。深黒を見に来た蛮呑王子様は、ずーっと私を見つめていたって、深黒が言ってましたの。

 私は一国の王族を観察するなんて行為は恐れ多くてできなくて、何度か視線を向けたくらいですが、その都度王子様と目が合ったような、私の勘違いのような気がします。

「………」

 白百は熟睡する深黒を見つめてから、ため息をついた。

 王子様の思いは…わかりませんが、深黒はこの事を利用して逃亡しようと考えているみたいですの。

「別に白百の気持ちを踏みにじるつもりはないわ」

「み、深黒」

 深黒はいつの間にか起き上がっていた。

「…白百が王子とやらに恋心を寄せるならば、王子と一緒になれば、それでよし。私はただ、王子様たちを利用して騒動を起こしたいだけ。

 その時、白百がここにいるか、王子様とついていくか、私と行くか考えればいいんだし。

 まあ、ここにいるのは、つまらないけれどね」

 それだけ言うと、深黒は横になり、すーすーと寝言をたてた。

「もしかして…寝言?」

 今のが本当に(都合の良い)寝言だったのか、そうではないのかはわからないけれど、うなづいてみました。



 王子様が白百に一目惚れをしていると確定できたのは、牛蛙の直接交渉ではっきりした。

「そうなんだ。2、3時間、いや1時間でもいいんだ。雑用係を貸してくれ」

 言い忘れていたけれども、牢屋の檻と壁の間に狭い通路があって、牛蛙は丸々とした腹をこすらせながらやってくる。

「別に何時間でもいいわよ」

 牛蛙にとって、せっかく渡した手伝いを取り上げるのは、私の機嫌を損ねるのではと思っているらしく、すまなそうな表情を浮かべていた…のかな。脂肪いっぱいついた顔だから、表情の変化がわからなくてね…。



「白百、大丈夫かしらね」

 牛蛙たちがいなくなってから、私は行動する事にした。

 もちろん、白百の様子を見るため、ちょっとの間、牢屋を抜け出す。

 鉄格子には鍵がかけられ、見張りたちは部屋の外にびっしりといる。

 しかし

 私は奥部屋のタペストリーを開け、外部屋に移動した。

 外といえども鉄格子が天井にはめられ一見、出ることができなさそうだけれども…

 私は前日とおなじ方法で縄梯子を引っ掛けて、上昇。

「右端にある鉄格子の棒を2つ。くるりくるりと回していけば、ほら、取れた」

 外部屋の鉄格子の脱走がばれるたびに、取替えられているけれども、取り替えられるたびに丸虫のいる盗賊たちに糸と引換で、工事してもっているわけ。

「まだまだ甘いわね」

 鉄格子から這い上がって出た私は屋根を見回して屋敷の下を見渡した。

 サクリファイス館は深い森の中にあるけれど、館の周りは木を伐り倒し芝生を植えつけていた。

 広くてその先にある門まで障害物一つないから、商品となる子や支払いを踏み倒して逃げようとする客を防ぐためのもの。

 前、白百に言った『鳥の翼がない限り』と言ったのは、この事。

 翼があっても丸虫みたいに小さいか高く飛ばなければ無理なのよ。

 でも、見張りは門を厳重に警戒しているけれども屋根にまでは目が届かない。なので、館内はいつでも脱走可能。

 深黒は屋根を慣れた足取りで端まで進むと、右下にある最上階のバルコニーに飛び降りる。

 大きめのバルコニーでその中にある部屋はかなり広めで買い物客が泊まれそうなのだが、家具一つ置かれていない。

「守銭奴の牛蛙が放置しているなんて変よね。

 何か事件でもあったのかしら?」

 疑問をこぼしながら深黒はバルコニーから部屋に入れる扉のドアノブを回し難なく侵入した。

 簡単に侵入できるのには鍵開けという盗賊の力があった。

「さてと」

 深黒は殺風景な部屋を見回し、中央に置かれている布袋に向かい、中を開けて服を取り出した。

「さて、さっさと着替えて現場に向かわないとね」


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