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黒雪の婚約者  作者: 楠木あいら
ゲーム
15/18

暗色の会話


 5年前、まだ多人種ハンターで世界中をかけまわっていた頃


 土下座する俺に周りでキラキラ光る金貨が音をたてて舞い落ちていった。

 それは俺が稼いだ金をサクリファイスの主人、奴業やつごうがぶちまけているからだ。

 遊ぶことをやめ、闇に手を染めながらも集めた金を。

「だめだだめだだめだ。

 こんなはした金で黒雪ブラック スノーを買えるとでも思っているのか」

「金ならばいくらでも集めます。

 いや、契約金なしで商品(珍しい多人種)を生け捕ります。だから」

「それでも足らんわい」

 その脂ぎった脂肪と同じぐらい欲が固まった牛蛙は、軽蔑の目で見下ろしていた」

「ふん、多人種ハンターのトップが、女1人でここまで落ちぶれるとはな。

 まあ、無理はないか…」

「奴業…さん?それって」

「違う。断じてやらん。

 いくら金を積まれても、あの娘だけは売らん。

 それに。あれは、わしの物になるのだからな」

 冷水をかけられたような気がした。

 他の者が聞いたならば『そうだろうな』とうなづくかもしれない。

「…今、なんて」

「愛人じゃよ。

 今、館の一部を改造して愛人部屋を作っているところだ」

「………」

「あの娘は、糸を吐き出す奇妙な娘だが…」

 下品な顔から出てくる言葉が耐えられなかった。

「うわぁぁがぁぁぁぁっ」

 気づいた時にはもう、長剣を抜き放っていた。

「貴様のような、てめえなんかに、指1本、触れさせねぇっ」

 何度、この怒りを剣に変えて振り下ろしたのか記憶になかった。


「はぁ……はぁ…」

 冷静を取り戻した時にはもう…館の主人は、奇怪な物体に変身していた。

 奇怪…もともと怪物だが。


 それから2年、いや3年かけて館の制圧に取りかかった。

 制圧といっても力によるもの。

 ゴム皮を着た俺を奴業やつごうと呼ばせ、従わない者たちをかたっぱしから片付けるだけだったが。

 それでも騒動が起きた。幾つもの危機を越えた。

 深黒がたびたび起こす館内脱走を完全に取り締まり、彼女の危機もこの秘密がばれることもなく。

 時は平静を取り戻した。

 俺は部下達に『奴業』から『隷度』と呼ばせるようにした。

 深黒を檻から開放する準備は整っていた。

 なのに


「何よ、この牛蛙。あんたの顔なんか2度と見たくない」

 お前は気づいてくれない。

「……深黒、み…」

 君の前でこのゴム皮を取ろうと決心したあの日も。

 お前はいつものように睨みつけて、何度も呼びとめて君の名を呼んだのに…お前は、入ることのできない奥の部屋に行ってしまった。



「…君は妖精というより食料に寄ってくる虫だな」

 回想を終えた隷度は窓外に向かい来訪者を見上げた。

「だったら、窓を閉めてください。

 クップルングに入用があると聞いて伺ったのですがね」

 丸虫は部屋の中に入った。

「……状況が変わった」

「その姿を見ればわかりますよ」

 丸虫は床に投げ捨ててある奴業の変身皮を見下ろした。

「牢屋の鍵を取り外し深黒は自由に動けるようになった。そのための護衛を1人よこしてほしい。

 黒雪ブラック スノーという存在だから、それなりの奴で、お前以外の奴にしてくれ」

「嫌われましたね。別に好かれたくありませんが」

「今回、君たちのせいで皮中の正体を証明できたけれども。今度こそ、本当に落ち着けるのか。俺は恐ろしくてならないんだよ」

「………」

 胸のうちを打ち明けた隷度であったが、それを聞く丸虫の目は鋭く、返答も冷ややかなものだった。

「とても真実とは思えませんね」

「ひどすぎるな、それ。俺は真実を話したんだから。ただ、どこか壊れているのかもしれないな」

「………」

 つりあがった目で隷度を睨んでから、丸虫は背を向けた。

「そうそう丸虫。君からでもいいけど、深黒が『探し物』にいきずまったら教えてあげてよ。探し物は人間貝の中にあるとな」

「…」

 振り返った丸虫の顔をじっくり観察してから、隷度は声高らかに笑った。

 狂ったように。



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