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黒雪の婚約者  作者: 楠木あいら
式と真実
13/18

出会い


 あの時の事は、色あせることなく覚えている。

 あの人にさらわれるため、私は闇の森を必死になって走っていた。



「………」

 あの人と出会ったのも、同じ森の中。

 特殊な能力を持っているせいか、私たち織魔おりまと呼ばれる一族の村は、織物と染物で生計をたてていた。

 森の中には染料の材料がたくさんあって、子供達は集めに行かされる。

 私ぐらいになると、もう織物を始めていたけれど、材料集めの方がまだ多かった。

 色のつく葉をカゴいっぱいに集め、帰路につこうとした時…

 あの人に会った。

 あの人は泉の湧く所にいて、木によりかかって眠っていた。

 でも、私という人の気配を感じてぱっと目を覚ました。

「…なんだ、子供か」

 一目で危険な人だとわかった。

 高そうな服を着ているけれども、無精ひげと似合うほどヨレヨレになっている。

 顔は整っているけれども、どこか近づきたくない気配を放っていた。

 腰にある長剣を軽々と使いこなせる筋肉がついていて、目の前に現れたものは無造作に斬り捨てられるられるだろう。

 明らかに村では見かけることのない人だった。

 頭は危険人物と判断し足は無意識に一歩下がった。急いで村に帰り、村長に報告した方がいいと考えていた。

 でも、足は動かなかった。あの人が持つ魅力に惹きつけられていた。そこにある泉のごとく。

 その魅力に引っかかってしまった私は目を逸らさず、あの人を見続けていた。

「何だ?用があるんなら、こっちにこいよ」

 温かみのない声。恐怖心が増したけれども、のろのろと近づき、おそるおそる隣に座ってしまった。

「………」

 隣にいる男の人は、得体の知れない肉食獣か蜘蛛で、牙か糸をふっかけて襲いかかってくるかもしれない。

 でも速く打つ鼓動は、そのせいじゃなかった。

 あの人が振り向くまで視線を逸らすことができなかったんだから。

「ふうん…お前」

 アゴを持ち上げ、顔を近づけると少女の顔がまっかに染まっていく。

「俺に興味があるか」

「……」

 返答どころか、うなづく事もできないでいた私に隷度は耳元でささやいた。

「今日の夜。ここに来たら。良いものをやるよ」


 危険だとわかっていた。


 でも、それを逃すと、この人とは2度と会えないのもわかっていた。


 だから私は、走った。

 村が寝静まる真夜中を待って。暗くて怖い生物がいる恐れを捨てて、森を走り抜けた。


 そして


「ひっかかったぞ」

 あの人が指定した場所に足を踏み入れた瞬間、網が私を包み込んで持ち上げた。

「俺の言った通りだろ」

 仲間に囲まれた隷度は得意げに笑っていた。

 彼は珍しい人種を探しては捕らえる『多人種ハンター』だから、私は獲物にされたのだ。

「約束だ。お前には、ご褒美だ」

 ニヤニヤと笑いながらあの人が近づき網ごしで長い口づけをかわした。

 それ以降、私は糸を生産できるようになった。

 私が糸を作れるのは、あの人を思う力によるもの…



 男装をやめて船に乗り込んだ深黒が館の従業員に告げるとすぐに通してくれた。

 牛蛙主人は従業員は退室するように命じると部屋の鍵をしめた。

「やっと戻ってきてくれたか、私の黒雪よ」

「………」

 深黒は見慣れいたはずの牛蛙姿を真剣に見つめた。

 風船のような体、醜い顔。肉に食い込んでいるが異様な力を感じる目。

 牛蛙主人が近づき、肉がつまってぶよぶよの腕を伸ばし、グローブのような手で深黒の頬に触れた。

 手に体温は感じない。手で触ってみるとゴムのような感触がした。

 牛蛙の脂ぎった顔が触れるか触れないだまで進んできたのに、私は離れることも、肉の中に食い込んだ目を見つめることもできないでいた。

 私から自由を封じたサクリファイスの主人、憎しみの塊だったのに。

 それが思い人だったんだから。

 途中で変わったとしても、私はこの人を嫌っていたんだから。

「深黒」

 でも隷度は、私の目を見つめていた。

 そして冷ややかな声で言った。

「このゲームはお前の負けだ。お前は5年もの間、俺のことを見抜けなかったんだからな」

「………」

「だが、もう一度、チャンスを与える。

 サクリファイスの館に戻ったら、俺は今までの通り変わらないフリをする。お前の事を閉じ込め、好きな物を与え、ご機嫌を伺う。

 醜いが一途な牛蛙姿の男に。

 だが、それは演技にすぎない。俺達の恋愛ゲームはその演技の中で、俺が本当に惚れさせることだ。わかるか」

「隷度が、私の事を好きになるようにすること?」

「わかっているじゃないか」

 隷度は意地悪く笑った後、立ち上がった。

「では、深黒。サクリファイスで会おう」

「まって隷度。これだけは聞かせて」

「何だ?」

「ゲームで好きになるようにするって事は。それまでは、何でもなかったの?5年前、出会った時も」

 隷度の行動は一瞬だった。

 あの巨大なのにも関わらず、しゃがみこむないなや、唇を押し当てていた。

 もし、心配して駆けつけた白百が物音をたてて現れなければ、長く続いていたのかもしれない。

 隷度は、そんな人だから。

「そういうことだ、深黒。我が身を忘れさせるほど、惚れさせてみせな」

 そう言って隷度は立ち去った。

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