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黒雪の婚約者  作者: 楠木あいら
式と真実
10/18

「深黒の方が花嫁みたいな顔をしていますわよ」

 ぼうっとする私を見て白百が言っていた。

「というより紫羅に緊張が足りないからだと思うんだけど」

 花嫁の控え室に移動した私と白百と花嫁の3人は、近づいてくる時を待ちながら、互いの表情を観察しあっていた。

 私の吐き出した糸を布にして作った花嫁衣裳。

 絹より光沢のある純白の衣装は真珠のようで真珠に包まれた紫羅も純白の力に包まれていた。

「だってもう、プロポーズをかわしているのよ、私達は。

 式は、それを正式にするためだけであって、私達はもう永遠に結ばれているのだから」

 それを表すかのように、今の紫羅は大人っぽく、美しかった。

「はぁ。羨ましいですわ。そんな言葉が堂々と言えるなんて」

「なぁに、運命の人が現れれば、すぐよ」

「頭」

 時を告げにきたのは、白百と同じ衣装を着た『赤粘土』ことメアだった。

「本当は、あんたに出てもらいたかったんだけどね」

 立ち上がった紫羅は、男装のままでいる私に向かって苦笑した。

「仕方ないわよ。船上で牛蛙に自分の存在バラしちゃったんだもの。

 特等席でしっかり見させてもらうわよ」

 式に参加する私を牛蛙が見つけ、式を台無しにされる恐れがあるからね。辞退させてもらった。

「深黒。費用としてもらったけど、この上ないプレゼントよ」

 ひねくれてはいるが、素直なお礼に『どういたしまして』と、答えると紫羅は意地悪く笑い、私を指さした。

「いーい、深黒。次はあんたの番だからね。この衣装と、同じぐらいのプレゼントを深黒にするから、覚悟しなさいよ」

 私はにぃっと笑いそれから

「おめでとう」

 と言葉を贈った。

「ありがとう、深黒。

 さ、そこに影がいるから、特等席まで急いで」

「深黒。こっちです」

 声しか存在を現さない影に従い、私は静かに走り出した。


「見張り用の物置部屋を急いで飾りつけたので、見苦しいものですが」

 影の言う通り特等と付けられた部屋には豪華な式ものと椅子を置いただけのボックス席ものだった。

「でも、眺めが最高じゃない。これ以上の特等席はないわよ」

 椅子の前にある窓は下階にある式場を前から覗くことができた。

「式の見張りって事は、やっぱり狙われているわけ?」

 ここから見る限り、どの客も礼儀をわきまえて、正装らしき服を着ていた。

「とりあえず、まともな客で、さらに厳重なチェックをいえれましたが、万が一があるかもしれませんのでね」

「まあ、この式でクップルング団はでかくなるから、快く思わない者が何かする恐れはあるでしょう」

 式は宗教性のない人前結婚式。

 ここにいる列席者全員が証人となり、裏業界連中に存在を覚えさせる絶好の機会にもなるからねぇ、万が一はなおさら警戒する必要があるわけよ。

「ここからだと、良く見えますからね」

 深黒は下階を見下ろした。

 3、40はある席にはぎっしりと招待客がつまっていた。花婿側の関係者か紫羅の人望なのかはわからないが。

 深黒は、招待客を1人ずつ見つめ『思い人』か探したが、式を始めるための音楽が流れてきたので中断した。

 思い人よりも親友である。

 聞いたことがない曲だが、落ち着いた演奏が流れた。

「神前ではないので、式もオリジナルになっているんですよ」

 花嫁と花婿が同時に入場してきたのを見て、影が解説した。

「そうね、花嫁とその父親がバージンロードを進むって言われているし」

「裏世界の者が神様を崇めるのはどうかって事なんですよ。

 中には崇めている方々もいますが、多種多様なので人前式にしようと決まったんです」

「花婿、助針さんの方は?崇めている神様とかあるんじゃないの?」

「それが存在しないようで」

「珍しいわね」

「頭は頭で存在しないので、裏業界の者たちに宣言する式になったんですよ」

 深黒は階下に現れた親友の晴れ姿に微笑んだ。

 自分が生み出した、絹より光沢がある糸からできた衣装。それを親友が着てくれているのは、この上ない幸せなものである。

 2人は赤い絨毯をゆっくりと進み正装した男の前に止まった。

「ただいまより、式を始めます。

 新郎、宣言をお願いします」

 本来なら神父になるのだか神前ではないので司会進行役になるのだろう。司会役の男は段の上にいたが『宣言』を言うと段を降りた。

「私、助針は宣言します。

 紫羅さんを妻として、いかなる時も助け合う事を」

 利き手を胸にあてて高らかに宣言をして、花嫁に替わる。

「私、クップルングの盗賊団の長、紫羅は宣言します。助針さんを夫として、いかなる時も助け合う事を」

 同じく利き手を胸に当てて宣言した紫羅が段を降りて進行役の男と入れ替わった。

「2人の宣言に異議がある方は申し出てください」

 進行役の言葉に深黒は息を飲んだ。

 まさかとは思うが万が一が存在した。

「彼を信じて、式の警備にあたらせています」

 影は静かに言った。

「うん」

 静かなる時が流れた。

「異議はないと、みなしました」

 深黒は息をはいた。


 その後は誓いの口づけ、指輪の交換と続くいた。

「………」

 深黒は親友と花婿の幸せに喜んだ。

「新郎、新婦の退場」

 式の終わりを聞き、深黒は忘れていた事を思い出した。


 アノヒトハ?ドコ?

「………」

 式は終わり、招待客は立ち上がり出口にむかっていた。

「ねえ、影。あの人いた?」

「私は警備として監視していましたが、それらしき人は…」

「そう」

 深黒は閑散とした式場を見下ろしたまま、動かなかった。


 アノヒトハ?ドコ?

「……」

 深黒はくるりと振り返ると走り出した。


 この海上都市にはサクリファイス館の牛蛙主人もいるが、深黒は恐れず走り続けた。

『この都市に必ずいる。どこかにいる』

 『あの人に会いたい』という一心が疲労と恐れを消した。

 式場を後にした深黒は、海上都市の船内を走った。




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