プロローグ
明は、52歳である。観光牧場で働いている。長年乳牛の担当をしていたが、現在水耕栽培によるイチゴの生産担当している。イチゴの生産は、ゼロからのスタートであり、明にとっては未知の仕事であった。それがかえって良かったのかもしれない。明は、国立の大学の農学部畜産学科を卒業している。その後別の大学の修士課程を修了している。研究者タイプと言うか、サラリーマンには向いてなかったのかもしれない。明にとって、イチゴ栽培と言う未知のものと出会えたことは、人生のターニングポイントになったのだ。
最先端のイチゴハウスであるのだが、明の休日は、朝牧場へ行きハウスに入りイチゴを見回りすることからはじまる。これは乳牛の担当をしていたときと、変わらない習慣である。牛もイチゴも口を利けないので、こちらから観察して、異常を出来るだけ早く見つけてあげることが大切なことである。明は、牧場で28年勤めてきているが、その点においては真面目である。
家庭に帰ると、妻と娘二人がいる。娘二人は、仕事の関係で東京で生活している。妻とは家庭内別居状態に陥っている。もう20年以上、肉体関係はない。どうしてなのだろうか?考えれば考えるほど、明にとっては悲しい現実である。だからと言うわけでもないのだが、明はこれまでに数人の女性と、交際を続けてきている。最後は、いつも振られるのだが、妻と別れない限り、あくまでも不倫であり道徳上間違いであるのだから、仕方ないことなのだ。