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【第三章、開始】私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第3章 天蓬元帥

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88 巨骨

 目の前の光景を理解し、受け入れるのに時間が掛かる。

 それはヴィルヘルムを始め、騎士たちも同じようだ。


『ァアアアアアアア!』


 がしゃどくろが悲鳴のような声を上げる。

 その声は、先程のバンシーの声よりも大きく、威圧感を伴っていた。


「くっ……!」


 ビリビリとした空気の震え。

 フィクションではない、実際の脅威として存在する巨大な骨の妖怪。

 キメラは魔獣として、まだ今世の世界観で地に足をつけていたけど。

 これはもう、他に説明しようがない。

 妖怪。そういう存在だ。


「ミニたち! 全員、湖から上がりなさい!」

「「「「ウキーッ!」」」」


 がしゃどくろが動き始める。

 巨大な骨は白い煙を纏っており威圧感がある。

 あんなものをリアルに見てしまったら恐怖を覚えるだろう。

 フィクションの映像慣れしている私で、ようやく冷静になれるレベルだ。

 これが動きやすく整えてやる理由はない。

 がしゃどくろは殺意を(みなぎ)らせている。

 あれは人に害を成すものだ。


「収!」


 閉水法で割っていた湖を元に戻し、水で移動の邪魔をさせる。

 あの巨体と、骨の通水性でどれだけ邪魔になるかわからないけど。



「カーマイン、アレはただの騎士では、おそらく手に負えない。君の力が必要だ」

「はい、ヴィル様」


 その判断は正しい。

 狼の魔獣や、地に足のついたキメラならばまだしも。

 あの巨体、騎士たちに剣や槍でどう立ち向かえというのか、私にもわからない。

 足元程度は崩せるかもしれないが、巨大な腕で薙ぎ払われたり、蹴り払われたりすれば、きっと一溜りもないだろう。


 だが筋斗雲に乗れて、如意棒を伸ばして戦える私は別だ。

 幽霊のようにすり抜けるでもないなら、きっとあの骨を私は叩き潰せる。

 だけど。


「だが、アレへのトドメは俺が刺す。君がアレを殺してはダメだ」

「……はい」


 そう。私はアレを殺してはならない。

 キメラの時のように緊箍児が発動してしまうかもしれない。

 もちろん、それで戦いが終わるならばいい。

 私が苦しい思いをするだけで、あとはヴィルヘルムに任せてしまえる。


 でも、今見たように倒したあとに新たな姿となって民に牙を剥いたら?

 キメラも倒してから一度、姿を変えた。

 この世界に現れるエネミー、魔獣は、そういう存在なのかもしれない。

 なら、私は途中でリタイアはできない。


 今、役に立つ推論かは不明だけど、聖女がここに来る予定がなかった以上、本来はもっと先で戦うべき強敵の可能性もある。簡単に倒せない相手だと。

 私はそれを呼び起こしてしまったというわけだ。ガッデム!


「……だが、どうすればアレが止まるのか想像できない。君にはわかるかい?」

「そうですわね……」


 ヴィルヘルムは現実的な対処を理屈で考えられるだろう。

 キメラのように、どう見たって三つの頭を潰すべき、という相手なら任せていい。

 でも、アレはたぶんフィクション寄りの存在というか、私が担当すべき存在だ。


 かくいう私も別に、がしゃどくろにまで詳しくはない。

 けれど、あの手の妖怪の弱点、攻略法としては限られるはずだ。



 一つ、日の出を待つ。

 大抵、日本の妖怪は朝になったら消えてくれるパターンが多い。

 夜だけの脅威という奴だ。

 だが、残念ながら現在、お日様は出ていて夜ですらない。

 このパターンは除外だ。


 二つ、成仏させる。

 見るからに人型を取る怪異。なら、その無念を晴らして供養、成仏させてしまえばいい。

 だが、これをできる人間はここにはいない。

 それは聖女か三蔵法師の領分だ。

 孫悟空は敵を打ち倒し、追い払い、助っ人を連れてきて事件を解決することはあるが、相手を成仏させてどうにかすることはない。

 だいたい、そういうのが必要な存在がいたら、それこそ三蔵法師の出番だろう。

 なので原典の孫悟空が成仏系の術を行使することはない。


 三つ、あの巨体を成立させている核を破壊する。

 または、あの巨体を使役している術者を倒す。

 とにかく、あの巨大な怪異の成立が、何か別なものを起因とすると考え、それをどうにかする。


 現実的な案は、これになる。

 それで無理なら、いえ、その前に全身の破壊が先か。

 破壊で止まってくれるなら嬉しいが……。


「……とにかく手足を破壊して、アレを止めますわ」

「……頼む」

「はい! 筋斗雲!」


 ヴィルヘルムを湖の底から引き揚げる時に呼び出した筋斗雲を、改めてそばに引き寄せる。

 私は筋斗雲に飛び乗り、如意棒を構え直す。

 前回と違い、目撃者がヴィルヘルムどころではないが、言ってはいられまい。


 その前に一応。


紫金紅葫蘆(しきんこうころ)!」


 如意棒を脇に抱え、〝ひょうたん〟をギフトで生み出し、その蓋をキュポンと開く。

 口をがしゃどくろに向けて。


「やい、がしゃどくろ! 白骨夫人!」


 大声で声を掛ける。これが有効なら御の字!


『ァアアアアアアア!』


 だが、がしゃどくろは目の前を飛ぶ私を気にもかけない。

 構わずに前進し、湖から出ようとする!

 無視された! この場面で私を無視するとか余裕じゃないの!


「駄目元だったけどね!」


 紫金紅葫蘆を消して、如意棒を構え直す。


「伸びろ、如意棒!」


 見るからに潰せば終わりそうな頭骨を私は潰せない。

 トドメはヴィルヘルムに任せる必要がある。

 手足から潰していくしかない。


「ウキーッ!」


 思いきり如意棒を振り下ろす。


『ァアアアア!』


 さっきは無視したくせに、今度は如意棒を受け止めるように手を振り上げる。


 ガギャッ!


 固い! 手応えが骨を砕いた感じじゃない!

 そもそも、欠片が零れた程度で崩れていない。

 思ったより強固なの?


『ァアアアア!』

「ひゃあ!」


 がしゃどくろの巨大な腕が思いきり振られる。

 もう、それは大迫力のフルスウィングだ。

 トラックの正面に立って、こちらに突進してくるのを見るかのよう。

 私は慌てて大きく跳び上がり、回避する。


 とてもギリギリで躱して反撃なんて芸当はできそうにない。

 大味に回避し、攻撃するしかない。

 あの大振りの攻撃、人家や騎士たちに振るわれたら、どれだけ犠牲が出るか。


「ミニたち! 相手の動きの攪乱と、ヴィル様のサポートをして!」

「「「「ウキーッ!」」」」


 如意棒で攻撃もしてくる私に、どうにか注意を引きつけられるが、湖から出ていこうとする動きは止まらない。

 巨大さが厄介というより、頑丈さとパワー、人々を心底怯えさせる姿が厄介だ。

 あんなものを、いきなり目の当たりにした人間は恐怖でパニックを引き起こすだろう。

 ヴィルヘルムも、この場の騎士たちもまだ冷静な方だ。


「うわぁ!?」

「!?」


 何!?


 私が、がしゃどくろの相手をして、ヴィルヘルムが湖の畔に待ち構えている。

 そこから離れた場所から騎士たちが陣形を組んで待機していたんだけど。

 今、湖から離れた騎士たちが悲鳴を上げた?


 筋斗雲で大きく回避しながら、悲鳴の上がった方へ視線を向ける。

 そこには……。


「は!? ()!?」


 騎士たちの陣形を乱すように、熊が仁王立ちして、黒い槍を振るっている。


「何!? あれ、熊……いえ、まさか!?」


 その熊は〝鎧〟を着て、槍を振るう。

 アレは如何にも野性の獣じゃあない。

 黒の甲冑、黒の肌、黒の槍を持つ、熊の……獣人(・・)のような出で立ち。


 火眼金睛でよくよく見れば、その頭には……金の輪(・・・)が嵌められている!


黒風大王(こくふうだいおう)!?」


 キンコジ仲間の西遊記ネームドが、登場シーンもなく、しれっと出現し、騎士たちに襲いかかっている!


「「「ウキーッ!」」」


 私が状況を整理する前に何体かのミニ・カーマインたちが熊獣人の元へ向かった。


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― 新着の感想 ―
 がしゃどくろは骨だけに結構堅そう。黒風大王モドキだかは例の用心棒の一人がスキルで変化した者なのか、あるいは封印解けちゃった本人系なのか・・・てか輪っかて枷嵌ってるんなら向こうも殺生出来ない筈だけど、…
500年前に封印されたとされる悪魔も熊の姿だったらしいって話だったけどコイツか!? 前にはがしゃどくろ、後ろには黒風大王。 さすがにマインちゃんとミニちゃんたちだけじゃキツそうだけど大丈夫か。 推定…
騎士たち生きとったんかワレェ! いやでも現状、足手まといにしかなってない……!黒風大王まで出てきちゃったけど、騎士たちじゃきっと歯が立たないからヴィル様とマイン嬢でそっちもなんとかしなきゃいけなくなる…
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