08 ギフテッド4
まぁ、冗談はさておき。
「それはどうしてでしょう?」
私は、困ったような態度で首を傾げる。
シトラス侯爵令嬢、初対面で仲よくもないし、命令される筋合いもない。
大人しく従う義理はないのだ。
「どうしてって……」
見せろといえば私が従うと思ったのか。
これは面倒くさそうなタイプね。どうしたものか。
この手の相手は付け上がらせるとよくない。
でも、私は無害ぶって微笑みを浮かべたまま。
「マロット公爵令嬢が恥をかかないために、ですわ」
「恥ですか?」
ちょっと意味がわからない。
「ええ!」
「……よく意味がわかりませんので、理由を詳しくお聞かせいただいても?」
「わからないですって」
「ええ」
私がそう返すと、なぜか呆れたような態度を取るシトラス侯爵令嬢。
「貴方、公爵令嬢なのに何も知りませんの? それでよく殿下の婚約者なんて名乗れますわね」
「名乗った覚えはありませんし、私は殿下の婚約者ではありませんわ。わかりました、シトラス侯爵令嬢は、その程度の情報収集力しかありませんのね。そんな貴方に聞くことはございません。きっと誰かに吹き込まれた嘘を声高に叫ぶしか能がないのでしょうから」
「なっ……」
ニコニコと微笑みながら、そう返してあげた。
「平然と間違ったことで私を愚弄しておいて、まさか反論されないとでも思いました? 貴方は今、その体たらくで公爵家の家名まで出したのですから。今日から我が家と敵対する覚悟をもって発言したのですよね?」
「ち、違いますわ! 何をそんな。教室での些細なやり取りで家の敵対など……」
「では、まず私に対して敬意をもった態度で接してくださいね。いったい何なのでしょうか、先程の言葉は? 私、貴方という人間が信じられませんわ」
私がニコニコしていると、先程までの余裕ぶった上から目線の態度がなくなり、悔しそうに睨みつけてくる。
プライドが高いんだろうなぁ。
「はぁ……。シトラス侯爵令嬢とは話をしたこともありません。ですが、どうやら親の仇かのように憎まれていますのね。もしかして今日から私に対する、ありもしない中傷をばら撒かれるのかしら? ねぇ、皆さん。どうか、そんなことがあっても信じないでくださいね? それはきっとシトラス侯爵令嬢の腹いせによるデマでしょうから」
私はこのやり取りを見守っている生徒たちにそう話しかけた。
まだ入学初日である。
クラスメイトたちだって、どっちがどうなのか評価も下せまい。
ありそうなことなので、こうして先手を打って彼女を悪者に仕立てておく。
「そんなことはしませんわ!」
「まぁ、そうなんですか!? 私はシトラス侯爵令嬢のことを何も知らないので、今のやりとりだけで、てっきりそういう人なのかと。確かに、私と貴方は関わったことがありません。ですので、お互いに、相手のことがどんな人間なのかなんて語る口は持っていませんものね?」
「……!」
ここで私に対してムカついたとしても、後日そういう陰険な噂を流すなよ、と。
そう釘を刺しておくのである。
プライドを傷つけられたというだけで、この手のタイプはそういうことしそうだもの。
……なんで入学初日で令嬢対決しているのかしら、私。
「はぁ……。もうここまでにしておきましょう。まだ入学初日ですよ? シトラス侯爵令嬢」
「貴方が始めたんでしょう!?」
「今日、ここに来て、一方的な要求をしてきた時点で敬意がない、私への愚弄でした。それすらも理解できていませんか? 貴方は意図的に私を嘲ろうとしていた様子ですが」
「ひ、被害妄想ですわ」
「それが本当にそうなのかは、貴方自身が知っているでしょう。どんなに上辺の言い訳を取り繕っても、貴方自身は『そうだった』と理解しているはず。私が反論するのは当たり前ということも。わかるでしょう? 私は大人しく黙っている人間ではないと。その認識を改めてから話しなさい?」
「う……」
少し怯んだ様子を見せるシトラス侯爵令嬢。
まぁ、こんなところね。初手で舐めてかかってきた相手に、多少はわからせた。
「では、話を戻しましょうか。なんでも私が恥をかかないためとか? それと授かった祝福にいったいなんの関係があるというのでしょう? 真摯に話してくださるなら、私も大人しく耳を貸しますわよ」
「…………」
悔しそうに睨んでくるけれど、見くびられたままよりはマシね。
「まさか何も話せませんの? 適当なことを言っていたのかしら? そんなに情けないこと、ありませんわよね?」
「理由はちゃんとありますわ!」
「あらそう」
微笑み淑女モードに移行する。いい加減、言ってくれるだろう。
「価値のないギフトだけで調子に乗らない方がいいと言いにきてあげたのよ! 貴方はギフトを授かったというだけで認められた気になっているみたいだけど……」
まったくそんな気にはなっていない。けど、流石にここは黙っていよう。
「貴方以外にもギフトを授かった生徒は入学しているのよ!」
「まぁ……」
そうなんだ。考えてみれば私、入学する生徒たちの情報収集とかしていないわね。
普通に入学を待つばかりだった。あとは自分のギフトについて苦悩するばかり。
同世代に関して、私ほど疎い高位貴族の子女はいないかもしれない。
「ふふ、ようやく理解が追い付いたみたいね?」
なんか勝ち誇られた……。
立ち直りが早いわねぇ。終わりよければよしのタイプかな?
「この世代で、ギフトを授かった生徒は、ヴィンセント殿下を含めて五人もいるのよ! ああ、貴方を含めると六人かしら? ふふ、貴方はおまけみたいなものだけど」
ヴィンセント殿下もギフト持ちだったんだ。
そっちの方が驚きである。
私があまりにもアンテナを張れていない結果だ。なーんにも知らない。
「ヴィンセント殿下のギフトは『太陽の覇道』! 邪悪を退け、臣下の士気を高めるカリスマと聞いていますわ!」
なんか説明が始まった!
でも、普通に有益な情報っぽいから素直に聞いておこう。
私が黙っているのでシトラス侯爵令嬢は得意顔で続ける。
「ジークヴァルト様のギフトは『不落の守護者』! あらゆる攻撃から対象を守り抜く、献身と守護のギフトですのよ!」
ジークヴァルト様というと、アイゼンハルト侯爵家の次男ね。
それくらいは私でも知っている。確か、ヴィンセント殿下付きの騎士よ。
「ジュリアン様のギフトは『真理の探究』! 分析・解析能力を持つ使い魔を従えるらしいわ!」
使い魔とかアリなんだ……。
「ベネディクト様のギフトは『深淵の福音』! 影の力で穢れを浄化するらしいですわ!」
ちょっと闇が深そうじゃない? それは。
「彼らギフトを授かった四人は、ギフテッド4と呼ばれておりますわ! 略してG4ですのよ!」
「ぶふっ……!」
思わず吹き出した。
G4って。首脳会談系なのか、それとも古きよき少女漫画系なのか。
「何を吹き出していますの!」
「いえ、つい……。はぁ……。あら? ですが、ギフトを授かったのは五人とおっしゃっていませんでした? 残りの一人は誰ですの?」
私がつい、そう聞いてしまうとシトラス侯爵令嬢はニヤリと笑った。
なぜそこで勝ち誇るのか。
「もう一人は、最近わかった方ですの。マロット公爵令嬢は知らなかったみたいですわねぇ?」
まぁ、他の四人についても知らなかったわね。
私は私のことで精一杯だったのだ。だって孫悟空なんだもん。
「最後の一人は……『聖女』のギフト持ち。今年、入学されたセラフィナ・アスティエール子爵令嬢ですわ!」
「まぁ……」
聖女、本当にいるんだぁ。というか、これで確信した。
この世界、絶対に乙女ゲームの世界だ。
そのセラフィナって子はヒロイン枠に違いない。
とりあえず私の言いたいことは、だ。
……西遊記、まったく関係なさそうねぇ。




