78 検証結果と尾行開始
検証から数日後。私はまだアイゼンハルト領にいる。
緊箍児が戒めているのは、どうやらギフトによる殺生らしい。
ただ、それも判定が微妙というか。
たとえば『金剛不壊』をオンにした状態で魚を殺しても緊箍児は発動しなかった。
あくまで体を堅固にする方向にしかギフトが働いていないからか。
正直に言って二度と味わいたくない痛みであったため、かなり慎重に事を進めた。
で、疑惑の判定がある。
それはギフトをオンにした状態で、素手で魚を殺した時だ。
私のギフトには間違いなく『剛力』が含まれる。
通常の私では持ち上げられない荷物を軽々しく持ち上げることができるからだ。
だが、剛力を発動した状態の素手で魚を殺しても緊箍児は発動しなかった。
「あら?」
「……発動しないね?」
けっこう時間をかけてみたんだけど無反応。
何がどうなっているのやら。
「もしかして相手による?」
あのキメラは人造魔獣だろう。即ち〝被害者〟だったのでは?
自らの意思でああなったわけではなく、またあそこで暴れることも必然ではなかった。
狼の魔獣を暴走させていたのもキメラの意思ではなく。
何者かの思惑により、あの場所でヴィルヘルムを襲っていた。
食らうためではなく、生存のためでもなく、誰かの悪意のせいで。
キメラそのものには罪はなかった、と。
西遊記に出てくる敵キャラも、妖怪ならば殺していいというわけではない。
紅孩児や黒風大王、黄風大王など、最後には天界に連れていかれるオチがある。
ラスボス枠の牛魔王だってそうなのだ。
牛魔王は最終的には降伏し、仏門に帰依することになる。
意外と『殺して終わり』ではないキャラクターが多いのが西遊記の特徴だ。
こういうことを言い出したら、猪八戒だって沙悟浄だって最初はバトル展開となる。
なんだったら玉龍もだ。
孫悟空が『西天へ旅する僧の弟子だ』と言えば、あっさりと彼らも弟子入りするはずなのに、とりあえず暴力で解決しようとした結果、無益なバトルが始まる。
もし、孫悟空が勢い余って最初のバトルで猪八戒や沙悟浄を殺していたら?
それは明確に間違った行いだろう。
「あるいは」
ヴィルヘルムが考察する。
「〝本来のカーマイン嬢〟が殺せる程度のことであれば『ギフトによる殺害』とは、みなされない」
「本来の私が殺せる程度……」
魚は当然、ギフトを使えずとも殺せるだろう。
もっと大きな魚であれば、その限りではないかもだけど。
「ギフトを使わなければ、カーマイン嬢では到底殺せなかったはずの相手を殺した場合に発動する」
「……つまり、たとえば腕にとまった〝蚊〟をパチン! と殺したところで緊箍児は発動しない?」
「わからないけど、そうかもしれないね」
……キメラは確実に〝ただの私〟では殺せなかったはずだ。
つまり私の頭に嵌められた緊箍児は。
・救うべき者を殺してしまった時に発動する。
・孫悟空の力でなければ殺せなかった者を殺した時に発動する。
……この二点の可能性が大か?
私がつい、そこらの小虫を殺してしまったところで発動しない。
お肉を食べるため、狩りをしたところで発動しない。
「本来の力では殺せなかった相手なんて検証できませんわね……」
「そうだね。救うべきだった被害者、というのも検証は難しい」
強者を殺したからはさておき。
キメラが本来、救うべき相手だったとしたら。
『聖女』のギフトであれば浄化によって、生きたまま救われていたのではないか。
私が介入したせいで、生きられるはずの命が終わってしまった? それは。
「カーマイン嬢。……俺は貴方に救われたよ」
「え?」
「あのキメラを殺さずに対処する方法なんて、あの時に考える余裕はなかった。貴方が来なければ、きっと俺は殺されていた。たとえ、あのキメラが哀れな存在だったとしても。あそこで殺していなければ、領民たちにはもっと被害が広がっていた。だから俺は貴方に感謝する。貴方のおかげで生きられたことにも、同じように救われた民たちの分まで」
「ヴィル様……」
「そもそも、あのキメラを最後に打ち取ったのは俺だよ。もし、それが罪だったと言うのなら、その罪は俺も背負うべき罪だ。君だけの罪では決してない」
きっと彼も同じ結論に達したのだろう。
私は本当に無益な殺生をしてしまったのではないか。
でも、そのおかげで救われた命もあるのだ。……うん。
「ありがとうございます、ヴィル様」
「礼を言われることではないさ」
「……ふふ」
私は微笑み、彼と視線を交わす。
こうして私たちの緊箍児検証は終わった。
これ以上は確かめようがない、ということで。
今後とも慎重には扱うが、日常生活に支障が出るほどでないと思う。
どうやらガッチガチの戒めというわけでは、ないらしい。
「カーマイン嬢、気をつけて」
「はい、ヴィル様」
検証を終えた私たちは、次の行動に移る。
捕まえた賊たちを解放し、私がギフトを使って彼らを追跡するのだ。
ヴィルヘルムも同行したがったが、単独行動の方が動きやすい。
いざ戦闘という時は、彼の手を借りた方がいいのは経験からして間違いない。
最強なのは孫悟空であって私ではないのだから。
なので、今回はあくまで追跡などの調査のみ。
これは本家・孫悟空もわりとやる偵察任務だ。
相手の情報を調べてから、猪八戒たちと合流して今後の方針を打ち出すのである。
そんなこんなで『世直しクウゴ』が捕まえた賊たちが世に解き放たれる。
私は姿を変えた上、隠身法で透明化し、彼らを追いかけることに。
念のため、身外身法で個別に追跡させておく。
「身外身法」
賊たちの人数分×二のミニ・カーマインを出す。
「「「「ウキーッ!」」」」
ちょっと久しぶりにミニたちだ。
この地では赤髪の妖精として認知されてしまっている。
「七十二変化、変われ!」
ボボボボン! とその妖精姿に変化させておく。
ミニそのままの姿だと流石に私と関連づけられそうだからね。
「命令、透明になって、さらに小さくなって二人一組で一人ずつ追跡。一人は追跡を続け、一人は連絡役。私が見失った時は連絡役が居場所を報せに戻ってきて」
「「「「ウキー!」」」」
再びボボボボン! と煙とともに透明になるミニたち。
今の私は火眼金睛を発動しているため、その姿を視認できる。
「行って!」
「「「「ウッキー!」」」」
元気よく飛んでいくミニ・カーマインたち。
私も、姿を隠して尾行を始める。
ヴィルヘルムという相談相手ができたことで、隠身法などを使った際の私がどう見えているか教えてもらった。
なので。
「筋斗雲!」
尾行は空からやることに。どうやら雲ごと見えなくなっているとのことだ。
以前、お城から出る時の『呼風喚雨』は必要なかったわねぇ。
筋斗雲の上に座って、賊たちの頭上を見下ろしながら追跡。
火眼金睛であれば遠目でも視えるので、ある程度は離れていても平気だ。
さらにミニたちが透明・小型化して賊たちに纏わりついているので逃がすことはないはず。
さーて。鬼が出るか蛇が出るか。
私の孫悟空ミッションが始まるのだった。




