68 夏季休暇
ヴォルテール辺境伯領は北西の国境だ。
国境は広大な森を挟み、隣国に繋がっている。
私の暮らす国、グラムザルト王国の形は……別に中国っぽくはないわね。
北欧的な位置かも不明。まぁ、大陸や国の形が地球と一緒はないと思うけど。
世界地図ではないから、国としての大きさがいまいちピンと来ない。
筋斗雲でよその国とか行けるけど、まぁ、直近の問題を片付けてからよね。
まずは緊箍児を外してからだ。
エミリア嬢のラウゼン男爵領が、けっこうヴォルテール領に近い。
男爵領にしては大きいかも。この立地、食料系の支援ができそうかな?
例の一件でラグナ卿に劇的に救出されていたとしたら惚れ込んで縁談を願ってもおかしくない。
流石にこれは、こじつけだろうか。
それとなくラグナ卿の婚姻関係とか調べてみる?
でも今、そっち方向に露骨に動くと噂が加速しそうよねぇ。
フィナさんの実家、アスティエール子爵領は王国西側の領地。
農地、森、山、川がある。内陸にあり、海とは面していないわね。
いわゆる田舎ではあるが、領都らしきものも、きちんとあるみたい。
こう見るとけっこう遠いわね。
「マロット公爵領とは比べものにならないと思いますけど……」
「そこを比較しても仕方ないわよ」
マロット公爵領は王都から東側にある。
アスティエール子爵領とは王都を挟んで真反対の位置だ。
夏季休暇にアスティエール子爵領に遊びに行くとなると、行って帰っての時間がかかり過ぎる距離ね。
……私の場合は筋斗雲で行き来すればいいか。
領地に顔を出すのも視野に入れておきましょう。
「領地に帰ることは他の誰かに報せている? この場合は学園かしら?」
「あ、ええと。教会には報告を入れていまして。あとはジュリアンさん経由で王宮にも」
「そう。護衛を出してもらえそう? なければ私が手配してもいいわ」
「あ、はい。護衛はつけてくれるみたいです。教会と王宮から」
「両方から?」
「はい。でも、どうしたらいいのか。ただ家に帰るだけなのに。もちろん、私のためにそうしてくれるとわかっていますけど。でも、大げさなようにも思ってしまって」
「遠慮することはないと思うけどね」
「でも、今の私は何をしたわけでもないんです。ただギフトを授かっただけですし。それなのに、そこまでの待遇は……」
責任感が強いのねぇ。或いは向上心かしら。
尽くされる今の立場に酔うでもなく、期待に応えようとしている。
天然で猪突猛進だけど、善良さが滲み出ている感じね。
流石の私も、もう彼女が転生者だとは疑っていない。
ラグナ卿のあのギフトでさえ転生者じゃないんだものね。
「あれからアイゼンハルト領には行ってみたの?」
「あ、はい! ジークヴァルトさんが一緒に来てくれました!」
「じゃあ、聖女のギフトを授かった者として、きちんと人々の力になれたんじゃない?」
「は、はい。魔獣災害で怪我をされた方たちの助けになれたと思います」
「なら、充分に仕事しているわ。でも、フィナさんはもっと力になりたいのね」
「……はい!」
正義の味方に反応するくらいだものねぇ。
私がちょっと『もっと暴れてみてもいいかなぁ』と思うのと一緒か。
力を使う場面がほしいのだ。
え? 一緒にするな? 失礼な。広義の意味では同じである。ウキーッ!
「夏季休暇に領地に遊びに行くなんて言ってしまったけれど。もしかしてフィナさんは他にやりたいことがある? だったら、そちらを優先してくれていいわよ。私も時間を作れるし、自由だからフィナさんのしたいことに合わせてもいいわ」
「え、いいんですか?」
「ええ、もちろん」
行動の主体は彼女に委ねた方が、あとの展開も読みやすいからね!
「でしたら、その。領地に帰るまでにいろいろと寄り道をしたいと思いまして」
「寄り道?」
「はい! 各地の教会や、領主様にお会いして、何か困っていることはないか。『聖女』の力でお役に立てることはないか聞きたいと」
「教会はともかく、領主に話を聞くのは事前に根回しが必要そうね。その計画って、もう殿下たちには話した?」
「いえ、マイン様に初めて言いました!」
ああ……。こういう話、本来は私が聞く話じゃなさそう。ま、それはそれとして。
「そうなのね。私も協力するけど。殿下たちに相談した方が話は早いかもしれないわね。領主たちも殿下が動いているなら、ぜひにと言ってくれるでしょうから、その方がいいかも」
「確かにそうですね! ですが、こういう我儘でヴィンセント殿下が動いてくれるのでしょうか」
「提案としては悪くないから、細かい部分を詰めて再提案してくれると思うわ。私の家からも協力すると言っていいから、さっそく話していらっしゃい」
「はい! 私、行ってきます!」
思い立ったら即行動のフィナさんは、その場でバビュン! と去っていった。
なんとも純粋でまっすぐな人である。眩しいわねぇ。
そうして聖女の王国巡り案は、めでたく殿下の許可を得る。
各地の領主と聖女の対談が成立。そこにヴィンセント殿下も同行するそうだ。
その方が彼女一人で行くより受け入れられやすいわよね。
殿下の方も地方の領主に話を聞けて、王族としてよし。
殿下が行くなら、ということでG4も一緒に動くことになるらしい。
そうなってくると協力するとは言ったものの、私は同行しない方がよさそう。
変に彼らと諍いになっても気分がよくないからね。
フィナさんは残念がりそうだけど、まぁそこはご愛嬌。
「それにしても、あれよという間に決まっていくわねぇ」
ヒロインとG4が同時に動く。
各地の領地に彼女たちが寄り道するなら、どこで何が起こるやら。
「……私も私で別に動こうかな」
イベントの奪い合いのつもりではあるんだけど。
学園外でのイベントは流石に読みづらい。
G4がきちんと揃って行動するなら安全は確保されていると見做そうか。
ここは表向きの彼らの動きに合わせて、その裏で何が動くか見極めてみるのもいい。
フィナさんとの夏季休暇の予定はアスティエール領で合流すると約束し直した。
そうして、いよいよ学園は夏季休暇へ。
夏季休暇を迎えた私のもとには二通の手紙が届いていた。
一通はヴィルヘルムから手紙。
もう一通はヴォルテール家、ラグナ卿からの手紙だ。
二人が指定する日程は近い。
普通に考えたら両方をこなせないので、どちらかに日程を調整してもらう必要があるけれど。
「……筋斗雲があれば余裕よねぇ」
いろいろと気になることも多いし。
二人と会うだけでなく、フィナさんたちの様子も見たい。
ここはスケジュールを詰めて対応しましょうか。
というわけで。家には適当に誤魔化しを入れつつ。
「筋斗雲!」
雲に乗って空へ飛び立つ。
天気は快晴! 新たな敵の姿はなし!
フィナさん以上に、この夏は王国中を飛び回って旅行するのもいいわねぇ!
「よっ!」
いつもは座って移動する筋斗雲の上で私は立ち上がる。
さらに大した意味もなく如意棒を取り出してみた。
「如意棒! 七十二変化、解除!」
いつもは誤魔化している緊箍児を出す。
どの道、隠身法で姿は隠しているのだけどね!
ラグナ卿でもないかぎり一般人には気づかれまい。
「我は斉天大聖孫悟空! ここに参上! ……なんちゃって!」
この口上はお釈迦様フラグ? それは言いっこなしである。
いろいろな問題を置き去りにして風を切る爽快感。
偶にはこういうこともしていかないとね!
「ウキーッ!」
私は筋斗雲に乗って大空を飛んでいくのだった。
第二章、ここで完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
そしてストックを使い切りました!
ここからは定時更新ではなく、不定期更新・ライブ感執筆スタイルに戻します!
第三章で何が起きるか、作者にもわかりません!




