06 どうしろと?
いやいやいや。
「どうしろと?」
この世界が、魔王を倒す必要があって勇者が旅に出るような世界ならわかる。
あるいは、冒険者ギルドを中心にして、たくさんの魔獣と戦う世界ならわかる。
あとは男性なら大喜びのギフトかもしれない。
でもね?
私、女だし、公爵令嬢なのよ。別に戦う機会とかそんなにない。
別に戦うことも暴れることも好きじゃない。
しかも平和に学園に通える世代。
第一王子殿下と婚約の打診がくるとか、そんな環境。
どう考えてもハイファンタジーじゃなく異世界恋愛の世界でしょう?
そんな世界の、ただの貴族令嬢に孫悟空の力を与えて?
「どうしろと?」
いや、本当。
明らかに世界観に対してオーバースペックでしょう。
『世界最強になったけど、それでどうするの? スローライフ? は?』
とか、ツッコミが入るやつよ。
確かに、能力として見るならば破格の力かもしれない。
おそらくチートそのものだろう。
斉天大聖孫悟空。
言わずと知れた西遊記の登場人物の名だ。
前世、地球においてもファンタジー世界の最強格。
そうそう右に出る存在などいない、古くからの暴れん坊。
東洋のスーパーマン。幻想の中で最強オブ最強かもしれない。
けれど、大きな。大きな! 問題がある。
孫悟空ってね、最強でチートなところもアイデンティティーだけど。
同じくらい〝やらかし〟がすさまじいことで有名な存在なのよ。
このギフトの名を知った時、私が警戒したのは二つのことだ。
一つは、このギフトを行使するにあたって〝代償〟が発生しやしないかということ。
即ち、それは『五百年間の幽閉』だ。
孫悟空は天界で大暴れして、お釈迦様の怒りを買った。
その結果、五行山という場所に五百年の長きに渡り、封印された。
しかも、その封印の仕方は山の下敷きにするというすさまじいものだ。
これが私の恐れている『仏罰』である。
強い力には代償がつきものなのよ。
調子に乗ってギフトを使って好き放題にしていたら、いつか、そうして仏罰が下るかもしれない。
しかも、その結果が五百年の幽閉だったら? 恐ろしくて仕方ない。
だから私は信心深く、謙虚にあり、神に祈る生活を送ろうとしたのだ。
このギフトで、決して好き放題に暴れ回ってはならない。
もちろん、ギフトの名の通りの運命を、私がそのまま辿るとは思っていない。
でもねぇ。警戒しておくにこしたことはないでしょう?
二つ目の懸念。
それは孫悟空の能力の一つである。能力というか、体質というか。
孫悟空は不老不死、または不老長寿の存在になった。
だからこそ五百年もの幽閉をされても生きていた。
「流石にギフトで不老不死にはならないと思うけど」
それでも、私は最低でも十七歳になってからしかギフトをまともに使わないと決めた。
できれば二十歳から二十三歳。
不老になるとしたら、子供のままの体なんて嫌だ。
かといって歳を取り過ぎていても嫌。だからこその年齢制限だったのよ。
これは流石に杞憂と思いたい。
今のところ、きちんと私の体は成長して、歳を取っているようなので。
とりあえず子供のままの姿で固定ってことにはならなそうだ。
強い力だけれど、それには代償が伴うかもしれない。
それも取り返しのつかないほどの大きな代償が。
そう考えてギフトにあまり頼らないことを誓っていた。
ちなみに『曇り』にするために呼んでいたのは世界で最も有名な雲だ。
そう、呼び出した雲の正体は、筋斗雲である。
それが『曇りの聖女』の正体なのだ。
「まだ乗っていないのよねぇ」
いつかは乗るのを試してみたいけど。
でも、それで調子に乗りそうだから、ちょっとね。
「問題は、こんな大げさなギフトを授かってどうするのかって話よね」
今回は役に立った。
でも、日常でこのギフトを使う必要性は、ほぼないと思う。
否、あってたまるかというか。
本当、こんな強大な力を使って何をしろって言うのよ?
ライバルになりそうな令嬢をぶっ飛ばすの?
完全にオーバーキルになるわよ!
「ああ、でも芭蕉扇は有用かなぁ」
逆の使い方も可能なのが怖いところだけど。
消火活動としてはかなり有能だ。
私としては、やっぱり仏罰を避けるために徳を積んでおきたいのよね。
だって代償で五百年幽閉とかになるのは怖すぎるもの。
大いなる力を持つ者として、力の振るい方には物凄く気をつけたい。
ちなに芭蕉扇って羅刹女の持ち物のはずだけど。
孫悟空も使ったことがあるからか、きちんと取り出せたのよね。
如意棒と同じカテゴリーなんだ。
これなら、例の『ひょうたん』も出せそう。
あれこそ、いったいどこに使い道があるのかわからないけど。
そんなわけで私はこれからも謙虚に生きていきたいと思っている。
仏罰が怖いから。
ギフトの行使についても自らセーブして使う方針。
「もう一つ、警戒しておきたいのは」
流石にこんなギフトを授かったなんていうネタはないと思うんだけど。
私が転生したこの世界がなんらかの物語の世界って線よね。
私に心当たりはない。ないのだけど、なぜかとても嫌な予感がするの。
今回の襲撃者とか、その伏線なんじゃないかって。
「もし、私がこのギフトを授かっていなかったら?」
私は馬車の中で火に呑まれていただろう。命が助かったとしても体や顔に火傷の痕が残ったはずだ。
何より襲撃者たちは明確に私を狙っていた。
この世界の私、普通に敵がいるみたいなのよ。
特定の誰かに心当たりはない。
ただ、今回の事件が『物語前の出来事』のような気がして仕方ないの。
ハズレギフトで、火傷持ちの公爵令嬢。
そのくせ、第一王子の婚約者候補なカーマイン・マロット。
……波乱がありそうだなぁ、学園生活。
ところで私の名前、頭の『カ』とお尻の『ロット』を足すとアレに似ているわよね。
でもギフトの元ネタは原典の方だけみたい。
それだけは不幸中の幸いかしらねぇ?




