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【第三章、開始】私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第2章 乙女ゲームは八十一難

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57 ひょうたん

 エミリア嬢を連れだした窓を内側から閉じ、透明状態で待機しつつ、火眼金睛で主要キャラたちとエミリア嬢の様子を確認するため、千里眼を飛ばす。


 ヴィンセント殿下は困った様子でドレス姿の女子生徒たちに取り囲まれている。

 女子たちに囲われながら、それでも周りに視線を向けて何かを探している様子だ。

 もしかして私を捜していたりするのかしら。

 まぁ、流れ的に? でも、殿下たちのダンスが終わるくらいのタイミングで声を聴いて、会場を抜け出したからね、私。


 フィナさんも異性に囲まれていた。

 さすがヒロインちゃん。でも困っている様子だ。

 本来は、あの場にいて彼女を守ることの方が緊箍児を外すことにつながりそうだけど……。

 でもまぁ、エミリア嬢があの状態だったのだから、この行動を間違いとは言うまい。


 フィナさんも困惑しながら視線が泳いでいる。

 あの場に他にもヒーローズがいるのだから、彼女が危険なら動くと思う。

 嫌がらせは受けるかもしれないが、命の危険まではたぶんないだろう。


 ジークヴァルトはピンク髪のツインテール令嬢に腕を絡まれているまま。

 ジュリアンさんはレティシア嬢に熱い視線を向けていて周りを気にしていない。

 ベネディクト氏は相変わらず部屋で一人、祈りを捧げている様子。


 エミリア嬢は無事に生徒たちの行き交いの多い場所へ運ばれている。

 その近くには私の分身が待機し、彼女を守っている。

 二人とも透明状態なので生徒たちにはまだ気づかれていない。


 とりあえず主要キャラ勢に不穏な気配はない。

 けど生徒が誘拐されるような事件が本編に無関係とは……。

 メインキャラたちが知らない間に何件もの事件が発生したあと、本格的にストーリーが動き始めるパターンか。


 隠し扉の存在を知っていて、女子生徒の誘拐とか。

 何を目的にしてそんなことをする?

 クソガキの性欲で襲うやり口にしてはずいぶんと手が込んでいる。

 公爵令嬢襲撃とか、聖女誘拐事件とかある世界観だからねぇ。

 起きる事件がけっこうヘビーなタイプのシナリオだ。


 しかも、その実行犯がおそらく生徒だろうというのが救えない。

 あいにくとギフトの制限のせいで殺せないが、実行犯には二十棒は食らわせてやりたい。

 個人の力でどうこうできると思うのは自惚れだが、こちらは斉天大聖孫悟空である。

 三蔵法師から離れて行動して悪党をぶちのめすのはいつものことだ。


 問題は法師の目さえ逃れれば、悪党を叩き潰して殺してもいいのが本家として、私はそういうわけにはいかないこと。

 狙うのは腕や足か。


「如意棒、幌金縄。それから……紫金紅葫蘆(しきんこうころ)


 蓮花洞(れんげどう)の妖怪兄弟が盗んだ五つの宝のうち、芭蕉扇(ばしょうせん)と並ぶくらいに有名な〝ひょうたん〟。

 やはり、これもギフトで出せたか。

 幌金縄を腰にひっかけ、如意棒を右手の肘で押さえつつ、ひょうたんを見る。


 紫金紅葫蘆は相手に呼びかけた際に、それに相手が応じれば、たちまちひょうたんの中に相手を吸い込んでしまう宝だ。

 吸い込んだ相手は一時間もするうちに体が溶けて酒に変わってしまう恐ろしい道具。

 基本、これは人殺しの道具となる。

 本家・孫悟空はともかく私のギフト特性とは相性が最悪。

 でも呼んで応えさせただけで捕まえられるのは大きい。

 あとは死ぬ前に、さっさとひょうたんから出して拘束してしまえばいい。


「ま、念のための準備ね」


 正直に言って『使ってみたい』のはある。

 が、それで何が起きるか、そのリスクはなんなのかわかっているので自重する。

 でも、必要とあらばなんでもするべきだ。


 ちなみに『五つの宝』の最後は、このひょうたんと同じ能力だ。

 ただ名前が違うだけのシロモノ。なので、私がそれを使うことはないだろう。

 紫金紅葫蘆、七星剣、幌金縄、芭蕉扇がギフトとして本家・孫悟空より便利な部分となる。


 ダンスパーティーがどうやら終わりに近づいた頃。

 チャンネルを回し見るように千里眼で複数人の様子を窺っていた私は、ようやく待機している部屋に向かってくる足音を聴いた。


 いよいよかと如意棒を固く握り締める。

 キメラよりはマシだろうとは思うが、普通の女性はこんな危ない真似、してはいけないものだ。

 ギフト頼りの私も不安や恐怖はあるものの、それを覆せるくらいの万能感もある。

 落ち着けと、深呼吸してから息を潜めた。


 なんだかんだ孫悟空も暴れ回る前にこうして潜伏して敵情視察をすることが多い。

 その時の孫悟空はだいたい小さな虫となっているが、似たような状況だろう。

 私もそれに倣って、まずは様子を窺うことにする。


 やがて何者かが部屋に入ってきた。


 入ってきたのは、やはり男子生徒だ。

 わざわざタキシードを着ている奴と制服のままの奴。

 見た目的には判別しづらく、一年生か二年生かは不明。

 一緒に行動しているのはどうやら三人らしい。


「…………」


 無言で部屋を見渡すが、透明化している私には気づかない。

 心臓がバクバクと鳴っているので、落ち着くのに精一杯だ。

 キメラ戦の時は私もテンションがおかしかったからね。この状況とは大きく違う。


 男たちは無言で壁に向かうとアイコンタクトで隠し部屋を開こうと動く。

 どうやら鍵穴があったらしく、鍵を持ち出した。

 まさか孫悟空の術で開閉されているとは思うまい。

 しかも捕らえていると思っているエミリア嬢は偽物だ。

 私がここで黙って安全を確保するだけで、今回の被害者はゼロに収まる。

 だが見過ごす気はない。これも緊箍児を外すためだ。

 恨みはないが徹底的に潰させていただこう。


 隠し部屋を開き、中で気を失っている偽エミリア嬢を確認する。

 まだ意識がないことを確かめ、男たちは頷き合った。

 さて。ここから彼女をどうするつもりか。


 獣欲を満たすために襲うには手間をかけている。

 どこかに連れていくつもりなら、そのアジトも把握しておいた方がいい。

 私なら連中に見つからないまま追跡も可能だろう。

 今夜は長い夜になるかもしれない。


 男の一人が偽エミリア嬢を担ぎ上げる。

 拘束は外さないままだ。あのまま動けば目立つはずだが、どうするつもりか。

 そう思っていると、男たちは大袋を取り出す。

 定番といえば定番か。その大袋に偽エミリアの体を入れ、部屋前に運んできていたらしい毛布の束にさらに包む。

 現代日本のものとは少し形状や材質が異なる台車に乗せ、運び出そうと動く。

 二人がそうして偽エミリア嬢を運んで外に出るが、一人は残り、隠し部屋を再度隠し始めた。

 別行動か。これは。


「ふぅ……」


 隠し部屋隠蔽のために残った制服姿の男子生徒は、作業を終えると深く息を吐き出し、部屋にある椅子にドカリと座った。

 完全に油断しているわねぇ。

 私は、ひょうたんを構え、蓋を外した状態で深く息を吸い込んだ。


「やい、そこのお前! 返事をしろッ!」

「うひゃああ!?」

「返事をしろッ!」

「は、はい!?」


 驚く男子生徒が思わずそう答えた瞬間、あっという間にその男子生徒がひょうたんに吸い込まれていく。


「うわ、」


 悲鳴を上げる暇もなく、ひょうたんの中へ。

 吸い込むと同時に私はひょうたんの蓋を閉めた。


「……おお」


 普通に使えた! 他の術も行使しておいて何を言っているんだと思うが。

 このひょうたんを使うのは、西遊記の中でも有名なシーンだからね。

 ちょっとした感動だ。


 だが、これで終わるわけにもいくまい。


「身外身法」


 うなじの毛を三本ほど抜き、ミニ・カーマインを三体呼び出す。


「命令、ひょうたんに閉じ込めた男が溶けだす前にひょうたんから出して拘束。殴ったりはしていいけど、絶対に殺さないで。暴力を振るってもいいから、黙らせて拘束して監視しつつ、待機」

「「「ウキッ!」」」


 元気よく応答するミニ・カーマイン。やっぱりチビ状態の方が元気いい気がする。

 私は男を閉じ込めた紫金紅葫蘆をイスの上に置き、その監視をミニ・カーマインたちに命令した。

 あとは。


「七十二変化、変われ!」


 拘束した男子生徒の姿へと変身し、なり代わる。

 これぞ孫悟空の十八番、敵の誰かに変身して潜入だ。


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― 新着の感想 ―
なんか殿下は腹黒っぽい雰囲気を漂わせただけのうっかりうつけ者に傾いてきてるような。 殿下にも飴ちゃんあげよか?
 ちびマインかわいい
 呼ばれたら吸い込む系の道具がまだあるってのはある意味心強いですね(怖。てか腹黒王子の眼を誤魔化す為にもも一つ分身作っておいた方が良かったんじゃ?まぁエミリア嬢を謎の黒髪の令嬢から託されて介抱してた体…
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