05 ギフトの正体
呆然としながら私を見る護衛や侍女たちに気づく。
「何をぼーっとしているの! また連中が戻ってくるかもしれないわ! 今のうちに態勢を立て直して、領地まで逃げるわよ!」
「「「は、はい!」」」
私の一喝で今の状況を思い出したのか、すぐに逃げる準備を始める。
どうやらさっきの賊が狙ったのは私らしい。
なんだって公爵令嬢の私を狙うのか。
貴族の馬車だからと金銭目当てや誘拐が目的ではなさそうだった。
となると政的な狙い……? でも、それでなぜ私を。
お父様の敵だとしても私に火を点けて撤退して、何をどうするつもりか。
「……お嬢様、お召し物が」
「ああ、けっこう燃えちゃったわね、でも平気よ」
侍女がようやく現実に引き戻されたのか私を気遣ってくれる。
でも、本当に大丈夫。
なにせ、炎に巻かれても私の体は燃えなかったのだ。
これもギフトの効果なのだろう。
ギフトといえばアレも取り出せたわね。
取り出せたっていうか作り出したというか。
使ったあとに消えた、消せたんだけど。
これなら、あのシンボル的な奴もいつでも出せるのかしら。
アレの使い道は見当がつかないわね。
私たちは一丸となってその場を離脱し、どうにか領地まで無事に辿りつくことができた。
領地の衛兵や騎士たちと連携しつつ、お父様に仔細を伝える。
その際、一応、私がしたことについては黙っているように言っておいた。
お父様には伝えてもいいけど、他言はしないようにと。
「はぁ……」
びっくりした。まさか襲撃されるなんて。
あんな経験、日本にいた時にはしなかった。
今でも恐ろしく思う。しかも体が火に巻かれた。トラウマになりそうだ。
「まったく平気だったけどね……」
完璧に無事だったおかげで、トラウマ化は避けられそう。
死人も出なかったし、御の字だろう。
あれから襲撃者たちを捜させてはいるものの、もう逃げたあとだろう。
「はぁ……」
なんで私が狙われたのか。
公爵家関係の恨みでないとしたら、それはおそらくヴィンセント殿下の婚約関係か。
噂になっている矢先だったからねぇ。
どこか、貴族令嬢のいる家門が、邪魔になりそうな私を排除しようとした。
それもただ殺すんじゃなくて火傷を負わせて?
だとしたら、なんて陰湿な。
火傷を負った貴族令嬢。どう考えても攻撃の的だろう。
身分が低いならまだいいが、私は公爵令嬢だ。
それも殿下の婚約者になれば……。
どこを火傷させる想定だったのか知らないけど、水面下で嫌なことを言われていたに違いない。
それで? 私は火傷した容姿以外のところで健気にがんばり続ける展開とか?
「……うーん。ハズレギフトに火傷した公爵令嬢……。殿下の婚約者候補……」
悪役令嬢要素が積み重なってきているのよねぇ。
作品名がわからなくても、これ、やっぱりキナくさくない?
まぁ、現実の私は火傷なんて負わなかったわけだけど。
でもねぇ、なんかヤな感じなのよねぇ。
「でも、どんな状況でもこのギフトなら……」
使いこなせさえすれば、どうとでもなる。
それだけの力はありそうなギフトだ。
実際、今日の私はこれまでにないギフトの効果を発揮していた。
一つ、大柄な騎士を掴んでぶん投げられる『剛力』。
二つ、火に巻かれても無事な『火に焼かれない体』。
三つ、風によって火炎を完全に消し去ることのできる『扇』。
あれらは私の授かった、たった一つの祝福から生まれた効果だった。
そして、空に呼び寄せた『雲』もそうだ。
私が最初考えた、あの雲によって『空を曇らせることができる』というのは、実際はただ『特別な雲を呼び寄せる』効果だったのよ。
……ええ。もう、ここまでくれば多くの日本人にはわかるだろう。
日本人というか現代人で、創作物に触れている人はというか。
「アレが出せれば、もう完璧なんでしょうね」
私は領地の屋敷にある、私室で一人、慎重に手を伸ばした。
アレの下には足を出したりしないようにしつつ、その名を呼ぶ。
「──如意棒」
ゴトリ、と。それが、その重たそうな金属の棒が、部屋に現れた。
「……はぁ」
持ち上げるのも苦労しそうな、それ。そう、如意棒。
正式な名称までは忘れてしまったけれど、この名が最も有名だろう。
そうなのだ。私の授かった祝福の名。それは。
「斉天大聖孫悟空」
……それが私の、ギフトだ。
あまりにも世界観無視すぎ、浮きすぎのシロモノである。




