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【第三章、開始】私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第2章 乙女ゲームは八十一難

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49 お誘い

「フィナさん、貴方、もう少し落ち着いて行動しなさい」

「は、はい、すみません、マイン様……」

「おい、彼女に近づくな!」


 完全に無視したのを、わざわざ再度声を荒らげてくる。

 クソガキ継続中のアイゼンハルト卿……この呼び方だとヴィルヘルムに悪いわね。

 ジークヴァルトと内心では呼び捨てておこう。


 私はフィナさんの手を取り、立たせてあげる。

 距離があったためか、その邪魔はできなかったジークヴァルト。

 憤って速足でこちらにやってくる様子に私は視線を向け、睨みつけた。


「少し度が過ぎていますわね、アイゼンハルト卿」

「……なんだと?」

「フィナさんがいつものように走り、挙句に自分で転んだのを私が介抱しようとしました。まさかとは思いますが、そのことについて、私に言いがかりをつけるなんて真似はしませんわよね? それとも、それはヴィンセント殿下のご指示かしら? 殿下がそばにいながら止めないのですもの」

「……!」


 そこでようやくヴィンセント殿下に視線を向けるジークヴァルト。

 殿下も殿下でねぇ。どういうつもりなのだか。

 ゲームの強制力なのか、それとも私の耐久テストでもしているつもりなのか。

 彼に対する私の好感度もゴリゴリに低下中だ。


「以前は陛下の前でしたから、あえて沈黙を選びましたが。これ以上は見過ごせませんわね。そんなに私との決闘がお望み? まさか、その決闘で貴方に正義があるとでも? ないですわよねぇ? 力のギフトを持っていながら! 弱い者いじめにしか役立たないと、わざわざ公表するような真似をするなんて! これまでの私の温情、貴方に届きませんでしたのね。それではもう、ここからはマロット公爵家として動かざるをえません」


 そう告げながら、私はフィナさんの服についた埃を払ってあげた。


「『聖女』の治癒ってフィナさん自身は癒せるの?」

「ええと、それが私自身には効果はなくて」

「そうなのね」


 ということは聖女が鍛えてゾンビアタック! とかは無理なのね。

 ほら、ヒロインのステータスを鍛える系のゲームもあるから。

 彼女がバトルメンバーである可能性もなくはない。そういう路線のゲームならね。

 自己治癒が無理なら、彼女はやはり守られるべき存在か。


「カーマイン嬢」


 黙ってしまったジークヴァルトの代わりにヴィンセント殿下が口を開く。


「私から非礼を詫びるよ。ジークがすまなかったね」

「殿下が謝るくらいならば、彼を放置されるのをお止めになっては? 以前から苛烈なほどの敵意・悪意を向けられて困っておりました。少々、度が過ぎます。しかも今回は明らかに私に冤罪をかけようとしていたでしょう。許しがたいことですわ」


 推定・腹黒系ヒーロー、ヴィンセント・フォン・グラムザルト第一王子殿下。

 今まではこの有様のジークヴァルトでも放置していたけれど。

 彼が大きく成長する機会の一つは失われたのだ。

 なら、そろそろ別方向でテコ入れが必要でしょう。


「……そうだな。私もいい加減、注意するべきとは思っていたが、甘かったようだ。ジーク、そろそろ弁えろ。相手は公爵令嬢だ。それすらもわからないのか?」

「殿下、いえ、それはわかっております……」

「長年の付き合いもある。私も強くは言いたくなかったが、ジーク。今回はなんだい? どう見てもカーマイン嬢がセラフィナ嬢を助けている光景だっただろう。それをどうして、あんなふうに声を荒らげて止めたんだ」


 ヴィンセント殿下に怒られるとばつが悪そうにするのねぇ。

 思い込みが強く、正義感を暴走させがちのキャラかしら。

 そのくせ強い奴と戦いたくてウズウズしている。どんなヒーローなのよ。

 もしかしてG4の中で一人だけモブとか悪役だったりする?


 ……そんな彼が兄の死によって変化するのが物語の見所なのかもしれないけど。

 もうそんな機会は訪れないもの。

 ジークヴァルトの成長なんてもののために、ヴィルヘルムを死なせるのは損失すぎる。

 別に家族の死がなくたって成長はできるはずだ。


「先程も指摘しましたが、どうせ私がフィナさんを転ばせたとか、言いがかりをつけるつもりだったのでしょう? 私を嫌うのはどうでもいいですけど。ありもしない罪を着せようとするのは見逃せませんわよ? ねぇ、フィナさん。貴方もそうよね?」

「えっと、私どういう状況なのか、よく……」


 まぁ、貴方、すごい勢いで転んだばかりだからね。頭から地面にダイブして。


「貴方が一人で転んでしまい、私が近くにいた姿を見たアイゼンハルト卿が、さっきまでのように怒鳴りちらして、私を責めるように威圧的に振る舞ってきたの。その理由が、私が貴方を、意図的に悪意をもって転ばせたはずだから、という話よ」


 これは悪役令嬢が言われそうな言いがかりを先んじて潰しただけだけど。

 でも、彼の表情を見るに外れてはいなさそう。


「そんな! ありえません! 私は今ここに来たばかりですよ! しかも、私が勝手に転んだんです! それでなぜマイン様が悪く言われるのですか!」

「う……」


 ヴィンセント殿下に詰められ、フィナさんからも否定される。

 流石に分が悪いのが理解できたようだ。遅いけれどねぇ。

 前世でも居たわよね、こういう、ひたすら嫌いな人に絡みにいって騒ぐタイプ。

 そんなに嫌いなら黙って関わり合いにならなければいいのに。

 自分から突っ込んでいって騒ぐの。うるさいし、気持ち悪いったらない。

 こういうタイプは〝丁寧な無視〟が一番いい。

 こちらの名誉を傷つけるような嘘だけ毅然と否定していくのだ。


「今回は先を読んで彼の言葉を遮りましたけれど。その様子ではどうやら図星の様子ですから。浅はかというか読みやすいというか。単純さだけで殿下の側近は無理があるのではありません?」

「ぐっ……」

「手厳しいね、カーマイン嬢」

「いい加減にしてほしいだけですわ。これ以上は黙っていられないだけのことです。次からは家を通して抗議させていただきますから。その点、ヴィンセント殿下もご承知くださいませ」

「ああ、わかった。私からも注意していく」


 ツーンとした態度で場を流す。

 どうかしらねぇ。

 ここで『女のくせに』とか内心で思っているようなら本格的にヒーロー失格だと思うんだけど。

 それともバトル系かつ守護系のギフトを授かったものだから、気になるヒロインちゃんを守護対象にして、どうにか力を使ってアピールしたい系?

 その都合のいい悪役が私か。いい迷惑だこと。

 まぁ、ジークヴァルトの活躍イベントは、ことごとく私が潰しているわけだけど。


 あるいは、ゲーム上だときちんとヒーローをしているのに、転生して実物を前にしてみると実はクソみたいな男でぇ、とか。そういうパターンもあり得るわよね。

 原作でそういう言動だったのは実は裏があったタイプ。

 ヒロイン目線で見れば魅力的でも他者から見たら最悪じゃない? という。

 この四人ともそのタイプな気がしなくもないわねぇ。

 つまり現実だと攻略対象たちは全員が地雷。お相手を探すならそれ以外からがベスト。


 わかりやすい方向性でいえば、ほら。

 ヤンデレなヒーローだけを集めたタイプのゲーム?

 そりゃあ、フィクションなら私も美味しくいただける。

 ヒロインの監禁さえも許容しなくはない。あくまでフィクションなら。

 でも現実になるならNGでしょう、そんなの。

 流石にG4のキャラ付けがヤンデレ監禁方向とは思わないけど、どうかしら?

 影のある聖職者キャラ、ベネディクトさん辺りは可能性ありそう?

 これも偏見だけど。


 そうなった場合、孫悟空の力を駆使してヒロイン救出大作戦ね。

 ちなみに孫悟空は『壁抜け』とかもできるし、『鍵開け』などもできる。

 バトル大立ち回りより潜入任務向けよね、このギフト。


「それで皆様、どういった御用でしょう? ぞろぞろと集まってこられましたけど」


 とりあえず、いつまでも衝突していても無駄として話を切り替える。

 家族の死でしか変われない駄犬を、この場だけで躾けようとするのは時間の無駄だ。

 いずれ別の形でどうにかするのがいいだろう。


「私はマイン様とお話がしたくて!」


 まぁ、フィナさんはそうよね。

 私は彼女に微笑みかけてからヴィンセント殿下に視線を向ける。


「殿下は私たちに何か? フィナさんと話したいなら私は離れますけど」

「いや、カーマイン嬢にもセラフィナ嬢にも用がある」


 あら、二人ともに用事。


「夏季休暇に入る前、学園主催のダンスパーティーが催される。それに向けて、合同授業でダンスの実技が組み込まれるのだが」

「ええ」

「そのパートナーとして私は二人と踊りたいと思っている」

「……ヴィンセント殿下のダンスパートナー?」

「ああ」


 私とフィナさんは互いに顔を見合わせた。


「……私は、その。恐れ多いです」

「フィナさん、私に遠慮する必要はないのよ。貴方は好きに、誰とでも踊っていいのだから」

「ええと、そう、なんですか?」

「ええ、もちろん」


 ダンスパーティーイベントねぇ。

 大人も混じる社交界ではなく学園主催というのがまた〝イベントっぽさ〟を強めているわね。

 とすると、殿下が私とフィナさんの二人をパートナーに誘うのは原作通り?

 相変わらずそんな原作があるのか知らないけど。


「ダンスパーティーに向けたダンスの授業があるのですね。そのパートナーのお誘い、わざわざ事前にすることなのですか?」

「当日に私が誰かを指名となると、揉めてしまって授業にならないだろうからね。教師に委ねるのも同様だ」

「なるほど」


 普通に考えてヴィンセント殿下のパートナーなんて取り合い、奪い合いだろう。

 私はむしろ巻き込まれたくない側なのだけど。

 かといって、最初からフィナさんに押しつけるのも違うわよね。


 だってヒロインには選択肢があるはずだ。

 ここでの流れとしては、授業では殿下とも踊るけど他の攻略対象とも彼女はダンスする。

 そこで好感度による変動か、または選択肢によって当日のダンスパートナーが変わる。

 そんなところだろう。


 悪役令嬢の役回りとしてはヴィンセント殿下のパートナーを基本は務める。

 推定・ハズレギフトの火傷持ち令嬢の私は殿下以外とは踊らない。

 そこでもまたヒロインと私で殿下からの態度が比較されるだろう。

 ヒロインが他のヒーローを選んだ場合、私がヴィンセント殿下のパートナーだ。


 ここまでの予測は立てられるけど細かいイベントは何もわからないわね。

 果たして誘いを受けるのがいいのか、断るのがいいのか。


 緊箍児を外すためには、乙女ゲームのトラブルからフィナさんを守るのが現状のベターだと私は考えている。

 それでどうにもならなかったら、もうこの世界にはなさそうな天竺へ向けて旅立つしかない。

 おお、西へ向けて、ガンダーラを越えて、目指せ、天竺。

 ちなみに天竺への旅は筋斗雲でのショートカットは受けつけてもらえない。

 そもそも試練の旅だからだ。ズルはなしなのである。

 そりゃないぜ、お釈迦様、ウキーィ……。


「マイン様、どうしたら……」

「貴方の好きにしていいのよ。私の方はそのお誘い、お受けしますわ、ヴィンセント殿下」

「嬉しいよ、カーマイン嬢。私の提案を素直に受け入れてくれたのは初めてじゃないかな」

「そうでしたかしら?」

「生徒会への誘いも流されてしまったし、婚約の話も決まり切らないままだからね」


 そういわれれば、なんだかんだ殿下からのアプローチはすべて流している気がする。

 もしかしてジークヴァルトを放置していたのって、殿下の意趣返しかしら。


「マイン様がお受けになるのでしたら、私はお断りする方が」

「授業で一人とばかり踊っていては練習にならないでしょう? そのために私たちに声をかけたのだと思うわ。当日のパートナーは授業の成績や、いろいろなことの兼ね合い次第。ですわよね、ヴィンセント殿下」

「ああ、カーマイン嬢の言う通りだ」

「そ、そうですか。では、ヴィンセント殿下。授業ではよろしくお願いします!」

「はは、元気がいいね。よろしく頼むよ、セラフィナ嬢も」

「はい!」


 こうしてダンスパーティーイベント編が始まるのだった。


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