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【第三章、開始】私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第2章 乙女ゲームは八十一難

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48 八十一難

 アイゼンハルト領での魔獣災害の話は、あっという間に王国中に広まった。

 それについて様々な物事が動いている様子だが、それでも私たちはまだ学生。

 学園生徒の多くは、まだ対岸の火事のようで平和なものだった。


「はぁ……」


 あれから数日。起きる度に毎日、自分の頭をチェックしているのだけれど。

 緊箍児(きんこじ)は私の頭から消えない。

 ワンチャン、数日経ったら消えるかもしれないと思っていたんだけどなぁ。


 まさか本当に西へ旅し、天竺に至れと?

 天竺に至り、闘戦勝仏(とうせんしょうぶつ)になれと?

 そうしなければ、この金の輪は消えないって?

 この世界の天竺ってどこよ? 哲学か。あと別に仏になりたくないわよ。


「……あるいは」


 八十一難(はちじゅういちなん)

 究極の数である九×九の、これ以上ないほどの徹底的な試練。

 西遊記の物語の大部分であり、醍醐味。

 三蔵法師一行が完全な仏になるために課される、神々が与えたもうトラブル(ぐん)


 それは三蔵法師一行への試練であり、罰でもある。

 実は一行の面々はそれぞれ、修行の旅をする理由があるのだ。

 他はさておき孫悟空はいわずもがな、贖罪と更生だろう。

 『最も弱く、かつ最も尊い存在』である玄奘三蔵法師を、八十一難から守り抜くという献身的な功徳(くどく)が孫悟空には必要だった。


 緊箍児は、その旅の成果を示すものといっていい。

 苦難を乗り越え、天竺に至った孫悟空は三蔵法師に願う。


『どうか、私の頭の金の輪を外してください』


 けれど、三蔵法師は悟空にこう返す。


『頭を撫でてみれば、どうです? 悟空』


 そう言われて孫悟空が頭を撫でると、そこには金の輪など跡形もなかった。


『だって、貴方はもう、仏なのですから』


 これが西遊記のラストシーンだ。

 孫悟空の頭から緊箍児が外れることは、物語の終幕での重要な意味を持つ。

 これを私のギフトと、さらに今世の世界観に当て嵌めて考えるなら?


「ヒロインちゃんを苦難から守る?」


 ギフト『三蔵法師』がいない以上、最もそれらしき人物といえば間違いなく『聖女』であるヒロインちゃんだろう。

 三蔵法師ポジションの彼女に降りかかる困難を退けることで緊箍児が外れるかもしれない?

 それが正解なら私がこのギフトを授かった理由も頷けるかもしれない。

 同じ理由でG4たちもギフトを授かった可能性が出てくるのだ。

 つまり私は、悪役令嬢というヒロインの敵ではなく、五人目の味方だった展開。


 ギフト『聖女』を持つ女性、セラフィナ・アスティエール子爵令嬢。

 幸い、彼女は私に好意的だし、どうやら現地人の善良な人物っぽい。

 私は内心で本物ヒロインちゃんと呼んでいる。


 ただし本物であるがゆえに、彼女は動けば〝イベント〟を起こしてしまう。

 前回の聖女誘拐事件もそうだ。

 私と一緒に街を歩いていたはずなのに、あっという間に事件に巻き込まれた。

 元から狙われていた以上、目を離した隙に襲われるのは当然だったかもしれないが……。


 そんな彼女と私は、いくつか約束を交わしている。

 一つは、夏季休暇にでも私が彼女の領地に遊びに行くこと。

 二つは、彼女がギフトを世の中の役に立てるために『正義の味方』を一緒にすること。


 前者はともかく後者は私の何気ない一言から始まり、なぜか感銘を受けてしまった彼女が、とても期待していることだ。

 実際、ヒロインのトラブル体質を考えると、あながちバカにできたものではない。

 なので、どうするかは考え中だが彼女が乗り気なら付き合うつもりでいる。


 ヒロインちゃんが動けばイベントが発生する。

 当然、それで起きた問題を解決するのは本来ヒーローズだ。

 推定・攻略対象のギフト持ち四人、生徒たちから『G4(ジーフォー)』と呼ばれている。

 たぶん嫌いな生徒のロッカーに赤い札とか張りつける陰湿なイケメンたちだ。

 実際は全然違うけど。ヴィンセント殿下くらいは隠れてやっているかもしれない。

 もちろん偏見である。私から彼らへの評価は低いので。


「ヒーローたちとイベントの奪い合いかしら」


 私は緊箍児を外すためにヒロインちゃんの周りの問題を解決しなければならない。

 彼らはヒロインちゃんへの恋愛感情が発生して、どうしてもナイト気取りをしたくなる。


 つまり、この世界。乙女ゲームないし悪役令嬢ものの世界観に見えるが。

 その実、ヒロインVS悪役令嬢ではなく、悪役令嬢VS攻略対象たちなのだ。

 またしても何も知らないヒロインちゃんである。

 みんな喧嘩しないで、仲良くして! 私、怒っちゃうわよ!

 はは、ヒロインちゃんには敵わないなぁ、はは。


「はぁ……」


 このギフトと緊箍児、今世の世界観を考えると、この世界にあるかもわからない天竺を闇雲に目指すより、よほど建設的な行動だと思う。


 それに推定乙女ゲームのシナリオに介入することは意味がある。

 ヴィルヘルムやアイゼンハルトの領民たちは、私の介入によって救われたはずだ。

 私の行動で物事をいい方向へ傾けることができたのだ。

 己惚れないようにはしたいが誇りには思っていいことだろう。


 原作シナリオなんてものを知らないため、推測し、想像することでしか予測できないけど。

 それでもけっこう、いい線はいっている気がする。

 聖女誘拐事件もアイゼンハルトの魔獣災害も対処ができた。

 つまり『むむ! あの山には妖気を感じる! 行けば襲われるぞ!』的なことをできたのだ。

 お師匠様、ここはこの孫行者(そんぎょうじゃ)に任せてください! ウキーッ!


「それも孫悟空かなぁ」


 なお、孫悟空のトラブル予測は意味をなさず、三蔵法師が妖怪に誘拐されるまでがテンプレだ。

 果たして乙女ゲームにも八十一難は待ち受けているのか。



 平和な学園生活で私は授業を受ける。

 誰も私の頭にある金の輪に気づかないのは『七十二変化』の術で隠しているからだ。

 触れれば金の輪はそこにある。

 元ネタを知らなければ、金の冠に見えてしまう緊箍児。

 そんなものをつけながら学園生活を送っていたら、痛い者を見る目で見られていただろう。


『マロット公爵令嬢って、ご自分のことをお姫様だとでも思っているのかしら?』

『そうでも思っていなければ、あの黄金の冠はないわよねぇ』


 ……と。

 ひどい話だ。望んでつけているわけではないのに。


 緊箍児が発動した原因の『殺生はいけません』ルールだけど。

 家に戻ってから試したことは、まず肉料理を食べることだった。

 広義の意味ではこれも殺生だろう。間違いなく動物を殺して食べているのだから。

 キメラのラストアタック問題を無視して戒めてきたのだから、こちらもアウトのはず。

 そう思ったが、肉料理を食べても頭の輪は締まらなかった。


 ……ギフトを使っての殺生がアウト?

 そう思い、気が進まないし、止められていることだが。

 今度、どうにか屠殺(とさつ)体験ができるように計画している。

 肉を食べるのはOKのようだが、実際に手を下すのはアウトかな、と。

 ただ、こう見えて公爵家の娘である私が、やりたいからってそう簡単に屠殺体験はできない。


 姿を隠して何か襲えばいいだろうって?

 いや、検証のために無益な殺生って、ただのイカれ野郎だし。無理無理。

 せめて食べるために殺す。感謝を忘れない。それが最低限のラインだろう。

 また緊箍児が発動する恐れがあるため、検証の際の単独行動は避ける。

 屠殺体験が無理なら、ヴィルヘルムに協力を頼むしかないかな。


 少なくとも他者の生命を脅かす者だから殺した、はアウトくさい。

 正当防衛でもなお、殺生はいけません、だ。

 三蔵法師のお弟子になったあとの孫悟空が殺すとすれば、だいたい妖怪。

 つまり一行を襲ってくる者たちなのに、お師匠様ったらそれだもの。


「マイン様!」


 学園生活を送りながら、そんなことを考えていたところ。

 バビュン! とダッシュでやってくるヒロインちゃん。


「フィナさん、学園の廊下で走るのは危ないし、はしたない──」


 私は彼女の行動を窘めようとする。そこで。


「きゃあ!」


 ズザザー!


「…………」


 今、頭からいったわよね、ヒロインちゃん。

 しかもけっこうな勢いで走った先で転んでの顔面ダイブである。

 い、痛そう……。


「だ、大丈夫!? フィナさん!」


 慌てて駆けよる私。彼女を助け起こそうとしたところ。


「そこまでだ!」


 声を張り上げて私を押しとどめる者が現れた。

 見れば、そこには勢揃いしたG4たち、四人。

 ……はい。ここまでが悪役令嬢テンプレートよ。ここ、授業に出ます。


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― 新着の感想 ―
 ヒロインをストーカーして、転けると出てくるとか…ないわぁ。
三種浄肉ってやつですね ケンタッキーも安心! イスラムもそうだけど割と抜け道ある
一応生臭はダメの元が 僧侶の為にとわざわざ屠殺した物はアウト、ただしたまたま狩りまたは屠殺したんで肉がある。お坊様もどうぞ。とかならヨシッ!だからねえ。まあ殺生戒はガチで虫に至るまでアウトだけど。蚊だ…
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