46 ヴィルヘルムとの対談③
「強力な……」
「はい。世間的に知られているような『空を曇らせる』だけのギフトではありません。それはヴィル様ならば、ご理解いただけるかと」
「……そうだな」
彼の前で私が使った、孫悟空の数々の術を思い出しているのだろう。
しかも、彼が目撃したものがすべてではないという。
「陛下にギフトについて聞かれましたが、私はこのギフトの名を『修行者』と伝えました」
「修行者、なのかい?」
「まぁ、その側面もまた強いと言いますか」
孫悟空の別名、孫行者だからね!
「加えて、また別の事情があります。これは陛下から直接伝えられたことであり、今回の急報がありましたので他言していいのか、正式な許可を得ていないのですが」
「……わかった。俺から他言はしない」
「はい。もしかしたらアイゼンハルト卿、弟君から聞かされるかもしれませんけど。先日、『聖女』のギフトを持つ子爵令嬢が誘拐され、すぐに助けだされたのですが、彼女を誘拐した連中がギフトを複製できる水晶を所有していたのです」
「ギフトの複製、水晶……か」
おそらくヴィルヘルムの脳裏にも浮かんだだろう。
キメラの体内にあった黒水晶のことが。
「その謎の組織、暗躍する何者かは聖女を狙いました。しかし、私のギフトについて知れますと、私が狙われる可能性が高くなる。聖女を表に立たせて隠れる卑怯者と思われるかもしれませんが、私のギフトは無法者や悪人には決して渡せないものなのです」
「なるほど。あの時の貴方のような力が、悪党に使われる可能性があるのか」
「はい」
ヴィルヘルムは真剣な表情で私の言葉を聞く。
その態度に私の話を疑う様子はない。
「ジークを含め、他にも有用なギフトを授かり、また注目されている者たちがいるだろう?」
「ええ」
「彼らの中には王子がいて、さらに同世代に『聖女』持ちが現れたことで彼らは、かなり世間的な注目度が高いんだ。そのため、彼らもある程度はギフトの詳細を明かしている。どれも有益なギフトであり、もし、そんなギフトの複製技術があるのなら、彼らは等しく狙われる立場になるだろう。その状況でも、なお貴方のギフトの方が希少で強力。そう考えているんだね?」
「はい、その通りです」
いや、実は聖女の力がもっと強力な可能性だってあるけども。
ほら、ヒーローズとのシナジーがあって、フュージョンパワーが発揮されるとかね。
聖女には他者のギフトをさらに強力にするバフ効果があった!
その力の源は愛なのよ! フュージョン、ハッ! とか。
……フィナさんは本能的にギフト持ちに好意を抱くとか、そういう設定がありそう。
「カーマイン嬢がギフトについて隠したい理由はわかった。俺も隠すことに協力しよう」
「ありがとうございます、ヴィル様」
暫定・小侯爵、しかも大人な彼に協力してもらえるのは大きいわね!
しかも悪役令嬢の逆補正が効かない可能性が高めのシナリオ外キャラ!
「それで調査協力でしたね。具体的には私にどうしてほしいのでしょう?」
「いや、具体的なところはまだ何も言えない。ただ、あの一件について知っていることがあれば教えてほしい、そんなところだ」
「そうですか。でも、本当に詳しく知らないの。キメラの死体から黒水晶を見抜けたのはギフトのおかげだから事前情報もないわ」
「ギフトの? ああ、あの眼が……?」
ヴィルヘルムには火眼金睛を見られている。
白目が赤く染まり、瞳の色が金色になった状態ね。
「ただ、陛下から聞いた水晶の話もあるから、今回の件は人為的なものだと私は思います」
「……そうだな。そう思いたくはない気持ちもあるが、あれを見た以上、そうだろう」
「ええ」
「そうなると、もっと恐ろしい事態だ。何者かは魔獣を人工的に生み出し、さらに多くの魔獣を目的に沿って動かす術すら持っていることになる」
「はい」
「……アイゼンハルトに恨みを抱いているのだろうか?」
「それは……どうでしょうか。何か別の理由があって狙われた可能性もありますから」
「そうだな。現状、敵の正体については何もわからない」
この世界は推定・乙女ゲーム世界であり、ヒロインは聖女セラフィナ・アスティエール。
彼女の能力から逆算して、問題の解決方法に何があるのか考えてみる。
黒水晶の中で濁っていたものが、いわゆる瘴気とかそういうもので、その瘴気を封印する技術を誰かが確立した。
聖女の『浄化』は、その瘴気を清め、黒水晶を無効化できる。
王国各地に魔獣が現れたことで聖女は大活躍。世間的にも大人気に!
そうして物語の中盤が過ぎ、ヒロインちゃんの好感度はマックス。
そんな折、ようやく判明するのが瘴気の出所だ。
連中は瘴気を封印し、利用する技術を生み出したけど、瘴気そのものを人工的に発生することは、まだ難しい設定。
そこで、どこかにある瘴気発生場所へヒロインちゃんとヒーローズが向かい、その瘴気を浄化!
これでバトル系・聖女の浄化系エピソードを消化するルートはハッピーエンドだ。
……その瘴気の発生場所。
最終的に悪役令嬢の私ってことにならないかしら?
となると、瘴気は人間の心の闇とか、そんなところ?
ああ、悪魔も存在しそうな世界観だったわよね。
つまり悪魔憑きになり得る人間が、瘴気の、黒水晶の原材料?
「……なんの確証もない、私の推測なのですが」
「ああ、なんだい?」
「あの黒水晶、今はまだ蓄えていた物が複数あってもおかしくありません。しかし、量産はできないのではないか、と思います」
「……それはどうしてだい?」
「勘といいますか、やはり、そういう可能性の域を出ない話です」
「ギフトで予言を授かったとか、そういうことではないんだね?」
「ああ、それは違います。そのような確たる根拠はありません」
「そうか。それは少し残念だ」
さしもの孫悟空も予言者のような能力はない。
あるとすれば、超人的な直感や高度な分析力を発揮して、未来に起こりそうなトラブルを予測してみせるとか、そういう程度。
西遊記での敵は妖怪で、妖気とやらがある。
孫悟空は妖怪レーダー的な感覚があって『あっちは不吉だ、妖怪が待ち構えているぞ!』と、まだ見ぬ敵の存在を予測したりするのだ。
でも、それは『予知能力』や予言、その類の術とは違うだろう。
臭いがしたからくさい、そういう五感的なセンサーが出す結果の出力だ。
ただ、火眼金睛で近未来のことを見抜く、というのはある。
今起こりそうな近い未来を視るというか。少し先の結果を予測するみたいな。
でも、こっちに関してはギフトにあったとして私が使いこなせるものなのか。
基本的に孫悟空は高度な能力を有しているものの、トラブルなく旅を続けられない。
それは三蔵法師からの不信が理由であったり、天界からの試練でもあったりする。
『八十一難』という神々からの試練、強制トラブルの発生だ。
この対象は孫悟空ではなく三蔵法師、または法師一行の全員が対象となっている。
三蔵法師一行、仏化カリキュラムである。
マッチポンプ・トラブルなので、孫悟空がいくらトラブルを予測しても防げないのだ。
……このあたり、乙女ゲームの〝強制力〟があったとしたら似たようなことよねぇ。
無駄に親和性の高い悪役令嬢と孫悟空。なぜなのか。
「今後の警戒についてですが『聖女』のギフトを持つアスティエール子爵令嬢に協力を依頼するのがいいと考えます。あの黒水晶は聖女が持つという浄化や破魔の能力に弱そうですから」
「浄化、破魔の力か。確かにそうだな。試してみないとわからないが……」
「ええ。でも、もしかしたら彼女、これから各地で引っ張りだこになるかも」
「それはどういう?」
「今回の魔獣騒ぎ、アイゼンハルト領だけが狙われたとは限らないでしょう? もしかしたら王国すべてを標的としている可能性もあります。これから各地で同様の問題が起きるかも」
「……否定はできないな」
ここで私と話していても解決には至らないだろう。
答えを絞り込めるだけの情報がないのだ。
「しばらくは然るべき対処と警戒の持続を。私がどこまでできるかわかりませんが、父にもアイゼンハルトに支援が出せるなら、と話はしてみます。明日は我が身と考えれば、ここは支援に動くべきという方向で話しましょう。正直いい答えが出せるかは未知数ですが。その際、ヴィル様と私に交流があることは父に話してもかまいませんか?」
「ありがとう。もし、公爵家からの支援があるのならありがたい。俺の名を出すことは、もちろんかまわない。だが、現状ではそちらへの見返りを用意できるか不明だから無理はしなくていい」
「……それは。すみません、思慮が足りず」
「いや、貴方にこれ以上を望めないと思うだけだ。すでに貴方からは充分なものを受け取っている」
そう言ってくれる人なだけ、能力を明かすことになった相手が彼でよかった。
信頼できそうな人柄だからね。流石、陛下の覚えもめでたい完成形お兄ちゃん。
欠点は弟がアレなことだけかしら。
「今この場で協力するべきことは決められないですね。協力自体は吝かではありません。ただ私にもわからないことだらけですから」
「……そうだな。すまない、やはり俺は急ぎすぎたようだ」
「いえ、私も話していて頭の中を整理できましたから。ヴィル様、そろそろ」
「ああ、時間を取らせたな。可能であれば俺が家まで送っていきたいのだが、今夜はもう遅い。警備もつけ、身の周りの世話を女性の使用人にさせるから泊まっていくといい。この地に来ることはマロット家には言ってきたのかい?」
「いえ、それは対策をしてきましたから。両親も家の者も私の心配はしていません」
家には分身を向かわせてあるからね。
……あれ? でも分身って。
「……ヴィル様? つかぬことをお聞きしますが」
「なんだい? カーマイン嬢」
「私が出した『赤髪の妖精』ですが、あのあと姿を見た者はいますか?」
「あれか。いや。俺自身はカーマイン嬢が出したものしか見ていないし、部下や領民たちが見た妖精たちは、ある瞬間にすべて消えてしまったそうだよ」
「……そう、ですか」
分身がすべて一斉に消えたタイミング。
それは間違いなく私の頭に緊箍児が発生し、それが発動した時だ。
すなわち。
マロット家に向かわせた私の姿をした身代わり分身。
それが家族や使用人たちの前で忽然と消えた可能性が高い。
……それ、とんでもない大事件じゃない?
本日は17時にも更新します。




