03 王子の尋問
「正確に言えば、まだ婚約は決まっていないわ。でも会ってみてどうかと王家から打診があったの」
お母様にそう言われる。
第一王子殿下。名前はヴィンセント・フォン・グラムザルト。
例の如く金髪碧眼の王子様だ。
名前に聞き覚えはない。ありがちといえば、ありがちな名前。
家名はそれなりに独特だけど……。
やっぱり、前世記憶に覚えている名前じゃなさそう。
顔を見たら何か思い浮かぶかしら?
いえ、まぁ異世界転生したからって何かの物語世界が確定するわけじゃないんだけど。
打診を受け取ってから数日後、ヴィンセント殿下との顔合わせに王宮へ呼ばれる。
お父様たちも一緒だ。
「はじめまして、ヴィンセント・フォン・グラムザルトです」
「お初にお目にかかります、第一王子殿下。私、カーマイン・マロットでございます」
儀礼的な挨拶を済ませる私たち。
殿下の年齢は、今の私と同じ十五歳だそうだ。
そういうのもあって、まぁ私に婚約の打診が来るのは妥当なのだろう。
でも、一応は近い世代に他の公爵令嬢も、侯爵令嬢もいる。
なので絶対に私が婚約者に決まるということでもないはずだ。
ということは、やっぱりこの打診は私がギフト持ちだから?
うーん……。やっぱり婚約者冷遇系の悪役令嬢ポジションな気がしてならない。
祝福を授かった時は他にいい感じのことが言えず、結果得たのが『曇りの聖女』だ。
でもねぇ。これ以外のことも大概アレだから。
適度な路線は、やっぱりこれしかなかったと思う。
「マロット公女はよく教会に行くそうだね」
「はい、殿下」
「やっぱり君は聖女になりたいのかい?」
おや。微妙に引っ掛かる言い回し。でも別にいいか。
「いいえ」
「違うと?」
「はい。というか、聖女って……なんでしょう?」
「何と言われると困るけどね」
ギフト名に『聖女』やらを授かることは普通にあるという。
でも、一度授かったギフトの名が変わったことは記録にはない。
私はそのことを殿下に話して続ける。
「私の授かった祝福が『聖女』に変わることはありません。ですので、聖女になりたいかと言われても困りますね」
「ふぅん」
ヴィンセント殿下が私を値踏みするように眺める。
「君の祝福の名は君以外の誰にも読めず、家族にすら名を伏せているそうだね」
「はい、おっしゃる通りです」
「どうしてそんなことを?」
「一つは、説明してもわからないことだと思うから。もう一つは、私自身も正直なところ全容を理解しきれない、したくないことだから、でしょうか」
「……ふむ。マロット公女はそう思いながらも、祝福を受けた場で即座に『空を曇らせることのできるギフト』だと明言したらしいが」
「……はい」
「君は、いったい何を隠しているんだい?」
おっと。ヴィンセント殿下はあれか?
冷静・冷酷・合理的で、国益のためならなんでもするタイプ?
ギフト持ちの公爵令嬢が、国のためになるというなら婚約者に強引に据えそうだ。
ここはうまく答える必要があるわね。
下手な嘘は見破られそう。前世一般庶民の私に純粋培養な王族の相手は厳しい。
「ギフトについて隠していることはございます。ですが、ここで詳細を明かすことはしません。見せてみろと言われてもお断りします」
「……へぇ」
ひぇ。冷たい微笑を浮かべたわ。まだ十五歳なのにおっかない。
あと、ちょっと『おもしれー女見つけた』も感じる!
「そこまで言われると逆にどうしても探りたくなるな」
「ならないでくださいませ。殿下にとっては一時の好奇心を満たせるかもしれませんが、私にとっては一生、永遠にふりかかるかもしれない災いになり得るのです」
「……なんだい、それは」
だって、ねぇ。正直なところわからないのだ。
このギフト名が示す状態というものが、いつの、どんなものか。
私の知識にある懸念事項を考えるに、どうしても守らなければならないことがある。
「殿下。殿下が私のギフトを探るのは構いません。ですが、私にギフトを使わせんとするなら、私は死に物狂いで抵抗致します。命懸けです。だって死んだ方がマシかもしれませんので」
「……そこまでか」
「はい。ただ」
「なんだい?」
「……仮にギフトを行使するならば、せめて十七歳以上にさせてくださいませ。十七歳以上、できれば二十歳から二十三歳くらいでそうなってくれるなら、まぁ、私としては満更でもなく……。いえ、やっぱり怖くて嫌なんですけど」
「何を言っているのかまったくわからないが」
「はい……。まぁ、年齢制限に関しては、あくまで私の懸念、安全対策のようなものです。実際は無関係ということも大いにあり得ること。むしろ、思ったよりも何もできない可能性も」
ヴィンセント殿下が首を傾げる。
「本当に何を言っているのかわからないが、君は授かった祝福を怖れているみたいだ」
「そうですね……」
いやぁ、だって怖いでしょ、これは。
見ている分には爽快活劇かもしれないけど。
実際に当事者になり得ると言われると、たまったものじゃない。
「いったい何を怖れているんだい、マロット公女」
「それはまぁ、仏罰を怖れております」
「ブツ、バチ……?」
「ああ、えっと。神の裁きを怖れております」
この国に仏様はいなそうだからね!
「神の裁き」
「はい。ですので、日々、私は神に祈りを捧げ、信心深くあろうとしているのです。神の怒りを買わぬように心掛けております。また暴れ回らない、謙虚にあることも」
「暴れ回らないとは。それは信心深いというのだろうか」
まぁ、どちらかというと恐ろしいから平伏している感じだけど。
「ギフトは神からの授かり物のはずだが、それなのに神の裁きを怖れると?」
「罰がとても重いので。私にとっては」
「まるで神の罰を受けたことがあるようだが」
「それはないんですけど、聞いているだけで頭がおかしくなりそうで……」
「誰に聞いたんだい?」
「誰でしたっけ……」
うーん、原初の記憶がわからない。
あと、世界で最も有名なのがノイズになって細かいことを忘れている。
「まぁ、とにかく。十七歳になればギフトの真価を発揮するつもりがあると」
「……本当に何ができるかは、その頃に改めて探ろうと思っております。それまでは私も、ギフトを極力使わないと神に誓いを立てております」
「まるで聖女の心構えだね」
ヴィンセント殿下は皮肉げに苦笑する。そのあと、私たちの婚約については保留になるのだった。




