02 ギフトで空を曇らせてみる
どうにか王都にあるマロット公爵家の邸宅に帰ってきた私。
お父様やお母様も驚きつつ、ギフトを授かったことを喜んでくれた。
「しかし、空を曇らせることのできる祝福か」
「……え、ええ。そうですわ、お父様」
「聖女なのかい? カーマイン」
「いえ、私は聖女ではありません」
「そうか」
何か疑われてしまっている。
でも、どうだろう。微妙なラインを言ってしまった気がするなぁ。
空を曇らせるって。
もし、このギフトが文字通りなら、できるはずだけど。
でも、たぶん一過性よね。
「あんまり強力な力ではありませんのよ、ふふ」
「そうかい。でも、一度は使ってみないとわからないだろう?」
「え、使う……」
「ああ。いきなりは厳しいだろう。晴れが続いた日でも試してみるといい。それに簡単なことのように言うが、カーマイン。それは凄いことかもしれないよ」
「え、そうでしょうか……。だって曇りですし……?」
本当は違うけどね!
「空を曇らせられたなら、それは雨雲が呼べるってことじゃあないかい? そうしたら雨乞いの聖女と呼ばれる日も……」
「いえいえ! 待ってください! あくまで私のギフトでできるのは『曇り』だけです!」
「……そうなのかい?」
「はい! もちろん、ギフトの把握には努めますが、それ以上のことはできないとだけ」
「……うーん」
お父様は納得しかねるらしい。
まぁね。わかるのよ、私も。
空を曇らせるって、それってつまり『天候操作』じゃないか! って。
天候操作となれば、とんでもないチートギフトだ。
この異世界でも充分に求められる、素晴らしい能力だと言えるだろう。
でも違う。
本当は違うのだ。
「あの、ええと。曇らせる期間もたぶん、あんまり長くなくてぇ……。日照りの解消とかも厳しいんじゃないかと思います、お父様」
「そうかい? それはまぁ、やってみてからだろう」
「……はい、ソウデスネ」
お父様とはどうにか話を切り上げて、私は自室に戻る。
そこからは今後の対策を練る時間だ。
まず、手近でやれそうなことを片っ端から書き出してみる。
もう、それだけでなんていうか。
「待って。これ、私、アレじゃない?」
また嫌な予感に冷や汗が流れる。
これはギフトを使うのもできるかぎり控えた方がいい。
少なくとも二十歳くらいまでは控え目、低出力だ。
「それに」
ギフトの名が、そのまま運命をなぞるものとは思えない。
でも、用心しなければならないことがある。
たとえば、この世界だと。
「このギフトで暴れたりしない。そして謙虚に生きる。信心深くある方がいい」
うん。教会に頻繁に通うことにしよう。
そして、決して神様仏様を愚弄したりしない。
なんなら私が敬虔な信徒になったつもりで祈る。
あとは他にも……。
いろいろな対策を考えつつ、三日間ほど。
私の今後の方針が決まったので、お父様やお母様に声をかける。
「お父様、お母様。私、今日から教会に定期的に通い、祈りを捧げることにします」
「それはかまわないが。ギフトの影響かい?」
「それも大きいですね。念のため、信心深くありたいのです」
「念のために信心深く??」
お父様とお母様は、わけがわからなくて首をひねるばかりだ。
でも、私だって『コレ』を詳しく説明しろって言われると困る。
そう、困るのよ、正直。
だって『コレ』、説明できなくない? とくにこの世界だと。
私の転生前の世界なら、まだ話が通じる可能性が高いけど。
でも、こっちの世界でこんなこと言われても『はぁ?』って怪訝な顔されるわよ。
あと、私もまだギフトの全容を把握できていない。
……把握したくないなぁ。
でも、間違いなく使いこなせれば、ものすごく有用なはずだ。
ただし、力に溺れるようなことは絶対に許されない。
その結末は、きっと私では耐えられないからだ。
「結局、貴方の祝福、名前はなんて言うの? マイン」
「それは……企業秘密ということで、お母様」
「企業って何かしらね……」
説明できないのだ。とにかく。いえ、難しい。
「まぁ、ただ。一度でいいから、見せてくれるかい? カーマイン」
「見せる?」
「空を曇らせる、というやつだ」
「ああ……」
それくらいなら、まぁ。許されるわよね?
力に溺れるわけでも、暴れるわけでもないし?
「わかりました。やってみましょう。でも、雲のない日の方がわかりやすいですよね」
「そうだね。また日を改めて見せてくれ」
そうして。
私はまず家族、身内の前でギフトを使ってみることにした。
正直、できるかぎり使いたくはないので、今日まで実験もなしだ。
はっきり言って、間違えば一生の後悔につながるかもしれない。
「では」
公爵邸の広い中庭で、私は一人、みんなから離れた場所に佇む。
そして、天に手を伸ばす。空は快晴だ。雲がほとんどない。お誂え向きね。
「…………」
ボソボソと誰にも聞こえないように、その名を唱える。
どうだろうか。私の思い描いたようになるだろうか。
「あっ」
「お?」
空に雲が湧き出した。イメージとしてはビュン! だったんだけど。
どちらかというとモクモクって感じで空に雲が湧き出した感じ。
「おおお?」
「まぁあ!」
「本当に出た……」
それぞれに驚きの声をあげる。
これで私は『空を曇らせることのできるギフト』を発現した。
……たとえ、本当のところは違ったとしても。
「素晴らしい! これがカーマインの授かった祝福か!」
「ええ、とてもすごいわ、マイン!」
「……えへへ、ありがとうございます、お父様、お母様」
ギフトの発現に成功したことは、お父様たちを通して教会にも知らされた。
ひとまず平和的に時間が過ぎていく。
私のやるべきことは、それほど変わらない。
ギフトにはできるかぎり頼らない。
力に溺れない。暴れない。謙虚に、信心深くある。
あと、ギフトを本格的に使うとしても、せめて十七歳以上。
二十歳から二十三歳くらいにする。
年齢での制限は、あくまで私の杞憂かもしれないけどね。
そうして、あっという間に時が過ぎて。
私は十五歳になった。
もう少しで王立学園に入学する頃合いだ。
前世の記憶に合致するような物語は、やっぱり知らない。
少なくともギフトの『コレ』を題材にした乙女ゲームとか、たぶんないだろう。
私は知らない。
そんなある日のこと。
「え、まさか、第一王子と婚約?」
「『殿下』と呼ぶのよ、マイン」
公爵令嬢であり、ギフトを授かり、謎に『曇りの聖女』などと影で呼ばれている私は、どうやら王家に目をつけられたらしい。
……この世界、乙女ゲームの世界じゃ、ないわよね?




