16 事件発生
「……友達」
「あ! す、すみません、急にこんな。失礼なことを……」
つい言ってしまった、というようにヒロインちゃんは目を伏せる。
その態度に偽りは感じられないが、確証はまだない。
どうしたものかしら。
友人として彼女をそばにおけば判断材料が増える?
それはメリットかもしれないが、同時に私の観察もされることになる。
彼女の中身が転生者、もしくは腹黒だったら、敵を懐に入れるようなもの。
身近にいて、私の癖やら何やらまで知られるのは避けたいわね。
下手に友人として広まった場合、彼女が影で私の悪評を流そうとした時に、妙な信憑性も生まれてしまうから対処が難しくなる。
彼女の善悪の評価は、私がそばにいる時には難しい。
むしろ私がいない時、誰も見ていない時の彼女こそ、真の彼女の姿のはずだ。
そして、私には『誰も見ていない時の彼女』を視る術がある……。
「貴方の言う友達が、どの程度のものを指しているのかわからないけれど」
「は、はい」
「『常に一緒にいる』ような関係は難しいわね」
「はい……」
「それは親友、いえ私たちの場合は、主従のような関係に見えるかしら。正直に言って、貴方とそういう関係になるのは望ましくないわ。でも」
私がそこで言葉を区切ると、ヒロインちゃんが伏せていた顔を上げる。
「偶に、こうして会って、おしゃべりをするくらいなら、よくてよ」
「……! 本当ですか!?」
「ええ。私も貴方のことを聞きたくないわけじゃないから」
ヒロインちゃんは、パァア! と輝くような笑顔になる。
くぅ、眩しい。これは本物スマイルでは?
転生者にこの純粋さは出せない気がする!
「嬉しいです! ぜひ、そうしていただけますと!」
「ふふ、わかったわ。じゃあ、偶に、偶にね? 会った時にでも話しましょう。でも、ベッタリと一緒にはいられないわ。貴方も、私も『お互いしかいない』感覚はある。ギフト持ちの同世代、同性、そういう共通点があるからね。でも、それは強い依存関係になりかねない。それは望むところじゃあないの。どちらかといえば、互いに別々の道で一生懸命に生きて、それを時々会って報告し合う。そんな関係になれるといいわね」
「はい! 私もそうなりたいです!」
うんうん。可愛いわねぇ。でも、まだ信用していないの。
本物ヒロインちゃんだったらごめんね。
「じゃあ、今日はこのくらいで。また会いましょう」
「はい! お話し聞いてくださって、ありがとうございます!」
お別れをして、バビュン! とヒロインちゃんは走り去っていった。
うーん、はしたない。廊下は走るなとか、淑女らしくとか思い浮かぶ。
でも、イケメン男子の前でだけ走って転ぶタイプではなさそうだ。
普段からのムーブがアレなのだと理解できる。
「さっきのベネディクト氏からして、すでに好感度上昇が始まっているのかしら」
ベネディクト氏は教会関係らしい。
『聖女』のヒロインちゃんとは早期に接触があったのだろう。
そこで、『この子、放っておけないな……』という庇護欲が芽生えたのかもしれない。
つまり、実はG4の中で攻略難易度の低い、チョロヒーロー枠。
あれだけ影のある、攻略難易度高そうな雰囲気のくせに。
「まぁ、一番難易度が高そうなのって、たぶん殿下よねぇ」
冷酷・腹黒系王子キャラだもの。
現実的に考えても彼とヒロインちゃんがゴールインするには困難が待っている。
「……何かヒロインちゃんが功績を挙げるようなことが、この先に起きる?」
そうでもないと、流石にギフト『聖女』だけでは王子エンドは難しいだろう。
そもそも論、この世界がなんらかの物語世界だというのは私の思い込みかもだけど。
「結界、浄化、癒し、退魔……。そういう系の能力で挙げられる功績ねぇ?」
手っ取り早いのは癒しだろう。
なんらかの大災害なり、流行病などが起きた時に、ヒロインちゃんのギフトで人々の命を救う。
そうすれば民の支持も得られるし、王家も王子の妻に選びやすい。
「さらに、その大事件の原因に、悪役令嬢の私が何かする……?」
ギフト『聖女』で、悪魔祓いもできるというのが気になるなぁ。
犯人が私じゃないとしても、誰かが悪魔を召喚したりできるということ?
そうして王家か、民に大規模な被害をもたらす、と。
「…………」
今度の休みに、ちょっとマロット公爵家を家探ししてみようかしら。
この先のどこかで自暴自棄になった私が、家で悪魔召喚の方法を見つけるとか。
そういう展開、ありがちよね?
それから私は、また平穏な日常を送り始めた。
『火眼金睛』を使って、ヒロインちゃんの調査をしようかとも思ったけど。
まだ、ボロが出るタイミングじゃない気がするのよね。
もう少し、ギフトに頼らずに様子を見る。
さて。私が学園に入学する前から、今日までの流れだ。
まず、私たちがギフトを授かった。
そのせいで私とヴィンセント殿下の縁談が話題になり、私は婚約者候補に名を連ねた。
入学前にヒロインちゃんことアスティエール嬢は『聖女』と発覚。
そのあと、いろいろと話題を振りまきつつ、私は王族専用のサロンにお呼ばれ。
その日のうちにヒロインちゃんと初接触。
今後の交流を約束した。
ここまでの流れで次に起きそうなイベントは?
まぁ、ヒロインちゃんとG4の交流は発生しているのだろう。
でも、ゲーム的に、物語的には、そろそろ刺激がほしくなる頃合いでは?
具体的にいうとヒーローの活躍イベント。
学園モノらしく、ただ学園内行事でエンカウントを繰り返すだけか。
平和な世界観ならそれでもいい。
でも、裏に『悪役令嬢を火傷させようと襲撃した何者か』がいる。
そんなに平和に過ごせるかしら……?
いえ、私の孫悟空は物語に影響しないものとして。
それを前提にすると、ただの『バカゲー』になるから。
……元から、悪役令嬢のギフトがコレな乙女ゲームとかないわよね?
誰か、ないと言ってほしい。
そんなふうに考えていた矢先、事件が起きた。
偶々通りかかった廊下で、私はそれを目撃する。
「離せよっ、俺じゃねぇって!」
「黙れ! いい加減にしろ! 証拠はある!」
「うるせぇ! 離せぇえ!」
いったい何?
一人の男子生徒が、強制的に連行されている光景だ。
「ねぇ、あれは何が起きているの?」
近くにいる女子生徒に事情を尋ねる。
「マロット公女、私たちもよくわかりません。ただ、あの連れていかれている男性、生徒会の人だと思います」
「生徒会の?」
それがなんだってあんな犯罪者みたいに連行されていくのかしら?
私が首を傾げていると、その騒がしい一団がこちらにやって来る。
私を含めた生徒たちが道を空けるように廊下の端に寄った。
だが。
「なぁ、助けてくれよ、公女様!」
……どうして、そこで私に絡んでくるのかなぁ。
イベントを起こすならヒロインちゃん側にしてほしいものだ。
私は下手に口を開かずに〝キョトン顔〟をして首を傾げる。
「ええと?」
連行されている側の男子生徒が私に絡んでくるのを無視して、連行している方に目を合わせる。
どういうことかわかりません、と。
「いえ、こいつは……」
「全部アンタの指示だろう!?」
「…………」
「なっ! 俺を助けてくれたら黙っていてやるからさぁ……!」
なんか言い始めた。偶々通りかかっただけなんだけど。
これ、たぶんまずいヤツよね。
ヒロインちゃん側にイベントを起こすんじゃなくて、私側にこういうことを起こすのか。
はぁ……。
「お待ちください。いったいどういうことか説明していただけて?」
仕方なく、私はその事件に介入するのだった。
事と次第によっては孫悟空が学園で暴れ回るわよ! ウキーッ!




