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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠


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15 ベネディクト・サンプリエール

「いったい何を言っているのかしら?」

「……彼女は『聖女』のギフトを授かった令嬢です」

「ええ、そうね」


 知っているわよ。


「公爵家の圧力をかけて彼女をどうするつもりですか? それは許されない行為です」

「…………」


 私は唖然とする。

 とてつもない言い掛かりをつけられた。

 すぐに反論してもいいんだけど、今ここにはヒロインちゃんがいる。

 私は、あえて口を閉じ、ヒロインちゃんの様子を窺うことにした。

 男子の方は最悪、締め上げればいいのよ。

 本当に厄介なのはヒロインちゃんの方のはず。

 彼女が私と同じ転生者なのか、どうか、それを探ろう。


「反論もないようですね」

「…………」


 私は大人しく沈黙し、目を細める。

 ベネディクト氏は軽蔑したように私を見下ろす。

 ベンチに座っている私たちに、上から目線だ。


「……ま、待ってください!」


 私が沈黙を選んだからか、フリーズしていた様子のヒロインちゃんが声を上げた。


「何を言っているんですか!? マロット公爵令嬢はそんなことはしていません!」

「セラフィナ嬢、しかし」


 ヒロインちゃんは立ち上がり、怒っている様子だ。

 それはとても自然で、本心からの言葉に思える。

 この世界が乙女ゲームの世界なら、これはイベントなのだろうか。

 でも、転生者の私が介入している時点で、そういうのって成立しない気がするのよね。


「私は圧力なんてかけられていません!」

「……脅されて、そう言わされているのでは?」

「それこそ何を言っているんですか! 今日は私からマロット公爵令嬢に話しかけたんですよ!? 私が話したくてそうしたんです! それなのに急に横から来て、そんなことを! いったいなんのつもりですか!」


 激昂するヒロインちゃんに、ベネディクト氏はたじろいだ。

 きっと正義の味方のつもりで口出ししてきたのだろう。

 でも、それがヒロインちゃんの逆鱗に触れた。

 ……ように見える。


 けれど、これが元からのイベントだとしたら、そして彼女が転生者なら、意図的にこの状況を作り出した可能性が否定できない。

 この時期に悪役令嬢の私と二人きりになることで、ヒロインを庇おうとするヒーローと喧嘩する。

 ありがちなイベントだろう。


 まだ入学してから間もない時期。

 ヒーロー・ヒロイン間の好感度は低くてもいいのだ。

 むしろ最初は喧嘩するくらいがちょうどいい。

 あとから好感度を上げていけばいいのだから。


「い、いや、僕はただ……」

「知りません!」


 激昂するヒロインちゃんに冷や汗をかいて、どうにか言い訳をしようとするベネディクト氏。


「申し訳ありません、マロット公爵令嬢、貴方に不快な思いをさせてしまって」

「……貴方が謝ることはないわ。それよりも落ち着いて、座って?」

「ですが」

「アスティエール子爵令嬢、座って」


 私はベンチをトンと叩き、真剣な顔を作る。


「は、はい……」


 威圧的な振る舞いに見えたのか、ベネディクト氏は眉間に皺を寄せた。


「ベネディクト・サンプリエール、どうしてかしら?」

「……何がでしょうか」

「今、彼女が怒ったように、貴方が言ったことはまったくの言いがかりでした。どうしてそのような勘違いをするに至ったのですか? 教えてください。ああ、私は別に怒ってはいません。貴方の間違った言動を許してさしあげますので。だから、アスティエール子爵令嬢も怒らなくていいですよ」

「でも……」

「ふふ、優しい子ね」


 私はヒロインちゃんの手を取って、牽制する。

 本来の流れとやらがあるかわからないが、どうにか変えられるかしら。


「本当に怒っていないのよ。ただ、びっくりしただけ。だって、てんで的外れな言葉だったじゃない? 私たちは楽しくお話ししていただけなのに。だから驚いたの。でも、それだけ。だからね、落ち着いて聞きたいの。貴方も知りたいでしょう? 彼がどうしてそんな勘違いをしたのか。間違いに気づいてくれたなら、もう彼だって同じことは繰り返さないでしょう?」

「マロット公爵令嬢……。……はい、そうですね。すみません、私ばかり怒ってしまって。嫌な思いをしたのは貴方の方なのに」

「ふふ、いいのよ。貴方が怒ってくれたのは私のため、人のためだもの。嬉しかったわ」

「マロット公爵令嬢……」


 ああ、キラキラな目を向けられる。

 クラッと来そう。これは惚れちゃうわぁ。

 でも、まだわからない。彼女の中身が本物ヒロインちゃんなのか。

 いや、でもこのキラキラ感は本物にしか出せないのでは?


「で。ベネディクト氏? どうしてあのような発想になったのか、お聞きしても? 私たちはこのように悪くない交友をしていただけですが」

「……それは」


 ヒロインちゃんがキツめに睨みつける様子を窺う。

 でも、私に流れを任せてくれるみたいで口を閉じている。


「公爵家の圧力をかけている、でしたか。本当に心当たりのないことです。ですので、これは怒っているわけでも、貴方を責めたいわけでもないのですが。どうしてそう考えるに至ったのか、教えていただけますか?」

「…………」


 寛容な姿勢と、ヒロインちゃんと良好な関係を見せつける。

 ベネディクト氏は流石に分の悪さを悟ったのか、気まずそうだ。

 別に本当に怒ってはないわよ? だって、その気になれば物理的に叩き潰せるもの。

 声を荒らげられても怖くない。なぜなら孫悟空だから。


「……マロット公女は、聖女を疎んでいると……」

「私が? 彼女を? なぜ?」

「……彼女が『聖女』のギフトを授かったから」

「どういう関係があるの?」

「貴方は……『聖女』になろうとしています。〝曇りの聖女〟などと吹聴して、その立場を得ようと画策しているから……。本物の聖女は邪魔だと」


 ええ……? 何それ。


「まったく心当たりはないし、私は〝曇りの聖女〟などと自ら吹聴した覚えはありませんが? 公爵家でもそのようなことはさせていません。また聖女になろうとしたこともありません」

「……洗礼の儀式の際、聖女や大聖女を名乗ろうとしたと記録が残っています」

「大きな勘違い、誤解ですわね。それは教会の記録でしょうか? わかりました。公爵家から教会へ正式な抗議を入れさせていただきます。酷い侮辱だわ」

「ですが、確かに!」

「……はぁ。確かに私は『せい』『たいせい』という言葉を、洗礼の場で口にしました。しかし、同時に聖女でも、大聖女でもないと明言もしています。そちらの記録はないのですか?」

「……あります」


 あるんかい!


「貴方はいったい何を考えているの?」

「…………」

「……ああ、そうか。わかったわ。貴方こそ『聖女』のギフト持ちだというだけで、アスティエール嬢を口説こうとしたのね? 下心だけしかない心で」

「なっ!」

「アスティエール嬢に男らしい姿を見せたくて、私を悪者に仕立て上げた。冤罪を平気で作り出すなんて、軽蔑しますわ。アスティエール嬢、貴方、彼に男性として性的欲求の対象にされたみたい」

「えっ」

「ち、違う! それこそ言いがかりだ!」


 まだ好感度の上がっていない状態で、性的な目で見られているとか言われたら、気持ち悪さ倍増だろう。そういう方向性で一度下がった女性からの好感度は、なかなか上がらない。

 ヒロインちゃんは嫌そうな表情を浮かべる。

 焦るベネディクト氏。ふふ、いい気味。


「そう、言いがかりなの。だったら私の勘違いだったわ。誤解したことについて、謝罪するわね、ベネディクト氏。ごめんなさい」

「……!?」


 私は、あっさりと前言を撤回し、頭を下げた。

 このままヒロインちゃんの好感度マイナス攻撃を続けてもいいんだけど。

 ルートに入ったら『あの時はこうだったけど、いい思い出になったよね!』とか、そういうふうに逆転することも大いにあり得る。

 なので、それよりも効果的なのはヒロインちゃんの、彼への興味をゼロに近付けることだ。


「…………」


 沈黙。私は誤解したことを謝罪してみせた。頭も下げた。

 さぁ、貴方はどうするの? と無言で圧力をかける。


「も、申し訳なかった、マロット公爵令嬢。僕が勘違いをして、貴方にあらぬ疑いをかけた。……すまない」


 ベネディクト氏は私の圧に負けて、頭を下げる。

 まだ救いがあるとも言えるわね。まぁ、私が先に謝らなかったらどうしていたか知らないけど。


「許します、ベネディクト・サンプリエール。これからは思い込みで他人に攻撃的な言葉をかける前に、一度立ち止まって、じっくり考え直す癖をつけてください。生徒同士のやり取りだから問題も小さいですが、そのままで大人になった時、貴方自身が後悔しますよ」

「……はい」


 うんうん。その場凌ぎかもしれないけれど、形は反省できたのだから上等。


「では、まだ私と彼女は話したいから、もう立ち去っていただける?」

「……はい」


 微笑みながらそう促がすと、彼はトボトボと立ち去っていった。

 ふぅ。首根っこを掴んで剛力で投げ回さずに済んだわ。


「……すごいです! マロット公爵令嬢!」

「あら、何が?」

「とっても冷静に、それにきちんと彼に反省させました! 大人です!」

「……まぁ、彼があまりに猪突猛進だったからよ」

「でも、すごいです! 私だったら怒ってばかりでした! ああして冷静に諭すのが本物の貴族令嬢なんですね……!」


 キラキラだなぁ。

 その表情、態度、言葉に裏表は感じられない。

 それに私が自主的にした展開に対しての言葉だから、原作の台詞をなぞっているわけでもないだろう。やっぱり本物ヒロインちゃんかしら。


「それで貴方、さっき何かを言いかけていなかった?」

「あ、それは……その。恥ずかしいことなのですが」

「気になるわ。言ってみて?」

「は、はい。あの、私……、私と! 友達に! なってくださいませんか!」


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― 新着の感想 ―
実は乙女ゲームな世界じゃなくて百合ゲームでG4をボコる摩訶不思議アドベンチャーゲームだったりしない?
だが、それが逆にアスティエール子爵の妻の娘の逆鱗に触れた!(ジョジョ風)
担任の先生に叱られた小学生みたいでしたねー。 心の孫悟空が次はどんな活躍をしてくれるのか、毎回ワクワクです!
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