14 聖女との初対面
まさかのヒロインちゃん突撃イベント発生中。
しかし、彼女はいきなり話しかけてはきたものの、きちんと名前を名乗った。
私のことも名前で呼ぶようなことはなく、なんだかんだ元から貴族令嬢タイプだ。
「はじめまして、アスティエール子爵令嬢。見かけたことはありましたが、こうして話すのは初めてですね。カーマイン・マロットです」
「は、はい! はじめまして! セラフィナ・アスティエールです!」
大げさにペコリと頭を下げてくるヒロインちゃん。
その態度や視線から悪意や敵意はとくに感じられない。
やっぱり転生者じゃなく、本物ヒロインちゃんなのかな?
「それで、どういったご用件でしょうか、アスティエール嬢」
ヒロインちゃんは金髪だ。サラサラ、キラキラの長髪である。
そして容姿はとっても可愛い系。妖精にたとえたいところ。
これで中身も本物ヒロインちゃんならモテモテでも許せるレベル。
「は、はい。まず、突然話しかけてしまい、申し訳ございません」
「いいえ、そう言ってくれるなら構いませんよ」
図々しく自分の話を始めるタイプより、よほど好感度が高い。
「あの、私。マロット公爵令嬢とお話ししたいことがありまして。ギフトについて、です」
まぁ、そうだろう。私と彼女の共通点はギフトくらいしかない。
まさか彼女の方から接触があるとは思わなかったが。
「……わかりました。お話しするのはかまいませんが、それは他人に聞かれてもいい話でしょうか? でしたら、庭に並べられている椅子で話しますか?」
「あ、はい! では、そちらで! 私は誰に聞かれてもいいですが、マロット公爵令嬢が困るというのなら、どこへでも」
うん。どうも話しながら罠を張ろうとはしていない様子。
「では、あちらへ一緒に」
「はい!」
そうして私はヒロインちゃんと話をすることになった。
「ギフトについての話とは? 何か困ったことでもあったのですか」
「いえ、その。今のところは困ったことはないんです。ただ」
「ええ」
「……同じギフトを授かった女性が他にいないから」
「なるほど」
まぁ、気持ちはわかる。同性の相談相手が欲しかったとか、そういうことかな。
ヒロインちゃんとG4がそこまで仲良くしている様子はまだ見ていない。
でも、軽度の接触はあるようだから、まだ攻略序盤ね。
彼らもギフト持ちではあるが、ヒロインちゃんからすれば話してみたいのは私の方なのだろう。
こういうところも『本物』っぽい。
ヒロインちゃんは女子生徒に嫌われている様子はない。
それに『聖女』のギフト持ちであることを鼻にかけることもない。
概ね、周囲からは好意的に受け入れられている印象だ。
G4との接触が最小限なところも理由かもしれない。
いかなギフト『聖女』持ちとはいえ、まだ殿下の婚約者候補には名を連ねていないのだ。
だから嫉妬の対象にはなっていない。
「もしかして貴方のギフトは、体調に変化をもたらしたりするの? それで相談できる女性がいなくて困っていたとか」
「いえ、そのようなことはありません。むしろ体調は常にいい方だと思います」
ほう。それは領地で育った元気さが原因なのか、ギフトの影響なのか。
アイゼンハルト卿も、ギフトには複数効果がありそうな雰囲気だったしなぁ。
私に至っては色々とありすぎてアレなことになっている。
彼女たちのギフトだってそうなのかもしれない。
「ただ、私。王都に来てから初めてギフトを授かったので……」
「そうらしいですね」
「幼い頃に受けた洗礼では何もなかったんです。それなのに」
うーん。そこは『ゲームスタート』に合わせて聖女と発覚する流れなのか。
それとも彼女の領地にある教会が意図的に伏せていたのか。
ヒロインちゃん掘り下げエピソードが眠っていそうね。
「まだ、実感が湧いていないんです。それも『聖女』なんて言われても」
「……なるほど」
そりゃそうだろうな。
「だいたい『聖女』なんて言われて、何をどうしたらいいのかもわからなくて」
まったく同感である。でも『聖女』はまだマシだろう。
教会で奉仕的な活動をしているだけでも面目躍如だ。
『斉天大聖孫悟空』なんて授かった私は、本気で何をすればいいのかわからないわよ。
仮に私が悪役令嬢として、ヒロインちゃんとギフトの字面に温度差がありすぎないか。
『聖女』と『斉天大聖孫悟空』はおかしいでしょ。
それとも聖女にも超絶級の戦闘能力が……?
「話したくないのなら話さなくていいのだけれど。『聖女』って何ができるの?」
記録にも残っているかもしれないけれど、当人の語る情報にしか信憑性はない。
実は『玄奘三蔵法師』なのを聖女って言っているだけかもしれない。
まぁ、彼女たちの場合はきちんと洗礼水晶にギフト名が浮かんだらしいけど。
「ええと、そうですね。結界を張ったり、浄化っていうのをしたり、怪我を治したり……」
まさに聖女ラインナップねぇ。それにしても結界。要るのかしら、この世界観で。
いえ、戦闘機会はあるにはあるんだけど。
「あと悪魔祓いもできます!」
「悪魔祓い」
悪魔がいるの、この世界!? 世界観を統一しなさいよ!
せめて妖怪にして! いや、それだと私がやられる!
「……見たことあるの、悪魔」
「い、いえ……。私は見たことはないんですけど、教会の文献に『聖女』についてのことが残っていて、そこに記されていました。私も同じことができるそうです」
となると過去には目撃例があるのか、悪魔。
……それ、妖怪じゃない? まぁ、人間に害を成せば妖怪も悪魔もないか。
「あ、試してみますか? マロット公爵令嬢」
「……いえ、それは」
「やってみますね、えいっ」
ちょっ! このヒロインちゃん、問答無用!?
まさか、これが狙い!
私に邪悪な何かを感じ取っていて祓うつもりだった!?
パァアッ! という光が私に向けられる。
魔法陣は西洋風、この国準拠だ。十字架はなさそう。
ちょっと光っただけで、すぐに光は消えていった。
「…………」
浄化や悪魔祓いとやらで私に火傷などが起きるかというと、そんなことはなかった。
体調に変化なし。ギフトが封印されているとか?
「どうでしょうか。肩が凝るのが治ったりするらしいんですけど」
「肩凝りって」
私は腕を軽く回してみるが、とくに変化なし。
肩凝りを癒すくらいの気持ちで悪魔祓いしたの、この子は。
「今のが悪魔祓いなの……?」
「はい! 正確にいうと『なんでもあり』です!」
「ん? なんでもあり?」
「今の光で、だいたいのことができるみたいです。癒しも、浄化も、悪魔祓いも、全部同じ光で済ませます。結界だけ形状が違いますけど」
聖女の光は全部乗せセットなのか。
じゃあ、私のギフトは別に浄化されるようなものではない?
やったね、斉天大聖。暴れん坊時代の名前なのに粛清対象を外れているわよ!
「あの、私……」
ヒロインちゃんがさらに何かを言い掛けたところで。
「さっきの光は、ここか」
斜め後ろから現れた誰かが声をかけてくる。
私とヒロインちゃんは一緒に振り向く。
「貴方たちは、いったい何をしている?」
影のある黒髪イケメン、G4の教会系男子ベネディクト・サンプリエール氏だった。
「……マロット公爵令嬢、あまり感心しないな」
「はいぃ?」
私はまた因縁をつけられるらしい。威嚇して追い払うわよ! ウキッウキィ!




