01 曇りの聖女
この国では十三歳になる子供を集めて、教会で洗礼を受けさせる。
洗礼を受けた子供の中には、稀に祝福を授かることがあるの。
この日は私、マロット公爵家の長女こと、カーマイン・マロットが洗礼を受ける日だった。
王都にある大きな教会に両親とともに来ている。
同世代の子供たちも綺麗な服を着て、期待と不安を表情に滲ませていた。
「カーマイン・マロット、次は貴方の番です」
「はい」
大司教に名を呼ばれ、返事をしてから前に出ていく。
ところで私には公爵令嬢であることは別にして秘密がある。
それは、実は私が前世持ちであるということ。
しかも、前世の記憶は異世界の日本の記憶だ。
私は、異世界転生した公爵令嬢なのである。
もしかしたら、ここは乙女ゲームの中かもしれないけど、私に該当する記憶はなかった。
とりあえず、この世界は思ったよりも発展している文明があってよかったわ。
時代的にいうと近世、なのかしら。正直、その辺りは詳しくわからない。
ただ地球の文化とはギフトの件からしてまったく違うものだ。
あと、ついでにいうと『生活魔法』なる、ちょっとした魔法やら、それらの魔法を利用した技術やらが発展しているので、どう考えても地球と同じようにはならなそう。
そういう感じの文化な以上、私の素人知識ではチート技術の開発とか絶対に無理でしょうね。
「こちらの水晶に手を触れてください」
「はい、大司教様」
いよいよ私の洗礼の時だ。
公爵令嬢であるからか、ギフトを授かるんじゃないか、なんて期待されている。
私もちょっと期待はしているけれど、贅沢は言うまい。
(平穏、無事に過ごせますように)
日本の神社仏閣よろしく心の中で神様にお祈りしてみる。
そうして水晶に手を触れると。
パァッ!
「……!」
「光った!」
え、本当に? これ、説明されていたギフトを授かれる時の反応だ!
まさか、まさかの。さすがは異世界転生ってやつ?
「……なんだ、これは」
「ええと?」
ワクワクしながら大司教様の言葉を待つ。
しかし、どうも困惑している様子だ。
「大司教様?」
「……ああ、すまない。マロット公女はなんらかのギフトを授かった。それは間違いない」
「はい」
「だが、その授かったギフトの名が……読めない」
なんですって? それはアレかしら。
いわゆる『ハズレギフト』とか言われてバカにされるやつじゃないの?
すわ、やっぱりここは乙女ゲー世界で私は悪役令嬢なオチ?
「わ、私も見てもよろしいですか?」
「……ああ、構わないよ」
「では、失礼して」
なんとしても、ここで破滅フラグをぶち壊しておきたい所存。
適当にでっちあげる? いえ、それは逆にダメなやつ。
どうしようと思いながらも私は、ひっくり返された水晶に浮かぶ文字を読む。
「え? 読める……」
「なんと? 当人には読めるのか。そのようなことが」
そこに書いてあるのは日本語、いや漢字だった。
中国系の漢字じゃなさそうだから日本語でいいのかな?
「なんと書いているのかな、マロット公女」
「ええと、ですね。せい……」
ん?
「大聖……」
んん? 待って。待って、これって?
え、嘘でしょ。じゃあ、乙女ゲー世界じゃあない?
え、何? まさかコメディーの世界? それともバトルもの?
え、怖い怖い!
「どうした?」
「ええと、その、なんていうか」
「今、聖……と口にしたが、もしや『聖女』か?」
「え? あ、いえ、聖女では……ない、ですかね?」
「違うのか?」
「ええと、まぁ……」
「いや、聖の前にも何やら口にしたな? もしや『大聖女』か」
「……それも違います」
「違うのか?」
え、これ、どうしよう。どういうふうに解釈すべき?
待って、待ってよ?
ここは冷静に考えた方がいい。
これ、もしも『そのまま』だとすると、かなり危険なやつじゃない?
選択肢をミスると、とんでもないことになる!
私は滝のような冷や汗を流し、頭をフル回転させる。
これは私の今後の人生を変える。
検証はあとでいい。
ひとまず、この場を誤魔化せそうなことを言って、一時凌ぎをしよう。
そして家に帰って、ゆっくり寝て。
じっくりと考えるの。このギフトについて。
思い浮かべろ、このギフトから連想できる何かを。
この世界でそれなりに受け入れられそうで、無害そうな何かを。
ええと、ええと。
アレはダメ、コレもダメ、あっちはナシ、こっちもナシ。
そう、そう、だから、そう。うん!
「く、くもり、です」
「ん?」
「私が授かったのは、空を曇らせることのできる祝福、みたいです」
咄嗟に私はそう宣言したのだった。
そうして私は、このことがきっかけとなり、いつしかある呼び名がつくことになる。
そう、『曇りの聖女』と。




