2人旅
そして3日後の朝早く、マリウスさんに見送られて私達は出発した。
マリウスさんの顔色はだいぶ良くなっていた。これなら私の代わりに行けるのではと思ったが、素晴らしい笑顔でドールハウスの家具や着替えなどが入ったバックを渡された。
途中の宿屋は全て予約してくれているとの事。
私は今日のために作ったストラップを取り出した。
「何だこの面妖なものは?」
「アンドリュー殿下の為に作ったんですよ、ほらこうやって肩からかければ、胸の上の所にこのパウチが来るので、殿下はここに入って頂けば、耳にも近いからおしゃべりしながら歩けますよ。中にクッションも入ってるので、座り心地はいいと思うんですですが」
「胸の上か。。。安定性は良さそうだな」
「殿下、リンさんのご迷惑にならないように自重してくださいね」とマリウスさんが何とも言えない表情をしている。
「。。。努力する」
「ではリンさん、殿下を宜しくお願いしますね」
「はーい、マリウスさんはゆっくり休んでくださいね」
そして私達は出発した。
王都を抜けるまでは、殿下にはパウチの中に入っていて貰ったが、人通りが少なくなったので、パウチの蓋を開けた。
「大丈夫ですか?気持ち悪くなってません?」
「大丈夫だ。クッションがいい仕事をしている。リンは疲れていないか?」
「まだ全然大丈夫ですよ。日が暮れる前には1泊目の街に着くと思います」
道は一本道だし、平坦なので何の問題もない。
「王弟殿下は何故ポーション作りに目覚めたんですか?王族の嗜みでもないですよね?」
「叔父上は魔法使いの物語が昔から大好きだったそうだ。子供の頃はそこら辺の薬草を勝手に煮込んで、父上に飲ませようとしたらしいぞ。今は一応体に害の無いものを作っているから、少しはましなんだろうが」
「王太子殿下を小さくしちゃうのは思いっきり害がありますよ」
「俺がこのまま小さいままだったら、どうなるんだろうな」
アンドリュー殿下が珍しく弱気だ。
「大丈夫ですよ、王弟殿下がいつかは戻るって言ったんですよね。変人だけど、腕は確かなんですよね。それでも治らなかったら、私も一緒に小さくなってお世話をしてあげますよ。マリウスさんでもいいですけど」
それを聞いた殿下はパッと私を見上げた。
「マリウスはポーションを飲ませる前に逃げるだろうな、でも悪く無い考えだな。。。」
うわーー本気でやりそう。
そんな風におしゃべりをしている間に隣町に着いた。
マリウスさんが予約してくれた宿に行くと、すぐに部屋に案内された。マリウスさん、仕事のできる男だわ。
「殿下。。これは何て言うんでしょう。はっきり言えば無駄ですね」
案内された部屋は無駄に豪華だった。
「分かりますよ、王族が泊まるなら普通はこれぐらいだって、でも見た目は私だけが泊まるんですし。そして殿下はドールハウスの家具があるじゃないですか」
「マリウスが手配したから、俺は知らん。でも、お前だって歩きっぱなしで疲れてるだろうし」
そうなんだけど、リビングエリアだけで十分な大きさなのに、ベットルームは別にある。
私は殿下の家具をテーブルに置いたが。。お風呂と寝室はどうしたらいいんだろう。
リビングで寝かせるわけにもいかないしね。
「殿下、ベットは寝室で大丈夫ですか?私はリビングのソファで寝ます」
「リンが疲れているんだから、ベットを使え。俺はこのベットがあればどこでも寝られる」
「じゃあ寝室のナイトスタンドにベットを置きますね。何かあれば、すぐに対応できますし」
アンドリュー殿下は何かいいたそうにモジモジしてる。
「リン。。。。お前いびきかかないだろうな?このサイズだと音が余計に大きく聞こえるからな」
「はい?何でそんな事を女子に聞くんですか!自分じゃ聞いた事ないのでわかりません!」
「そうか。。。そうだよな。まあ俺が明日の朝教えてやるよ」
やっぱりリビングに殿下のベット置いてやろうか?
お風呂は小さなタライにお湯を入れて石鹸で泡を立ててあげたらプールみたいだと喜んでいた。もちろんお風呂に入る時は浴室から追い出されたが。
ご飯は小さく切ってお皿に盛るのは難しかったので、お皿から適当に取って食べてもらう事にした。ロールパンの中をくり抜いて、トンネルを作りながら食べている殿下はちょっと可愛い。
デザートのケーキはほぼ私がもらった。
「その大きさならケーキもお腹いっぱい食べられますね。小さい時から山のようなケーキを食べるの夢でした」
「相変わらず甘いものが好きだな、俺じゃなくてリンが小さくなればよかったな」
お腹がいっぱいになったら、私はすぐ眠くなってしまった。うつらうつらしている私を見て、殿下は「リン、疲れているんだろう?早く休め。明日も早いしな」と言ってくれた。
口は悪いけど、アンドリュー殿下は本当は優しいんだな。
殿下をナイトスタンドに乗せると、ベットに潜り込んだ。
「お休みなさい、殿下」
「お休み、リン」
私はすぐに眠ってしまったようだ。
気がつくと朝だった。
ナイトテーブルの上のベットには、もう着替えを済ませた殿下が座っていた。
「殿下はちゃんとお休みになられました?」
「ああ、まあそれなりに」
「え?やっぱりいびきかいてました?」
「い。。いやそれはない」
ん?してたのかな?
「今、お湯持ってきますね。顔とか洗いたいでしょ?」
「リンの後でいいぞ」
私は顔を洗おうとして鏡を見た。
あれ。。頬になんか跡がついてる。嫌だわ、虫に刺されたかな。
「殿下は虫刺され大丈夫ですか?私は頬を刺されたみたいで、殿下が刺されたら血とか一気になくなるから気をつけてくださいよ」
「俺は大丈夫だ、俺には虫は来ない」
また2人で朝食を分けて食べて、私達は次の街に向かって出発した。
お天気も良く、道沿いには花畑もあってなかなか気持ちいい。
お昼は宿屋で貰ったサンドイッチを食べつつピクニックをした。
今日も色んな話をアンドリュー殿下としつつ歩く。殿下と一緒にいてこんなに平和な時間を過ごせるのは初めてかもしれない。私達も大人になったのね。
そして今夜も無事に宿屋に着いた。そしてまた無駄に豪華な部屋だった。
「マリウスもやりすぎだな」
「なんか申し訳ない感じがします」
「まあいいんだよ、金を持っているやつが使わないと、世の中の経済が回らないだろ」
そういうものなのかな?
今日の夕ご飯もケーキも美味しかった。
ワインまでついて来たので、少し飲んだらホワホワしてきた。
「殿下もいります?」
「俺のサイズじゃ、アルコールが強すぎるかもしれないから、やめておく。リンは好きなだけ飲んでいいぞ」
じゃあもう一杯と思ったのが良くなかった。
そこから記憶がイマイチない。
次の日の朝、ソファの上で目が覚めた。
え??アンドリュー殿下はどこ?ベットにちゃんと連れていったかしら?
テーブルの上にはいない。
寝室のベットにもいない。
私は自分の顔から血の気が引くのがわかった。
え?どうしよう!ソファの上で潰したりしてないよね。ちょっと泣きそうになって
「殿下ああああ」と叫んだら。
「うるせえ、叫ぶな!」とすぐ近くで声がした。
そこで髪の毛が引っ張られた。アンドリュー殿下は私の髪を三つ編みにして、それをロープ代わりに腰に巻き付けてた。
「よ。。よかった。潰しちゃったかと思った」
私の目からボロボロ涙が溢れる。
「こら濡れるだろう、泣くな。俺は大丈夫だ」と頬を撫でてくれた。
「さあ、今日中に北の離宮に着くぞ。帰りは、元に戻って馬で帰れるといいな」とアンドリュー殿下がにっこり笑った。
その笑顔についどきっとしてしまった。




