5.5話『神の呪い②』
「……ん?」
目覚めると、妙に床が近い。
いや、というか床とオレの顔の距離がゼロなんだが?
体を起こそうとすると、手足がカサカサと……なんだこの音。いや、なんだこの動き。いや、まさか...…そんなことあるわけ...…
「ロッキー、起きてたか」
振り返るとバカでかいゴキブリが元気よく話しかけてきた。
筋肉ゴキ。たぶん前回と同じやつ。
オレの身体は――黒光りしていた。あの忌まわしき八本足、羽根、触角。つやっつやのブラックボディ。
なぜか前回よりもムキムキになっている気がする。
.....うん。これはゴ◯ブリだね。
神の呪い、容赦なし。スパルタ育成、マジでやめて欲しい。
この地面の感じ.....もしかして畳?
「おい、ロッキーどうしたんだ?最近おかしいぞ?.....ちょっと弛んでるんじゃないか?俺が若い頃は……ウンタラカンタラ……」
この馴れ馴れしく話してくるバカでかい『G』の名前はゴキロウと言うらしい。
なんでも代々、台所を縄張りとしている親分的存在でオレの兄貴分らしい。
「今日も日課の見回り行くぞ。まずは冷蔵庫裏からな」
そう言って兄貴分であるゴキロウは隠れるように部屋の端っこを通って、冷蔵庫に向かって行った。
カサカサとうるさいな。だけど仕方なく兄貴分ゴキロウの後をついていく事にした……が、思ってた以上に速度が出て上手く曲がれない。部屋の隅っこでは無く、真ん中を通ってしまう。
「ば、バカ!そっちは..….」
くそっ、思った方向に進めない。とりあえず急いで冷蔵庫に向かうしかない。――瞬間。
「ちょ、え、ヤバ……マジ?Gいるんだけど!!!」
声が聞こえた。人間の女の声。しかも高めでキャピってる。
ギャルだ……!!!
オレが目を向けると、そこには現代日本のギャルが立っていた。
金髪プリン、ネイルキラキラ、ゴリゴリ化粧で盛りまつげにミニスカ制服。しかも、スマホ片手にオレを凝視している。
......今回はシマシマパンツか。
ギャルの割にかわいいパンツ履いてるんだな...…。
「ちょ、マジうけんだけど〜!?え、ウチの部屋、ゴキ出たんだけどォ〜!?!?」
あーあ、完全にオレ、ロックオンされてる……。
「てかヤッバ、イン◯タのストーリー案件じゃんwww」
はぁ!?このギャルイ◯スタのストーリーにあげようとしてんの!?誰がそんなの見るんだよ、バズってもお前の家が汚部屋だと炎上するだけだぞ!?
「オイ!ロッキー、なに止まってんだ早く逃げろ!!!!」
ピコッ、という音と共に撮られたロッキー。
「おい!撮ってんじゃねぇ!!!こんなのあげたら友だち無くすぞ!?」
「ママー!!ゴキおったー!!!早く殺虫剤ーー!!!てかマジ無理ィィ!!」
絶叫する女子高生ギャル!しかし、スマホは依然オレをロックしたままだ。
「だから撮ってんじゃねぇええ!!!」
「ロッキーさっきから何言ってんだ!?早く逃げないと『アイツ』がくるぞ!?」
ゴキロウのやつ......さっきからうるさいな。それに『アイツ』って誰だ?
そして、キッチンに現れたのは──
割烹着+軍手+サンダル履きで、右手に赤いラベルのゴ◯ジェットプロαを装備したおばちゃんだった。
「出たーーーー!!!ロッキー早く逃げるんだ!!!こいつに狙われたら骨も残らねぇぇぇ!!!」
ギャルの母親が昭和のオカンスタイルとかなんかすげー!!!いや、そんな事より早く逃げないと。
......くそ、逃げ場がねぇ。ゴキロウのやつ自分だけ安全な場所に隠れやがって...…許すまじ。
「はいはいはいはい、また出たのね〜。家に勝手に住んでる命知らずがァァァ!!」
シューーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
ウオォおおおおお!!!!ゴ◯ジェットプロαを噴射しやがった!?このままだと前回と同じ目に...…
オレは持てる力を振り絞って走った。ゴキロウを目指して全力で。
「ば、ばか、ロッキー!!!こっち来んじゃねぇえええ!!!」
「ママ殺っちゃって!てかヤバすぎ!動き早ッ!キモッ!キモキモッ!!!」
「うおーーー!」
オレは息が苦しくて目眩がするがゴキロウ目指して全速力だ。
「こ、こっち来んじゃねぇ!そりゃ掟破りだろ!?」
掟?知るかそんなもん。
「死ぬ時は一緒だ。兄貴分なんだろ?弟分を見捨ててんじゃねぇえええ!!!」
「逃がさないよ!」
シューーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!
ぐはぁ!?力が...…入らない...…
「フゥー!!ママ最高〜、やっぱウチのオカン最強ッしょwww」
「ロッキーーーーー!!!」
くそっ......ここまでか...…。
ガスに包まれた視界の中、オレは思った。
神様……もう遊ばないから……修行するから……お願いだからもうゴキブリなんかにしないで……
バァン!!!
最後は新聞紙の全力一撃を喰らって、オレの視界が真っ黒に染まる……
ビクンッと飛び起きる。
心臓バクバク。背中に冷や汗。
口からは「オンギャアアアア」と夢の名残の叫び声。
はぁ...はぁ....ここは?目覚めた瞬間、オレは確かめた。
……手足、四本。
……羽もない。
……触角も、ない。
……人間だ。よかった……っ!
神の呪い...…あれは酷過ぎる...…あれは夢だ。夢だってわかってる。
でも、あのギャルの「ママ殺っちゃって」って声がまだ耳に残ってる。……創造神かみさま、これは教育じゃなくてトラウマです。
そこに、ドアの向こうから巨乳メイドがやってくる。
「アレス様〜? 起きられましたか〜? そろそろお昼のお時間ですよ〜」
そう言って優しく抱き上げてくれた。
ふわふわの腕の中、あたたかくて柔らかくて……落ち着く。もう大丈夫。
「アレス様の大好きな奥様がもう直ぐ参られますからね〜」
そう言って微笑む巨乳メイドに、オレは力なく腕を伸ばして応えた。
……修行、ちゃんとやらなきゃな……。
…神の呪い――いや【教育的悪夢】がどれほどえげつないか、再確認した。そして、オレは静かに心に誓った。
“三度目のロッキー”だけは、絶対に避けると......。
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