第4話『修行』
「オギャー、オギャー!」
「アレス様、大丈夫ですか? 怖い夢でも見たんですか?」
「うー……」「うー……」
(……はぁ、はぁ……フィオナ……?)
目の前に広がるのは、安心感の塊である巨乳メイドの優しい顔。どうやら抱っこされているらしい。
──ってことは、さっきのは夢か。
それにしてもリアルすぎた。自分がカサカサと床を這いずり回る感覚。見上げれば巨人のような人間の足。
なんでよりによって“G”なんだよ!? ロッキーって誰だよ!?
……まさか、これが“神の呪い”の警告か?
『修行しないと虫にするぞ』ってこと? あの創造神、容赦なさすぎるだろ……。
まだ「うー」しか言えない赤ん坊に何を求めているんだ。児童相談所案件だぞ。まあ、文句を言っても相手は神だ。虫化ENDだけは絶対に回避しなければならない。
「私が来たからには、もう大丈夫ですからね〜」
フィオナが優しく抱きしめてくれる。ああ、癒やしの化身。
そこへガチャリと扉が開き、母親も入ってきた。
「あら? アレス、泣いていたの?」
「はい。どうやら怖い夢を見たようで」
「よしよし、おいでアレス」
巨乳メイドから母親の腕へ。
柔らかくて、温かくて、いい匂い。癒やし属性SSランクの二人に囲まれて、悪夢の恐怖が溶けていく。
──こんなに大切にしてくれる人たちがいる。
せっかく貰った第二の人生だ。虫になってたまるか。
オレはやるぞ。この癒やしパワーを糧に、今から最強への道を歩み始めてやる……!
◇
朝のバブバブタイム(ミルク)を終え、オレは小さく伸びをした。
ふぅ……。早速修行と行きたいところだけど、まずはあのヤバイ【神の呪い】をステータスから隠蔽しないとだな。
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【名前】:アレス・フォン・ヴァレンタイン
【レベル】:1
【種族】:人間(0歳)
【職業】:赤ん坊 / 辺境伯嫡男
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ひとまずこれでよしと。
あんなバッドスキルを誰かに見られたら、即教会に連行されて公開処刑待った無しだったわ。
それでは気を取り直してやりますか。
この世界には『天賦顕現の義』という、5歳で才能や適性を知る儀式がある。普通はそこから修行を始めるのが常識だ。
だが、オレには前世の記憶と、チートスキルがある。
(スキル《インターネット》──発動)
脳内にウィンドウが展開される。検索ワードは『異世界の魔法理論』。画面に表示された【インストールしますか?】の問いに、迷わず【はい】を選択。
――ピピピ……インストール開始。
あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!!!
頭が割れる! 熱い、重い、痛い!
数秒の激痛の後、冷たい水が染み渡るように“魔法の仕組み”が脳に定着した。
《スキル・インターネット:インストール完了》
……相変わらず副作用がキツイなこのスキル。
だが、結論は出た。
「今から修行しても問題ない」。むしろ、オレのような“意識のある赤ん坊”こそ、魔力回路を形成する黄金期らしい。
整理しよう。魔法の公式はこうだ。
『魔力』×(『イメージ』+『言葉』)=『魔法現象』
理屈はわかった。あとは実践あるのみ。
まずは基礎中の基礎、①【魔力感知】からだ。
オレは目を閉じ、呼吸を整える。
外界の音を遮断し、意識を己の内側──へその下あたり、丹田へ沈めていく。
(集中しろ……そこにある“何か”を感じるんだ……)
雑念を捨て、ただ呼吸のみを感じる。
すると、胸の奥にポウッと小さな“灯り”のような感覚が生まれた。熱くもなく、冷たくもない。けれど確かにそこにある、命の奔流。
──これか。
目を開けると、空気中に漂う青白い粒子が見えた。
窓は閉まっているのに、部屋の空気が微かに揺らいでいる。
「......あー.....」
(……マナ……)
『スキル【魔力感知】を取得しました』
おお、一発クリア! ワシ、天才か?
気を良くしたオレは、次のステップ、②【魔力操作】へ移行する。感じ取ったこの温かいナニカを、意図的に動かす訓練だ。
(まずは腹の下に力を入れて、内側の……こう、グッと……)
んぐぐぐ……出ろ、オレの力……ッ!
と、その時。下腹部に熱い塊が降臨した。
「………………」
「………………」
「………………ぶりゅ」
……ワシ、うんこ漏らしとる。
現実は非情である。
オムツ交換(屈辱)を経て、気を取り直して再チャレンジ。
今度は慎重に。
心臓から肩、腕、そして指先へ。
血管とは違うルートをイメージし、光の水を流すように魔力を巡らせる。
(通れ……通れ……!)
最初は詰まるような感覚があったが、何度か繰り返すうちに“栓”が抜けたようにスッと流れ出した。そのまま手のひらへ集め、皮膚の外へ押し出すイメージ。
……ふわっ。
手のひらの上で、淡い青銀の光が舞った。
さらにイメージを固める。霧散しようとする魔力を、見えない“殻”に閉じ込めるように──。
カッ。
直径10センチほどの光の球体が、オレの手のひらに安定して浮かび上がった。
「あーー!!!」
(っしゃあ!!!)
『スキル【魔力操作】を取得しました』
できた。できてしまった。
やはりこのボディ、魔法の才能に関してはSSR級だ。
さらに脳内にアナウンスが響く。
『スキル【詠唱術】を取得しました』
ん? 詠唱術?
まだ呪文なんて唱えてないぞ。
……そうか、前世の知識か。アニメやゲームで刷り込まれた「魔法とはこういうもの」という概念が、そのままスキルとして昇華されたのか。
だったら──あれもいけるはずだ。
一般には存在しないとされる幻のスキル、【イマジネーションロック】。
魔法の現象を、数値や物理法則レベルで鮮明にイメージする技術。
オレは天井へ手のひらを向けた。
(対象:天井。術式:ファイアボール。
直径10cm。赤色。初速10m/s。着弾温度300度──)
詠唱はしない。ただ、強烈なイメージだけで事象を固定する。名付けて【無詠唱】×【イマジネーションロック】のハイブリッド起動。
(──撃て!)
ドォン!!
手のひらから赤い閃光が走り、天井で小さな爆発が起きた。
焦げ臭い匂いと共に、天井に黒い煤がこびりつく。
「…………」
『スキル【イマジネーションロック】を取得しました』
『スキル【無詠唱】を取得しました』
……威力、ありすぎだろ。
たぶん一般の魔導士が詠唱して撃つより速くて強い。
0歳児が持ってていい火力じゃないぞ、これ。
ガチャ。
「あら? 何か音が……」
ヤバい、母親だ!
オレは瞬時に証拠隠滅(手足をバタつかせる)を図る。
「あー……うー」
(天井……バレてないよな?)
母親はキョロキョロしたが、幸い天井の焦げ跡には気づかず、オレを抱き上げた。
「あらあら、元気な声。お歌の練習かしら? 偉いわねぇ」
「あー」「あー」
(セーーーフッ!!)
◇
夕暮れ時。
母親の腕の中で揺られながら、オレはまどろみの中にいた。
窓の外には魔の森の影。
この世界は危険がいっぱいだ。神の呪いもある。
だけど、スタートダッシュは完璧に決まった。
見てろよ……絶対に生き残ってやる……
小さな決意を胸に、オレは深い眠りへと落ちていった。
***
【ステータス】(隠蔽なし)
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名前 :アレス・フォン・ヴァレンタイン
年齢 :0歳(3ヶ月)
種族 :半神
職業 :辺境伯嫡男
レベル:1
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【称号・加護】
[転生者] [神の使徒]
[創造神の加護] [地母神の加護]
【保有スキル】
・鑑定
・アイテムボックス
・魔力感知 (NEW!)
・魔力操作 (NEW!)
・詠唱術 (NEW!)
・無詠唱 (NEW!)
【ユニーク / EXスキル】
・インターネット
・言語理解
・神威降臨 (※未解放)
・神の呪い
・イマジネーションロック(NEW!)
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