第3話『スキル:インターネット』
ここまで辿り着いて頂きありがとうございます。
生き延びるために必要なのは――何より“情報”だ。
この世界がどんな場所で、誰が支配していて、何が危険なのか。わからなければ、赤子のままじゃ完全に詰みだ。
まずはスキル《インターネット》で、この世界について調べてみよう。
「あー!」(ステータスオープン)
ステータス内にある【インターネット】をタップすると、目の前にPCの画面が表示された。すると画面の中央に【異世界】と【地球】と書かれたアイコンが二つ並んでいる。
まずは【異世界】をタップ。すると画面が切り替わり、中央に長方形の入力欄が現れる。その右端には虫眼鏡のアイコンが描かれており、これが検索機能を示している。入力欄には「検索キーワード」と表示され、ここに調べたい言葉を入力することで知りたい情報を検索できるようだ。
「(えっと、検索ワードは……『この世界について』でいいのかな?)」
入力した瞬間、画面が切り替わる。
『エルディア大陸の基礎情報をインストールしますか?』
【はい】【いいえ】
インストール? ……まあいいや、とりあえず【はい】をタップ。
――ピピピ……起動確認。
スキル《インターネット》、初期接続完了。
――検索:「エルディア大陸 基礎情報」
――情報取得中……完了。インストール開始。
次の瞬間。
脳内を走ったのは電流……いや、“情報の奔流”だった。
信じられない量のデータが、オレの意識に直接ぶち込まれる。
エルディアの構造、各国の位置関係、通貨制度、魔法理論――。
まるで脳みそに直接USBメモリをぶっ刺されたような衝撃。
熱い。重い。痛い。
脳が、割れる……ッ!?
「……うっ、あ、ぐわああっ!?」
声にならない悲鳴を上げ、赤ん坊の身体が痙攣する。
許容量オーバーだ。脳が焼き切れる――そう思った、その時。
凛とした声が、脳の奥で響いた。
『ふふ……そのような事で脳が破裂する訳がなかろう? 妾が造りし“最も美しき器”よ』
それは高貴で、甘美で、どこか艶やかで。
音ではなく、魂に直接刻まれるような“詩”だった。
『妾は地を抱き、星を編む女神、ナルシア。
心せよ。人の世に混じりし時、汝は“人の理”で測られる。されど、汝の核は理にあらず。魔にすら測れぬ、神の尺度にて在る』
まるで星の囁きのように、声が全方位から降り注ぐ。
それは威圧でも命令でもない。創造主が我が子を愛でるような、絶対的な肯定。
『妾の贈り物、粗末にせぬように。……ふふ、よもや汝がどれほど世界を魅了するか、楽しみでならぬわ』
――星の間を渡るように、神の声はゆっくりと消えていく。
気づけば、頭痛は嘘のように引いていた。
代わりに残ったのは、冷たく澄んだ水が満ちるような感覚。
“世界の概要”が、オレの魂に完全に定着していた。
《スキル・インターネット:インストール完了しました。》
「……ふぅー……」
脳内を駆け抜けた嵐が去り、深く息を吐く。
視界に映る天井の木組みが、さっきまでとは違って見える。
――知ってしまったからだ。この世界のすべてを。
得た情報は膨大だった。
一般常識に関しては「高校卒業レベル」まで完璧に網羅されている。
国の政治・軍事・社会構造……果ては、知ったら命がいくつあっても足りないレベルの「国家機密」まで、脳内にファイリングされていた。
……このスキル、間違いなく“ぶっ壊れ”だ。
教科書を何百冊読んでやっと理解できる知識を、一瞬で叩き込んでくる。まさに情報の暴力。
けれど──このスキル、万能ってわけじゃないらしい。
しばらく触ってわかったが、この《インターネット》には致命的な弱点がある。
それは、「検索ワード(キーワード)」を知らなければ、答えに辿り着けないということだ。
例えば、『オレを殺そうとする敵』と入力しても、検索結果は『0件』。
まだこの世界で「確定した情報」として記録されていないことや、人の心の中にある「殺意」までは読み取れないらしい。
それに、もしどこかに宝が隠されていても、その『隠し場所の名前』や『関連する伝説』を知らなければ、検索しようがない。
つまり──
「犯人は誰?」と聞いても答えてはくれないが、「A男爵 裏取引 証拠」と入力すれば、過去の公文書から証拠を引っ張り出せる……そういうことだ。
あくまで《インターネット》は最強の“図書館”であり“地図”を与えるだけ。
「何を調べるべきか」という“問い”を見つけるのは、オレ自身の足と頭脳だ。
その道を実際に歩けるかどうかは、自分自身の努力と才能次第。
──だが、「地図がある者」と「ない者」の差は……とてつもなく大きい。
そして、その地図には余計なことまで記されていた。
知ってしまったのだ。この世界の「表」と「裏」を。
まずは、この世界の大枠。
大陸の半分は魔境扱いの「未開の地」。
残りの半分で五つの大国が覇権を争っている、まさに戦国時代だ。
ここまではいい。問題は、オレが生まれたこの国――「ザルディア帝国」だ。
表向きは「実力主義」を掲げる軍事国家。
だが、インストールされた情報によれば、その実態は……吐き気を催すほどの「差別と選別の国」だった。
魔力がない者や平民は「劣等種」として使い潰され、異種族に至っては「家畜」扱い。さらに裏では、人間を兵器に変える非人道的な人体実験まで行われているらしい。
……これ転生する世界間違えてない?
なんせ日本とは比べ物にならないほど、命が軽い。
ぼーっとしてたら、実験動物にされるか、最前線で肉壁にされるかだ。……知らなかったら、この世界で生きていけなかったかもしれない。
そして、極めつけがオレの立場だ。
ザルディア帝国・西方辺境伯、《ヴァレンタイン家》の嫡男。
帝国の最前線で魔物の侵攻を食い止める、由緒正しき武門の家柄なのだが……。
ここの家訓が、凄まじい。
家訓:「筋力は正義、考える前に叩け」
一族の信条は「筋肉は裏切らない」。
魔法? 技術? 知るか! 全部筋肉と打撃で解決だ! ……という、清々しいほどの脳筋一族だった。
オレは今、人生二度目の誕生からわずか三ヶ月──。
帝国の闇と、実家の筋肉に挟まれた赤ん坊として、ここにいる。
ただ、ひとつ言いたい。
──この転生ガチャ、大ハズレなんだが!?
お願い創造神、リセマラさせて!
ああ、てっきりファンタジー系のまったり無双を期待していたのに……。現実は、人体実験してる帝国に、脳筋の実家。難易度SSS級じゃねーか!
そんな現実に絶望していると、脳内で「ピコーン」と通知音が鳴った。恐る恐るスキル画面を開くと──画面の隅に、手紙アイコン。
《こちら創造神じゃ。神託は力を使うからメッセージで済ませるぞい。スキルで世界の状況はわかったじゃろ? そう、地球に比べてこの世界は命が軽い。だから、お主のために“脳筋貴族の家”に転生させたぞい(笑)ヴァレンタイン家で生き残るには強くなるしかないんじゃ。頑張れの》
「うー」「あー」
(は、はぁ!? 何言ってんだあの創造神!?)
何が(笑)だ! 全然笑い事じゃねーぞ!
それに「ヴァレンタイン家で生き残るために強くなれ」って、何それ? 世界より実家の方が危険ってコト!?とにかくクレームを送信しないと……!
ピコーン
《こちら創造神じゃ。メッセージは受信専用じゃから送信は出来んぞい。死にたくなければ強くなる事じゃ》
「うー!」「あー!」「うー!」
(ふざけんな創造神!!! リセマラさせろ!!!)
........あれ?
そーいやメッセージも送ってないし、声にも出してないよね……?
ピコーン
《こちら創造神じゃ。我に向かって『じじい』と言った事、忘れんからの》
「うーーーー」「あーーーーーー」
(聞かれてるーーー!!! しかもめっちゃ根に持たれてるんだが!?)
わざわざメッセージ送ってくるって……怖過ぎるだろ!!!
器ちっさ! ペットボトルのキャップよりちっさ!!!
ピコーン
《こちら創造神じゃ。修行を怠ったら悪夢を見る呪いをかけた。ペットボトルのキャップよりちっさい器の創造神より》
呪い!? 何それ!? 怖過ぎるんだが!?
とにかく謝罪しないと……!
えー、偉大なる創造神様。あらためて、深くお詫び申し上げます。今後は一歩一歩を大切に、驕らず、怯まず、しっかりと修行に励んでまいります。だから呪いとか言わないで!!!
ピコーン
《こちら創造神じゃ。わかればいいんじゃ。ちゃんと修行して強くなるんじゃぞ》
はい! 心を入れ替えて誠心誠意励みます!
《こちら創造神じゃ。うむ! 励むがよい》
……ふう。なんとか回避できたな。
創造神ってたまに怖いけど、意外と話せばわかるタイプ……ってことにしておこう。
さて、勉強もしすぎて脳がパンクしそうだし、修行は明日からにして一眠りするか。なんたってオレは赤ん坊。寝るのが仕事、食べて出すのがライフワークだ。
……ん?
ステータス欄に、見覚えのない項目が生えてる。
おそるおそる確認してみると……。
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【名前】:アレス・フォン・ヴァレンタイン
【レベル】:1
【種族】:人間(0歳)
【職業】:赤ん坊 / 辺境伯嫡男
■ EXスキル
【神の呪い】New
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「うー……」「あー……」
(しっかり呪われとるやないかーい!!!)
創造神……さっきの謝罪……全部ノーカンですか!?
……オレの転生ライフ、前途多難にも程がある。
悲しみの中、オレは意識を手放した……。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第2話、いかがでしたでしょうか?
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