B神社ー2
午前11時11分。
しん、と静まり返ったまま迎えたその時間だったが、特に何かが変化することもなく、午前11時12分を迎えた。
「……何も、起こりませんでしたね」
少し残念そうに、レインさんが言った。スマホで何度も時間を確認している。
そうこうしている間に、13分に変わってしまった。
「今度こそ、と思ったんですけど。狛犬ちゃんたちも、全然動く気配無かったですね」
ノコノコさんが狛犬を見つめながら言う。
私も「そうですね」と言って頷き、今一度狛犬を見る。先程までと一切変わっているところはなく、ただただそこに向かい合って座っている。
「結局、見てはならぬものって何なんですかね?」
私が尋ねると、レインさんとノコノコさんが口々に「異世界」「霊界」「地獄とか?」と言い合っている。ちょっと楽しそうだ。
「そういうのは、フワッと設定されているもんなんだよ。そうしたら、うっかり何かが見えた時、何とでも言えるだろ?」
圭が肩をすくめながら言う。
「そんなもんなのかな?」
「そんなもんだ。断定してしまっていると、万が一何か見えた時、違うじゃないかって言われてしまうし、フワッとしていた方がそれっぽい気がするじゃん」
それっぽい。
言われてみれば、そうかもしれない。
地獄だとしたら絶対に見たくないし、異世界だったらちょっと見てみたい。だけど、何か分からなかったら、もしかしたらという好奇心でじっと見つめてしまうかもしれない。
「圭君も、何も感じなかったのかい?」
「何も感じない。感じはしないんだけど、なんというか」
歯切れが悪い。
何も感じないと言いつつ、何かしらは感じ取っているのかもしれない。
「何か気になることがあるとか?」
「そもそも、何でこの神社なんだ? と思って」
圭がそう言った瞬間、ノコノコさんとレインさんが揃って「え?」と聞き返した。
「何かこの神社に、曰く付きみたいなことでもあんの?」
圭の問いに、レインさんが「曰くというか」と言葉を続ける。
「この神社で、人を恨んで呪いを行ったっていう話を聞いたことが」
「私も、それに似た感じの……神社に千回参って、親の敵を討ったとか」
ノコノコさんも続ける。
それらを聞いて圭が「だけどさ」と言葉を返す。
「そこら辺の話って、根拠がないだろ? 何処にでも転がってそうだし、後で取ってつけたような話にも聞こえる。いきなり俺が『この神社で、殺人事件が行われた』とか言い出しても、真実かどうかなんてわかりっこないんだ」
「殺人事件だったら、調べたら出てきそうだけど」
私が反論すると、圭は鼻で笑う。
「表に出てないだけとか、事件の記録が残らないほど昔の話とか、どうでも言えるじゃん」
なるほど。
確かに、やれ異世界だとか、怨念だとか、そういうものよりも説得力がある。
「それでもさ、この神社が手順の中に組み込まれている。事前に調べた資料の中には、この神社に似ている神社が、近所に2,3件ある。どこも徒歩圏内だし、狛犬だっている。同じような都市伝説が流れていてもおかしくない。それなのに、手順に組み込まれているのは、このB神社だ」
圭はそう言うと、頭をがしがしと掻く。
何かしらのとっかかりがあるのに、上手く線で繋がらない。そんな風に見えた。
「ともかく今日は余計な事をせず、当時と同じ手順を辿る。だけど、何かしら気付いたら教えてほしい」
ノコノコさんとレインさんが「分かりました」と頷く。
圭が「じゃあ、行くか」と声をかけた瞬間、ノコノコさんが「あ」と声を出し、小走りで神社のお賽銭箱に小銭を入れ、パンパンと柏手を打った。
「ありがとうございました」
ぼそ、と呟く声が聞こえた。
見つかったキーホルダーの礼を言っているのだろう。
その時、ぶわ、と風が吹いた。
穏やかな天気の中に吹いた風が、今いる神社という場所も相まって、なんとなく神秘的なような気がした。




