E地点ー3
「おっさん、厄を寄越せ」
圭が私の方を見て言う。目が座っている気がする。
「それは構わないんだけど……一応聞くけど、どうするつもりかな?」
「回線たどって、引きずり出す」
「それって、大丈夫なやつなのかい?」
「スマホと俺はあまり大丈夫じゃない」
圭の言葉に、レインさんの顔が青ざめる。ついでに私も青ざめる。
「ほ、他の方法を探さないか?」
「他の方法つったって、返品不可、修正不可って言われてしまうと、あとは力づくでねじ伏せるくらいしか思いつかない」
私よりも、こういう不思議現象に対応している経験が高いはずなのに、辿り着いた答えが「力づく」って。
「もっと穏便な方法を……」
私がそこまで言った瞬間、メッセージの通知音が響いた。
『そもそも、意味をなさないのです』
「は?」
メッセージを見て、圭が怪訝そうに言い放つ。
「なんだよ、意味をなさないって。歪んだまま固定でもされたのかよ?」
『特典によって、歪みは修正済みです。よって、意味を成しません』
「あ」
メッセージを見て、思わず私は声を上げる。
私が、願ったんだ。
B神社で、私が「タケさんが治りますように」と、願ったじゃないか!
「おっさん……まさか」
「ええと、うん。B神社で参拝した時、せっかくだからって。だけど、それが特典になるとか思っていなくて、その」
圭がつかつかと私に近づき、ばし、と強く背中を叩いた。
痛い。
「おっさん、ナイス!」
褒められて嬉しいけれど、痛い!
『他に話したいことがなければ、特典を終了します』
メッセージがそう告げてきた。圭は少し考え、口を開く。
「特典は、何度でももらえるのか?」
『いいえ、一人一度限りです』
「ということは、もうレインさんとノコノコさんには特典は渡されないということか」
『その通りです』
「で、俺が対話を終了すれば、もうこうして直接話す機会は無い訳だ」
圭は「うーん」と唸った後、静かに告げる。
「都市伝説についての投稿を消すことは、可能か?」
『不可です。あなたへの特典は、現段階を以て与えられています』
「だよなぁ。……わかった。対話を終えていい」
『分かりました。この度は都市伝説巡りをお楽しみいただき、ありがとうございました』
メッセージはそう締めくくり、消えた。
文字通り、先程まで確かに表示されていたトークルーム自体が消えてしまったのだ。
「立つ鳥跡を濁さずって感じだな」
苦笑交じりに、圭が言う。
「圭君、どうするんだい? 都市伝説の投稿を消してほしそうだったけれど」
私が言うと、圭は「ああ」と言って笑う。
「誰かにやってもらって、その特典を投稿削除にしてもらえばいい」
圭の言葉に、レインさんとノコノコさんが同時に「え」と声を上げた。
「け、消しちゃうんですか? こんな、凄い都市伝説を!」
「私、初めて……初めてこんな出来事に遭遇したのに!」
二人が口々に言うが、圭は「だってさ」とため息交じりに言う。
「おそらく、あの特典ってやつはおおよそのことを叶えてしまう。一人一回限りってことは、一度起こったら二度と取り消されない。それこそ、こういう依頼でもなければな」
圭の言葉に、二人ははっとしたような表情をした。
タケさんのことに、思い至ったのであろう。
特典を与える方に、善意も悪意もないと圭は言っていた。それはつまり、これから先タケさんのように取り消したいのに取り消されない願い事をしてしまう人が現れかねない、ということなのだ。
「今回は、依頼があったから俺らも対処できた。おっさんがタケさんの回復を願わなかったとしても、改めて俺らのような存在が行動すればいいだけだ。だけど、次は同じようにうまくいくとは限らない」
一人一回だしね。
「なら、最初から懸念材料は消しておくに限る。こういうのは噂によって、広がっていくものだから」
完走特典で願い事が叶う都市伝説ラリーなんて、やる人が続出するに決まっている。
ユーチューバーのような表舞台の人から、ひっそりと叶えたい願を持つ人まで、様々な人が。
中には、取り返しがつかない事も厭わずに行う人も出てくるだろう。
レインさんとノコノコさんが顔を見合わせる。
それぞれが、圭の言葉をかみしめているように見えた。
「シンさんって、何者なんですかね?」
ぽつり、とノコノコさんが言った。
圭はB神社に関わるものとは言ったけれど、じゃあ何者なんだ、と疑問に持っておかしくない。
「おそらくだけど、B神社に祀られているものか、祀られてほしいと願うものだと思う。実際、この都市伝説巡りによって、B神社は人が訪れる神社となっていたし、人の願いを受け止めるものになっていたから」
「神社って、そういう力があるものなんですか?」
レインさんの問いに「さあ?」と圭は肩をすくめる。
「願ったり祈ったりっていう行動は、なんらかの力を生み出しやすい。神社というものは、存在自体がそういった力を集めやすい場にはなっていると思う」
「そういう力って、集められるものなんですね」
「俺には、本当に神がいるのかどうかなんてことは知らないし分からないけど、集めることができる存在が『いる』ことは知っている。今回のやつも、そういう類のやつなんだろうな」
圭の言葉に、レインさんが感心したように「なるほど」と頷いた。
うん、不思議だよな。私も、そういう不思議な存在がいるっていうのが、不思議だったから。
我々が答え合わせのようなことをしていると、突如圭のスマホが鳴り響いた。圭は「ちょっと悪い」と言って、着信に応じた。
しばらく話をし、私たちの方を見てにかっと笑った。
「タケさん、体力が落ちてしまって眠ってしまったけれど、元に戻ったっぽいって」
圭の言葉に、レインさんとノコノコさんは「よかった」と、安心したように口にした。
もちろん、私もほっとした。
そんな私たちを見て、圭は再びスマホを持っていない方の手で私の背を叩いた。
「おっさん、やっぱりナイス」
嬉しいけれど、やっぱり痛かった。




