E地点ー2
目的の記念碑は、公園の奥の方にひっそりとあった。
広場からも遊具からも離れているので、やはり大人数で検証したとしても他の人から邪魔になることはないだあろう。
圭から「巡りやすさ、検証しやすさ」という話を聞いてからだと、こういう捉え方ができる事を改めて思い知らされる。
「路面電車記念碑……前に見たのと、変わりませんね」
ノコノコさんが呟くように言う。
「じゃあ、ゴールってことで」
圭は言い、ぱん、と強く柏手を打つ。
誰もいない公園内に、澄んだ音が響き渡る。
「我は汝との対話を求める者なり」
静かに圭が言い放つ。
すると、レインさんとノコノコさんのスマホから、通知音が響いた。
二人は慌ててそれを確認し、同時に息を呑む。
「返事、来た?」
圭が尋ねると、レインさんとノコノコさんが頷き返した。レインさんが自分のスマホ画面を圭に見えるようにし、それを見たノコノコさんが自らのスマホの画面を私に見せてくれた。
画面に表示されているのは、オープンチャット内にあるトークルームだった。そこにはノコノコさんとレインさん、そしてシンさんの三人だけが参加しているようになっている。
そこにシンさんの『何の用でしょうか?』というメッセージが書き込まれている。
「仮説が成立してよかった」
ふう、と圭が息を吐きだした。
レインさんは信じられないように何度も顔を振った後、ぽつりと「すごい」と言葉にする。
「すごい、どうしてこんなことに? 一体、どうやって?」
「どうもこうもない。俺は、ゴールの特典を使っただけだから」
「ゴールの特典?」
「スタンプラリーというか、都市伝説ラリーの」
私の疑問に、圭はあっさりと返した。
というか、都市伝説ラリーって。
「お前、B神社で祀られてるやつか、それに関わるものだろう?」
圭が言い放つと、メッセージが反応する。
トークルームに圭は参加していないし、打ち込んでもいないのに、シンさんから『なぜ?』というメッセージが書き込まれる。
「B神社が起点になっているから」
圭の言葉に、メッセージは反応しない。
代わりに、疑問に思ったらしい我々三人に向かって、圭が説明する。
「妙に具体的なのが、B神社の都市伝説だった。並び時間ってことは、0時0分、1時1分っていくけど、結局そんな真夜中に回るとは思えない。……いや、いるかもしれないけど、オフ会ってなると、そんな真夜中に回るとは思えない」
それは、確かに。
「でもって、最後が11時11分だ。12時12分となると、もう数字が並んでいない。となると、オフ会で回りやすいように設定されるとしたら、9時9分か11時11分」
「あ、本当ですね。私、一時間に一度くらいあると思ってました」
圭の指摘を受け、ノコノコさんが気づいたように言う。
「10時10分も、並んでいないのか。確かに、1と0と混じってますね」
なるほど、と感心したようにレインさんが言った。
「でも、午後1時11分とか、午後2時22分とか、午後になったらまた出てくるけど」
「午後ってつく時点で、該当するか怪しくならないか? 検証するって言ってるんだから、確実な数字をとるんじゃね? 13時11分だとされたから、不思議なことが起こらなかった、と思う方が面倒くせーじゃん」
なるほど。
圭はきっちり私の疑問にも答えてくれた。
そうだよな、検証っていうくらいなんだから、確実に該当する時間で確認するよな。
「で、11時11分を採用させるために、Aビルの都市伝説を据えたんだ。そうすれば、9時9分にB神社に行こうなんて思わないから」
確かに、Aビルが入ることで9時9分に神社に行こうと思う人は、ぐっと減りそうだ。
「そうして、あとは適当に、人が集まっても困らない場所を選んでいった。で、全部回りきった奴には、ちょっとした特典を与えてやってたんだ」
「ちょっとした特典……?」
ぽつりと首をひねるレインさんの方を、圭はスマホ画面から目を離して見る。
「レインさんは、くじで一番欲しいものを一回で当てたんだろ?」
「あ」
レインさんが思い当たったように声を上げる。
「ノコノコさんは、なくしていたキーホルダーを見つけた」
「確かに、そうです。神社で参拝したご利益だと思ったけど」
「参拝したご利益なら、参拝した人にだけ起こるはずだ。けど、レインさんは参拝してなかった」
私は納得し、そして気付く。
「なら、タケさんは?」
「タケさんなら、特典をもらってるだろ。不思議な体験をしたいと本気で思い、都市伝説に真剣に向き合っていた。だからこそ、自身が不思議な体験をしている」
あ、と私は声を上げる。
タケさんの身に起こってしまったおかしなことは、スタンプラリーならぬ都市伝説ラリーを完走したことの、特典だったのか。
「だけど……ちょっとひどい気がするけれど」
「この手の類に、ひどいも何もない。不思議な体験を一人にだけさせるためには、他の人が関わらない事、つまりタケさん自身に起こすしかない」
「そうはいっても、今タケさんは困ってるんだろう?」
「喜んでいるようには見えなかったけど、特典を与えた方は望みささやかな望みを叶えてやっただけだ。そこに善意も悪意もない」
あっさりと言いのける圭に、私は思わず「そうだけど」と返してしまった。
なんだか、納得がいかない。
せっかくの、完走した特典なのに。
「そもそも、だ。本来のスタンプラリーだって、別に嬉しいものがもらえるとは限らないだろう? 人によっては嬉しいものも、他の人にとってはいらないものだったりする。望んでもらったものだけど、やっぱりいらなくなったりもする。そこには、善意も悪意もない」
圭に言われ、ようやく「確かに、そうかもしれない」と頷いた。
頑張った結果、手に入れたものが嬉しいものではなかった、という経験は、大なり小なり私にもある。
今回はたまたま、都市伝説ラリーだというだけで。
「ちなみに、事前調査をした浄華の者も、全員なんらかの『特典』を受け取っている。言われて初めて気づくような、些細なもんだったらしいけど」
「いつの間に確かめたんだい?」
「噴水からバス停に行く途中に、電話して確かめた」
そういえば、電話をしていたかも。
『それで、私がB神社に関わるものとして、どうしたいんですか?』
圭の回答を否定することなく、メッセージが入る。
おそらく、正解しているのだ。
この都市伝説巡りが作られたもので、完走特典を与えているのだと。
「タケさんへの特典を、取り消してほしい」
『あれはもう、差し上げたものです』
返品不可、か。
だけどそれでは、タケさんは元に戻らない。
「何かの力が作用しているわけでもなく、ただ少し歪ませているだけだ。その歪みを正してほしい」
『もう私の手を離れています』
「ああ、もう、面倒くさいな」
がしがしと圭が頭を搔いた。
なかなかに手強い相手だ。何せ、圭が力づくで解決へと導けないのだから。
相手は、スマホを通じて話しているだけだし、姿も見えない。
「あの神社、ぶっ壊したくなるな」
はは、と小さな声で圭が呟いた。
その物騒な言葉に、私たち三人はぎょっとして圭の方を見た。
割合、本気の目をしていた。




