E地点ー1
気づけば、公園入口まであと少しのところにいるというのに、足を止めてしまっている。
圭の投げかけた「巡りやすそうって、何?」という言葉に対し、私たちは何も答えられずにいた。言葉も出ないし、足も動かない。
時が止まる、とは、こういうことを言うのかもしれない。
「とりあえず、公園行って話そうか」
圭はそう言い、すたすたと公園に向かって歩き始めた。私とレインさん、ノコノコさんも、はっとして後を追う。
道路の真ん中に、四人も立ち止まっているのは通行の邪魔になるかもしれない。
無事、足を動かすことができてよかった。
そうして辿り着いた公園には、私たちの他に誰もいなかった。
多少の遊具もあるが、昼過ぎくらいの時間なので、遊ぶ子どもも散歩する大人もいない、ちょうどよい時間なのだろう。
「さっきの続きだけどさ、ずっと考えてたんだ」
公園をぐるりと見まわしてから、圭は口を開く。「すごく上手くできてるなって」
「上手くできてるって」
「だからさ、歩いて巡って検証してってのが、凄くやりやすい。手軽にできるし、長い時間もかからない。それぞれに都市伝説があるから、それぞれの検証だけを個別にやりそうだけど、最後にこの『全て巡ってから記念碑に来る』があるから、大体は全部回ることになる」
私の言葉に、圭が続けた。
そして圭の言葉に、レインさんが「確かに」と頷きながら口を開いた。
「全部回っても苦になる程じゃないから、軽い気持ちで巡りやすいですね」
「しかも、今日全部回ってみて思ったけどさ、大人数で巡っても困らなさそうだよな」
圭が言い、私は思い返す。
Aビルは、それなりに大きな建物だ。しかも、リサイクルショップが入っている事もあり、エレベーター自体が小さくない。
B神社は小ぢんまりとしているとはいえ、基本は神主などがいない無人の神社だ。それでも正月などの行事に人が来ることを想定しているため、広場がちゃんとある。
C駅前噴水は、それなりに広い場所に設置されている。しかも、駅を利用する人の邪魔にならない場所にある。
Dバス停は、駅から近いバス停だった。近隣住民以外は殆ど使われないだろうし、そもそもB神社の午前11時11分の検証を終えていたならば、ちょうどバスの本数がぐっと減ってしまっている時間だ。
そして、E地点の記念碑があるのは、公園。
どの場所も、検証を行う人が周りに迷惑をかけない状態になっている。
あまりにも大人数だったら、多少は影響するかもしれないけれども。
「本当だ……巡りやすい上に、検証しても迷惑にならないようになってるんだ」
私が言うと、ノコノコさんが「本当!」と感心したように声を上げた。
「じゃ、じゃあ、これって別に都市伝説でもなんでもなくて。作られてるものってことですか?」
「都市伝説自体は、誰かが作り上げているものだとは思う。だけど、なんていうか……今回の都市伝説巡りって、巡ること自体を目的に作られている都市伝説って感じがするんだよな」
圭に言われ、確かに、と頷く。
本来、都市伝説は誰かが言い出した「噂」のようなものだ。
その噂が現実味を帯び、都市伝説として定着する。そこまでは納得できる。
だけど、今回検証したものは、誰かが言い出した噂とかそういうのではなく、誰かに巡らせるために定着させたような作為的なものを感じる。
「じゃあ、シンさんがオープンチャットメンバーに巡らせるために、この都市伝説を作り上げたってことですか?」
「俺は、そう思う」
「で、でも、この『後藤』さんって人も、この都市伝説を知ってるって」
「そんなの、誰かに頼めばいいじゃん。ともかく、二人以上が知っていればいいっていうルールなんだから。なんなら、今ここでノコノコさんが何かの都市伝説を書き込んで、そのままノコノコさんとレインさんが知ってるようにすればいい。それで、都市伝説として成立するんだから」
レインさんとノコノコさんの言葉に、圭が冷静に返していく。
二人は顔を見合わせ、なんとか反論を探しているようにも見えた。
二人とも、都市伝説が好きなんだ。
それに、今日初めて会った私と圭よりも、ずっとネット上とはいえ、やりとりをしていたシンさんを信じたい気持ちの方が大きいだろうし。
私はそこまで考え、ふと気づく。
「それなら、なんでタケさんはおかしくなったんだ?」
私の言葉に、はっとしたようにレインさんとノコノコさんが圭を見た。
元々、タケさんがおかしくなったからされた依頼だ。
シンさんが作った都市伝説ならば、タケさんがおかしくなるはずがない。
「そこだよな。だから、一つの仮説を立ててみた。で、その仮説の検証をしようと思う」
圭はそう言い、ぐい、と記念碑を指し示す。
「ゴール、してみようぜ」
検証というには、あまりにも軽いノリだった。




